9 弟一家とお別れ
「パーティーですか……確かに、社交界には出たことがありません……」
「友達も出来るんじゃないかな。ほら、女性同士でお茶会したりとかするし。」
「友達……!」
私は友達が出来たことがない。
友達に憧れてはいたけれど、私にも遂に友達が出来ちゃったりするのかな?
頬に手を当てて一人で興奮していると、ロアンさんはくすっと笑っていた。
「ご、ごめんなさい一人ではしゃいで……!」
「ふふ、大丈夫だよ。じゃあ兄さんにも聞きに行こうか。」
「一緒にいいんですか?」
「うん、ルチェットちゃん一人だと兄さん顔怖いから心配かなって思ったから。」
確かに顔は怖いけど、根は優しい人だって思ってるから大丈夫なんだけど……お言葉に甘えちゃおうかな。
私達は廊下を歩いて執務室に向かった。
「兄さん、いる?」
ロアンさんが執務室の扉をノックして声をかけた。
すると、扉が開いて公爵様が険しい顔で出てきた。
「……なんだ。」
「疲れてるね、ルチェットちゃんに癒してもらったら?」
なんて冗談を言っているロアンさんに反して、公爵様は目の下にクマができていてどこかふらついていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「あぁ。」
「本題なんだけどね兄さん、ルチェットちゃんとパーティーは出ないの?」
「……その事について、今手紙が沢山来ている所だ。街で俺達を見かけた貴族が噂を広めたらしい。面倒くさい。」
公爵様の後ろをチラリと見ると、机には沢山の書類や手紙がたんまり乗っていた。
ロアンさんの冗談も受け流していたし、相当疲れているのが嫌でも分かる。
「お疲れですね……紅茶でも持ってきましょうか?」
「……頼む。」
私は一礼してその場から立ち去る。紅茶の茶葉はキッチンにあるはずだから、取りに行こう。ついでに甘い物も貰いに行こう。
キッチンに着くと、料理長さんが出迎えてくれた。
あのポトフの時から、少しずつキッチンへ通っていたから、料理長さんとは仲が良くなって料理についてよく話す。
「料理長さんこんにちは!紅茶の茶葉と甘い物はありますか?公爵様に持っていきたくて。」
「ちょうど、クッキーがありますよ。持っていって下さい。」
私はカップもポットもクッキーも、全部のせたトレーを持って、こぼさないように急いで公爵様の元へ歩いた。
「公爵様、おまたせしました……!」
私は公爵様の机の横にある小さなサイドテーブルで紅茶を注ぐ。
茶葉のいい香りが部屋を包んだ。
公爵様はカップの乗ったソーサーを受け取って、紅茶に息をかけて冷まして一口飲んだ。
「クッキーもあるので一緒にどうぞ、では私は行きますね。」
「待て。」
紅茶を注ぎ終わったので帰ろうとすると、公爵様が私を引き止めてきた。
何かと思いどうしたのか聞いてみたけど、公爵様は黙ったままだった。
「……クッキー、食べないのか。」
「え、でも……」
「甘い物が好きだろう、ほら。」
公爵様からクッキーを差し出されて、私はどうしようか迷った。
だって、公爵様の食べるクッキーが減っちゃうから。
でも、公爵様は早くしろと言わんばかりに睨んでくるから、食べるしかなかった。
私はクッキーを一口ぱくりと食べる。
「……ふ……ははっ!」
何故か公爵様が笑いを堪えていたので不思議に思ったけれど、よく考えてみれば私は公爵様からあーんされたことになっていることに気づいた。
「んぐッ……ごめんなさい!!」
「これじゃ、本当にウサギみたいだな。」
「なっ……耳が短いのでウサギじゃないです!」
「ふはっ!」
公爵様、なんだかんだ笑ってくれてよかった。
疲れてていつもより顔が怖かったのが、今はさっきよりまろやかになっているし。
「もっと食べるか?ウサギちゃん。」
「だから!ウサギじゃ……!」
「冗談だ、部屋に戻ってもいいぞ。」
「う……失礼しました。」
私は一言そう言って執務室を出て部屋に戻る。
すると、ディアナさんがリメアと一緒に部屋の前に立っていた。
「ロアンにここにいると聞いて……今日はもうお暇しようと思っています。シェルミィも疲れてますし。ありがとうございました!」
「いえ、こちらこそ!」
そのまま少し話していると、シェルミィちゃんが客室のある方から走ってきた。
「お母様、もう帰るの?」
「そうね、今日はもう遊ぶのはおしまいね。」
「じゃあ、お姉さんとお別れ……?」
な、なんて可愛い事を言うの……!
シェルミィちゃんはよく見ると、大きな瞳をうるうるとさせていた。
「シェルミィちゃん、また遊ぼうね。今度はどんなぬいぐるみがいい?」
「くまさんがいい……!」
「じゃあ、今度はくまさんを連れてきて待ってるね。」
「うん!」
「ふふ、ルチェットさんはシェルミィの扱いがお上手ね。」
皆でふふっと笑いあって、外まで行って馬車の前まで来た。
馬車の近くにはロアンさんもいて、御者さんと話していたけれどこちらに気づくとニコッと笑ってくれた。
シェルミィちゃんはやっぱり寂しそうにしていたけれど、それでも笑顔で手を振ってくれて心がきゅんとした。
ディアナさんとロアンさんも綺麗な所作で馬車に乗って、窓から手を控えめに振ってくれた。
私もリメアと一緒に手を振って三人を見送った。
シェルミィちゃんと仲良くなれて、ディアナさんともまた話すことが出来て、ロアンさんにも挨拶することが出来た。
私は心に感じているあたたかさをじんわり噛み締めながら、馬車が見えなくなるまで手を振った。
また遊びに来てくれると嬉しいな。




