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朝食を食べ終えると、すぐに自分の部屋に戻る。朝の一件があったせいで、お母さんと顔を合わせているのがつらかった。

部屋に入ると、何も考えずに勉強机の椅子に座ってみる。そういえば勉強をちっともしていない。ただでさえ悪い成績が、もっと落ち込んでしまう。

数学なんてきっと新しい分野に入って、わたしの知らない公式をみんなは勉強しているだろう。

壁にかけられた制服、濃紺のブレザーとプリーツスカートが、埃っぽく見える。先週の今頃は、まだ、あの服を着て学校に行っていた。

机の上でほおづえをつく。


どうして学校になんて、行かないといけないんだろ。


ふと、机に置かれたプリントに目が留まった。昨日、宇垣くんが持ってきてくれたプリントだ。ぱらぱらと手にとってめくっていくと、学年通信が混じっていた。

学年通信は、ときどき朝のホームルームで配られるプリントで、各部活動の成績や行事の反省、学年主任の先生の言葉とかが載せられている。

六月からは衣替えなので冬服の着用はできなくなる。そういう趣旨の項目があった。


そっか。

もう衣替えの時季なんだ。


あの冬服も、あと少ししたらクリーニングに出さなければいけない。あと何回、冬服を着るのだろう。もしかしたら、このまま冬服とはお別れになるかもしれない。

学年通信の裏面を見てみる。

学年主任の先生が書いた文章が載っていた。そこには、近所の住民から寄せられた、生徒の良い行いが十個記されていた。

文章の最後は

『文武共に優秀で、心の優しい生徒たちばかりいること。これが本校の誇りです。これからも清く正しく行動して欲しい』

という文で締めくくられていた。

悔しかった。

こんな文章、大ウソだ。

心の優しい生徒たちばかりだなんて、よく書ける。

学年主任の先生は、何も知らない。

みんな、良い生徒を演じているだけで、本当はその正反対だ。いじめている人もいれば、いじめを見ないフリしている人も大勢いる。

清く正しい人達とは、とてもじゃないけど、言えない。

先生だってそうだ。

担任の戸塚先生だって、わたしがいじめられていても、何も言わない。彼女たちに注意するどころか、わたしに「大丈夫か?」の一言もかけてくれない。

以前、どこかで、学校は社会の縮図だと聞いたことがある。校則というルールがあって集団生活をする場所だから、そんなふうに例えられたのだ。

でも。

もし本当に、学校が一般社会と同じようなモノなら、わたしはそんな社会では生きていきたくない。

だって、いじめをしちゃいけないっていうルールを、生徒も先生も破ってるんだから。弱者を見捨てて自分たちの都合のいいことにしか目を向けないような社会は、絶対に間違っている。


それとも、大人の社会なんて、そんなものなのかな……。


矛盾だ。

社会も、学校も、矛盾に満ちているようにしか見えない。

「一時間目は……国語だったっけ」

机を保護する透明カバーの下に敷いた時間割を見て、確認する。火曜日の一時間目は、国語。

カーテンの開けられた窓の向こうに目をやった。

他の家の屋根があって、その頭上に晴れた空が広がっていた。


宇垣くんは、いま国語の授業を受けてるんだ。


この空の下で学校に行っているクラスメートのことを思う。

ふと、疑問が湧いた。

――どうして、彼は学校に行ってるんだろう。

そんな、素朴な疑問。

訊いたら笑われてしまうだろうけど、どうしてか気になった。

もし尋ねたら、彼はなんと答えるだろう。

友達に会うためか。

それとも、勉強のためか。

「ねぇ、宇垣くん……どうして?」

机に突っ伏して、彼からもらったプリントに頬を押し当てる。

彼の声はもちろん聞こえない。

代わりに、遠く離れた学校のチャイムが、聞こえたような気がした。


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