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舞踏会

作者: WAIai
掲載日:2026/09/11

仮面舞踏会。

華やかな中に秘密が隠されているようで、何だが緊張する場。

皆、ドレスを着、たくさんの華達がくるくると舞っている。

相手はもちろん正装した男性で、華を捕まえるように優しく、柔らかく、扱っていく。

互いの顔は全てではないが、見えない。

しかし10代から20代くらいの人間が集まって、笑い声や喋り声が明るく広がっていた。

ーつまらない。

しかしただ1人だけ、壁際に立ち、皆を見ている。

入ろうと思えば入れるのだが、何だか嘘の世界に入るのが嫌だった。

名前はメアリーといい、歳は15である。

両手を後ろに組み、幻を見るみたいに、皆から目を離していく。

ー外の空気を吸おうと。

メアリーは動き出すと、華達の間をすり抜ける蝶のように、ベランダに出る。

誰も自分には注目していない。

皆、自分のことだけ考えている。

少しでもいい蝶とくっつくように。

それでいいんじゃないと冷めた顔をし、熱気に満ちた内側から外へ出る。

その途端、秋のわずかな寒い風が吹いてきて、メアリーは髪を耳にかける。

ふうと息を吐き出すと、手すりに両手を預け、下を確認する。

降りようと思えば、降りられる距離だった。

ー逃げようかしら。

ふと魔が差し、いけないことを考えたが、親に怒られるのは嫌なので、やめておく。

メアリーは星空を見上げる。

星は舞踏会を警戒するように、綺麗に輝いている。

しかし違いがあり、舞踏会は人間の思惑があるが、自然の星だけは嘘がなく、人々の心を癒すために存在しているような気がして、メアリーは更にリラックスする。

「ティンクル、ティンクル」

小声で歌を口ずさむと、舞踏会の音が気にならなくなってきた。

神話や伝説を聞いていたほうが、自分にとっては楽しいと感じる。

もちろん1人は淋しく、つまらないが、今のこの場では楽だった。

「ーお嬢さん」

急に声をかけられ、メアリーははっと息を呑む。

全然、足音に気がつかなかった。

1人の世界に浸り過ぎたのかもしれない。

話しかけてきた相手は仮面はしているが、整った顔をしているのが分かり、歳はメアリーよりも上かもしれない。

飲み物を2つ持っており、1つをメアリーに差し出してくる。

「ー何かしら?」

メアリーは腹に力を込めると、精一杯、平気なふりをする。

相手はメアリーに触れてこようとするので、1歩下がる。

「…おや? それじゃあ駄目ですよ、お嬢さん」

「…何がいけないのかしら?」

メアリーは毅然と言い返すと、男性の前に両手を出す。

「申し訳ございませんが、私、1人でいたいので、放っておいてくれませんこと?」

「1人がいい…。なるほど」

男性は自分の分のグラスに口をつけると、ますますメアリーに近づいてくる。

ー何のかしら、この人?

メアリーはどうしていいか分からず、少しずつ下がっていく。

「どうぞ。飲み物を持って」

「…毒が入っていたりして」

皮肉めいて言ったのだが、あり得ないことではなく、すぐに断る。

しかし男性はしつこく、グラスを差し出すのをやめないので、メアリーは強く言う。

「私、喉が乾いていませんの。ご自分でお飲みくださいませ」

「それはいけない。せっかく差し出したのに」

「可愛げがなくて、申し訳ございません、ほほ」

メアリーは口元を隠し、笑うと、ベランダと賑やかな中を比べる。

皆、狂ったように楽しんでおり、メアリーの入る場所ではない。

ーせっかく1人の場所を見つけたのに!!

