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朝なんて、来なければいいのに。
部屋に差し込む朝陽を浴びながら、わたしは今日も思う。
朝が来ると、学校へ行かないといけない。そんなことなら、いっそ世界はずっと夜のままでいい。本気で、そう思う。
「真純、朝ごはんできたわよ」階下から投げられた母の声。わたしは、ベッドに座ったまま「はーい」と普通に返事をした。
本当は、学校になんて行きたくない。けど、行かないといけない。
嫌だな……。
パジャマから制服に着替える間、わたしはずっと暗い顔をしていた。けど、それも部屋を出るまで。
階段を下りて、リビングダイニングに入ったらニコッと笑顔を作って、お母さんと「おはよう」を交わす。お母さんにも、お父さんにも、わたしの気持ちは知られたくない。学校へ行きたくない、なんて気持ちは秘密にしておくべきものだろう。
食欲なんて無い。けど、怪しまれないように、トースト一枚をムリヤリ飲み込んだ。気持ちが悪かった。
「行ってきまーす」
家を出る時まで、わたしは笑顔をずっと浮かべていた。
玄関から外へ出たところで、ようやく感情と表情が繋がる。鏡が目の前にあったら、きっとわたしはこの世の終わりのような顔をしているに違いない。
学校までの道程は長く、手に持った鞄は重く、感じる。
まるで何かの罰を受けているような気がしてきた。悪いことをしてしまって、その償いとして、この道を歩かされている。そんな錯覚。
下ばかり向いていたわたしは、信号で立ち止まった時、ふと空を見上げてみた。
五月中旬の空は、わたしの気持ちとは正反対に、雲一つなく晴れ渡っていた。