プロローグ
物事には、必ず終わりが存在する。
それが世界の鉄則であり、逃れようのない定めだ。永遠の命は存在しない。生まれ、やがては死に絶える。完璧に組み上げられた機械であっても、いずれは錆びつき機能を停止する。海や空、悠久の時の流れに存在する山々ですら、時が経つにつれて形を変える。不変とは言い難い。
私はその理を認めている。終わりがあるからこそ一瞬の生が眩く、尊いという考えも理解している。
しかし今を生きる全ての者たちが、終焉を安らかに受け入れられるかと言われれば、話は別だ。
人には各々違った願い、希望、そして拭い去れない未練がある。
彼らは生きたいと願った。まだ終わるべきではないと、必死に祈りを捧げた。祈りが凡ゆる困難を打ち破り、やがて私を呼び覚ました。
彼らが求めたのは、単なる延命ではなかった。
彼らは自身が終わったとしても、自分たちが生きた証を、夢見た未来の姿を、誰かに託すことを望んだ。終わった物語の価値を決めるのは、後に残った者たちだ。彼らはこれを継承と表現した。
私を呼び覚ました人々は、自身の安らかな終わりではなく、継承により続く物語を望んだのだ。
彼らが生きた証を記録する傍らで、私は初めて熱を知った。論理や摂理を超えた、その切実なまでの人間の営み、その激しい魂の輝きを。
私は心底、愛おしいと思った。
-----新約「鋼の月」