むっとして顔を上げると、中を手で示す。

「中で楽しんできたらいかがかしら?」

何とか誘導しようとするのだが、男性は無視してくる。

「僕もちょっと疲れてね。こういう場は苦手だ」

おや、とメアリーが意外そうな顔をする。

色んな華が求めそうなものを、彼は嫌がっているらしい。

「苦手ですの? こういう場は?」

「そう言ったよ。悪いけど、僕も1人のほうが楽だ」

「そう…」

メアリーはじっと男性を見る。

身長は高く、メアリーと一定の距離を保っている。

無理強いはやめたのか、グラスを口に当てると、ぐいっとあおったのだった。

「ふー。お酒でも飲んでないとやっていられないな」

「…本当ですの? そう言って嘘かもしれませんし。中に入ったらいかが?」

嘘の世界に誘おうとするのだが、男性は言葉を流したらしく、手で顔を扇ぐ。

「あー、退屈。つまらないの。こんな世界」

空いたグラスを足元に置くと、急に口調が変わった。

メアリーは目を瞬かせる。

どうやら男性も大きな猫をかぶっていたらしい。

アルコールのせいもあり、本音を漏らしたということだろうか。

「本心ですの? 私には平気なように見えますけれど」

「そう? それならいいけれど。あー外のほうが気持ちがいい」

ベランダの手すりにつかまり、息を吐く。

どうやら本当に、中に戻る気はないようだった。

「皆、待っていませんの?」

「待っているわけがない。…というのは嘘だけれど、君は?」

「私は1人がいいので」

はっきり断ると、男性はくっと笑ってくる。

何がおかしいのか、全く分からなかった。

「僕が相手をするから、中へ戻るかい?」

「さあ…? 私、ダンスに苦手意識はありませんが、どうもこういう場は苦手で。1人にさせてくれませんこと?」

ちゃんと断ったつもりが、男性は無視して膝をついてくる。

「ー僕と踊ってくれませんか?」

「はあ!?」

何故そうなるんだと、メアリーは頭が痛くなってきた。

酔っているのね、この人はと思いつつ、扇子を取り出し、差し出す。

「これと踊ってきなさいな」

「…つれないな」

相手は失笑したが、立ち上がる気もなければ、去る気もない。

困ったのはメアリーで、どうしようかと、頭がぐるぐると回る。

ー手強い相手ですわね。背中を見せて無視しようかしら。

実際に身体を動かし、トントンと手すりを叩く。

メアリーを応援するように、風がさあっと吹いていく。

そろそろ男性も戻ったかしらと思うのだが、ちらりと振り返ると、膝をついたままだった。

何故、そんなにしつこいんだと、メアリーは気をもむ。

「ー僕を覚えていないの、メアリー?」

「…は」

心臓にナイフが刺さったかのような、そんな強いショックを受け、メアリーは急いで振り返る。

まずいと思ったが、遅かった。

男性は立ち上がると、メアリーの手を取ってくる。

「な、何で、私の名前…!!」

「しー」

人差し指を立てると、メアリーの手の甲にキスをしてくる。メアリーは軽く拒絶しても良かったのだが、男性に名前を知られている以上、やめておくことにした。

ー親に迷惑をかけても困るし。

何だか負けたような悔しさが心の中に広がり、男性の目をじっと見つめる。

青空を思わせるような、光に満ちた瞳。

メアリーを拒絶するどころか、集中しているようだった。

ー何なの、この人?

メアリーが困っていると、手がひかれる。

ちょっと、と言おうとしたが、相手は強引に中に入ってしまう。

すると遠かった音楽や笑い声が、一斉に襲いかかってきて、メアリーはくらりとする。

男性がメアリーの細い腰を抱き、笑いながら言ってくる。

「ー一曲、相手をどうぞ」

「…」

ここで拒絶しても良かったのだが、何だか悔しかった。

メアリーとしては、自分のことを知っているだけに、慎重になる。

「後悔しても知りませんことよ?」

「それはこちらの台詞。ーほら」

肩を抱かれ、メアリーは華達の中に入る。

急に表舞台に立たされ、本当は嫌なのだが、逃げるわけにはいかない。

メアリーは覚悟して男性を睨むと、ふんと鼻を鳴らす。

「ーよろしくお願いいたしますわ」

「喜んで」

2人は手を繋ぐと、ダンスを始めたのだった。



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