そのじゅう
夕日が差し込める病室。
カナカナカナ、と鳴くヒグラシは、夏の終わりを予言しているかのようだった。
夏と同時に、不思議な出来事の全てが終結する。
少女は母親と仲違いをしていた。
少年は家族と平和に時を刻んでいた。
少女は死神に出会った。
少年は天使に出会った。
少女は死神に母の死を告げられた。
少年は天使に己の死を告げられた。
少女は少年と出会った。
少年は少女と出会った。
少女の母親は死んだ。
少年も死へと向かった。
少女は運命に抗った。
少年は生きることへの希望を捨てなかった。
死神は消えた。
天使は去った。
少女は日常へと帰る。
少年は新しい人生を歩みだす。
少女は待つ。
少年が目覚めるのを。
少年が目覚めて。
少女の物語がようやく完結する。
少女は待つ。
少年が病室で何事もなかったかのように目を開けるのを。
「……よう」
その時は、案外あっさりと訪れる。
「うん……」
少年は声をかける。
少女は微笑む。
「おはよう」
「おはよう」
「おそい……」
「……わるい」
少女は声を交わす。
少年は声を交わす。
「なあ」
「うん」
少年は語る。
少女は頷く。
「俺、お前のことが好きなんだ」
少年は告げる。
「知ってる」
少女は小さくはにかむ。
「あたしも」
少女は答える。
そして。
紅く照らされた白い病室で。
「大好きだよ」
少女はそっと顔を寄せる。
少年はそっと瞳を閉じる。
赤く照らされた病室で。
二人の影が、重なった。
そこから始まる、二人の新しい物語。
人間と死神と天使の物語は。
二人の恋人の物語へと引き継がれる。
「ずっと一緒だよ」
「……おう」
少女は。
少年は。
幸せになった。