最終話 溺愛
一週間、一月、そして数カ月が経った。
私は今、ベッドの上で痛みに苦しめられている。
タオルを噛んで、吊り下げられた布につかまりながらいきむ。
「頑張って、あと少しですよ。」
「夫人、頭が出てますから、もうすぐです。」
集められた産婆たちにそう励まされながら、私は力を振り絞る。
すると、大きな泣き声が部屋に響きわたった。
「夫人、男の子ですよ!」
「お疲れさまです!」
意識が朦朧とする中で、産婆たちがタオルに巻かれた子を見せてくれた。
ベッドに倒れる私の隣に赤子がそっと置かれて、落ち着くまでゆっくりするように言われた。
「夫人が落ち着いたら、公爵様を呼びますからね。」
「はい……」
(黒い髪の毛がレアンにそっくり。)
「生まれてきてくれて、ありがとう。」
◇◇◇
「ルチェット!!」
「レアン!生まれましたよ、男の子です……!」
暫くして、産婆たちの後片付けが終わった。
そこで、私は部屋の外にいるレアンを呼んでもらって赤子を見せた。
「見て、レアンにそっくりなんです。」
レアンは赤子にゆっくり手を伸ばす。すると、赤子は小さな手でレアンの指をつかんだ。
「ッ……ありがとう……」
「レアン、名前はどうしますか?候補がいくつかありましたよね?」
涙を流しながら、すでに顔をぐしゃぐしゃにしているレアンに問いかけた。
「……レルク。」
「あら、奇遇ですね。私もその名前がいいと思っていたんですよ。」
レルクを包み込むように、二人で優しく抱きしめた。
愛しい私達のレルク。この子の人生が、希望に満ち溢れたものになりますように。
私はそう願いをこめながら、腕の中の小さな命に愛を伝えた。
◇◇◇
ある冬の朝のこと。部屋の暖炉で暖まっていると、扉が勢いよく開けられる音がした。
ロッキングチェアに座ったまま振り向くと、黒い髪をした小さな子供が目に入った。
「お母様!お父様から金平糖をもらったんです!」
「あら……レルク、顔に雪がついていますよ。」
「本当ですか?へへ、さっきお父様と遊んだからかなぁ?」
愛しい我が子__レルクは、照れくさそうにそう笑った。
レアンと買い物に出かけたはずだが、顔や服に雪がびっしりと付いている。
五歳になって成長したと思っていたが……
まだまだやんちゃね、元気でいてくれて嬉しいわ。
「雪遊びをしたんですか?」
「はい、お父様に雪玉を投げたら、やり返されちゃいました。」
「もう、こんなに鼻の頭を赤くして……こっちにいらっしゃい。」
私はこちらへ駆け寄ってきたレルクを、膝に掛けていたブランケットでそっと包んだ。
「ふわふわ……」
「暫く暖炉の前で暖を取ること。いいですか?」
「はぁい。」
間延びした声に呆れつつ、私は膝の上にレルクを座らせた。
膝の上のレルクは、金平糖の瓶の蓋を開けていた。しかし、一つ取り出して食べるのかと思いきや、私の口元に持ってきた。
「お母様、一緒に食べましょう!」
「いいの?ありがとう。」
「へへお母様が食べる姿は見ていて楽しいですから!それに金平糖がお好きでしょう?」
まあ、なんて口上手な子なのかしら。
私は金平糖の甘さを楽しみつつ、レルクのことを抱きしめた。
「わあ、どうしたんですか?」
「ふふ、幸せだなって思いまして。」
「僕もお母様の子供になれて、世界で一番の幸せ者ですよ。」
「俺も、二人と一緒に過ごせて幸せだ。」
後ろから唐突に聞こえてきた声にびっくりして、ロッキングチェアがガタッと鳴った。
「レアン、いつからそこにいたんですか?」
「レルクが瓶を開けたくらいから。」
「お、お父様が静かにってハンドサインを……」
「もうっ!私をからかって……!!」
私はロッキングチェアから立ち上がって、怒ったフリをした。すると、二人は途端に慌て始めた。
いつもからかってくるのに、私が怒ったら顔を青ざめさせておろおろするんだから。
「今日は許してあげませんからね!」
「ご、ごめんなさいお母様、怒らないで……!!」
「す、すまなかった、どうしたら機嫌を直してくれる?」
なんとかして私の機嫌をとろうとしている二人。私からもからかってやる!と思って怒ったフリをしたが、こんなにしおしおするとは思っていなかった。
二人があまりにも可愛らしいので、条件つきで許してあげることにする。
「……二人で抱きしめてくれたら、許してあげます。」
そう言った瞬間に、前と後ろの両方から腕が回された。
「ルチェット、愛してる。」
「あ!お父様ずるい!僕もお母様を愛してます!」
「いや、俺のほうが……!!」
親子同士で張り合っている様子に、私は二人を静止させる。
「レアン、そしてレルク。私も二人を愛してますよ。」
「お母様……!!」
「ルチェット……!!」
性格も言動もそっくりな二人に、思わず大きな声を出して笑ってしまった。
私は溺愛される側ではなく、する側の人間にもなれたのかもしれないと、そう頭の隅で密かに考えた。
これで完結となります!
ここまで読んでくださってありがとうございました!
初めての長編でした、とても楽しかったです!
またどこかでお会いしましょう!




