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帰り道はいつものように途中まで冬園と一緒だった。
「じゃ、また明日な」
「うん。おやすみ」
いつもの道で彼と別れて、一人で帰途につく。
自転車のペダルを漕ぎながら、智秀はひときわ大きく息を吐き出した。
冬園が羨ましかった。勉強ができなくても親にそこまで酷く言われない彼が。
宇垣智秀の親は、たとえ一位を取って帰ってきても、なにかと怒る。「もっと勉強しろ」「もっといい点数を取ってこい」……どれだけやっても、父の口からは〝もっと〟という単語が出てくる。
勉強なんて本当はやりたくない。けど、親がやれと怒るから、仕方なくしている。塾だって、そうだ。親に行けと言われたから通っているに過ぎない。
自分の意志でやっていることなんて、何一つ無いのだ。
歯痒い。
親に成績について叱られる時、いつも悔しくなる。自分は父親を満足させるために勉強をしているわけじゃない、と。どれだけ口答えしたいことか。
そして、もっと悔しいのは、そう思っていても実際に言えていない自分だ。
思っているだけで、何もしていない。
何もできていない。
赤崎さんのことと、同じだ。
僕は……いじめを止めないとと思っていながら、結局は遠くから見ていただけじゃないか!
勉強も彼女のことも。
全て周りに流されている自分。
そんな自分が、何よりも嫌いになる。
勇気が欲しい。周りに押し流されず、自分の気持ちを優先する勇気。
自信が欲しい。自分の気持ちは間違っていないと公然と言える自信。
その二つを誰かに与えて欲しかった。
自信や勇気を人に求めるのは、卑怯?
自分の手で掴み取らないとダメなのか?
だとするなら、僕は……ずっとこのままだ。
車輪の回る虚しい擦過音が、夜道に小さな尾を作っていく。
勇気と自信。
誰が与えてくれるのだろう。
父や母には期待できない。親は無駄なことに意識を集中させるなと言って話を聞いてくれないだろう。
友達や教師も、おそらく真剣に取り合ってはくれない。それに、彼らも宇垣智秀と同じようなものなのだ。彼らに求めてもしかたがない。どれだけ親しい友人にも、求められない。
どうすれば……。
その時。
耳朶に彼女の声を聞いたような気がした。
――青樹、叶さん!
テスト中に解法を閃く時と同じように、唐突にその人のことが頭に浮かんできた。
青樹叶。
今日、出会ったばかりの、女子高生。
教会に住んでいる、不思議な魅力の人。
そうだ。
あの人なら、もしかしたら。
もしかしたら、何かを与えてくれるかもしれない。
根拠も何もないのに、確信だけがあった。
彼女はきっと自分の求めるものを持っていて、それを授けてくれる、と。




