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宇垣くんが帰って行って一時間もすると、階下からお母さんに呼ばれた。

パジャマ姿のままでリビングへ行くと、お父さんがもう帰ってきていた。

「おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

食卓の席に座る。

斜め向こうの席のお父さんは、なんだか珍しく不安げな表情をしている。

「母さんから聞いたんだが、今日もクラスの人が見舞いに来たそうだな」

「うん、そうだよ」

「なぁ、真純。正直に答えて欲しいんだが……」

改まった物言いに、わたしは自然と身構えた。

「……うん。なに?」

お父さんは一呼吸置いて。

「今日、見舞いに来た男と、付き合ってるのか」

「――え?」

「や、先週の金曜日に成績表持ってきてくれたのは、まあ、たまたまだったのかもしれないが。二回も同じ男が来るというのは、その、なんだ、怪しいというかなんというか……」

もぞもぞと言葉に詰まるお父さん。

勘違い、されていた。

「ち、違うよ! 宇垣くんはただのクラスメートで、そんな、付き合ってるとかじゃないから!」

「そうなのか?」

お父さんの顔に笑顔が戻ってくる。

「じゃあ、その、宇垣くんが真純のことを好きとか……」

「それもありえないって! そんな、話したこともあんまり無いんだから」

「そうか」

満面に安堵の笑みを浮かべて、お父さんは頷いた。

わたしと宇垣くんが付き合ってるとか。

宇垣くんがわたしのことを好きだとか。

ひどい勘違いだ。わたしと彼とでは、とてもじゃないが釣り合わない。もちろん、彼の方が上、という意味で。

「すごく礼儀正しい男の子なのよね、宇垣くんって」

キッチンからお母さんが出てきた。コーンスープの注がれた皿を両手に持っていた。その皿をテーブルに置きながら言う。

「ひょっとして、真純が宇垣くんを好きなんじゃない?」

「なにぃ!?」

わたしよりも、お父さんが驚いた声をあげた。

「真純、そうなのか!?」

「え……べつに、好きとか、そういうのは無いよ。ただ、勉強できてすごいなって思うぐらいで」

お父さんはまた心配そうな顔になっていた。

あーぁ、と内心でため息をつく。


お母さんがヘンなこと言うから……。


お父さんは何か言いたげだったけど、すぐに食卓に料理が並べられ、夕食になった。今日はなんだか食欲があったので、すぐにご飯もおかわりしてしまう。

空になった茶碗をお母さんに差し出すと。

「あら、今日は久しぶりによく食べるわね」

「うん。なんだかお腹へっちゃって」

「そう……いっぱい食べなさいよ。この頃、真純ってば小食なんだから」

ご飯を盛ってきてくれたお母さんは、すごく嬉しそうだった。

と、お父さんのほうを見て不思議そうに言う。

「あら。父さんは、おかわりしなくていいの?」

「……食欲が出ないんだ」

いつもはあっという間に茶碗を空にするお父さんにしては、珍しかった。もしかしたら、わたしが宇垣くんのことを好きだと思って落ち込んでいるのかもしれない。

そんなのは誤解なんだけど、あえて解かずにしておいた。なんとなく、そうしておきたい気分だった。

「おかわり!」

昨日までのわたしがウソだと思えるくらい、今日はたくさん食べることができた。

きっと、宇垣くんのおかげ。

心と体が密に関係しているというのは、どうやら本当らしい。どちらかが不健康だと、もう片方も病んでしまう。

今までわたしの心は元気が無かったから、体のほうも食欲を無くしていた。けど、今は違う。彼から元気をもらって、無理せずともたくさん食べれるようになっていた。

ご飯が、久しぶりに美味しいと感じた。

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