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5 お出かけの約束

「何故ここにいる?」


 食堂に入ってくるなり、私の顔を見て自分の顔を顰める公爵様。


 何故って言われても、ここに来てはいけないなんて言われてないし、公爵様こそ何故宿舎へ来たのだろう。


 カオンさんを呼んでいたから、何かあったのかな。


「はぁ……まぁいい。カオン、後で執務室へ来い。」


「はい、わかりました。」


 公爵様は私をチラリと見る。


 チラリと見るよりかは睨む感じだった。


 正直怖い。


 すると、今まで黙っていたリメアが、突然とんでもない提案をした。


「公爵様、休日に、街へ出向いてみてはいかがですか?勿論、ルチェット様とです。」


「えっ、ちょっと、リメア……!?」


「ルチェット様はまだ分からないことも多いです、なので公爵様が教えて差し上げてください。」


 私が遠くであたふたとしているのを見て、リメアはパチッと可愛らしくウィンクをするだけだった。


 後で叱ったほうがいいかもしれない。


 恐る恐る公爵様の方を見ると、パチッと目が合った。


「……一週間後、朝食を食べた後に執務室へ来てくれ。分かったか?」


「……えっ、あっ。」


「……分かったか?」


「は、はい!!」


 私は公爵様がまさか承諾すると思っていなくて、裏返りそうな声で元気よく返事をすると、公爵は食堂を出て戻って行ってしまった。


「……リメア〜?」


「……申し訳ありません、でも!お二人に仲良くなってほしいんです!」


 あまりにもキラキラした光線のような目を私に向けてくるものだから、つい許してしまった。


 私は食事の後片付けをしてから、また料理長と台車を転がして宿舎を出る。


 それから、料理長は仕事があるみたいだったので、私は料理人さんと一緒に洗い物をして、一段落したら客室らしき部屋に戻った。


 部屋に戻ると私の昼食が用意されていて、料理長からの置き手紙もあった。


『公爵夫人の手さばき、素晴らしかったです。

気が向いたらどうぞ、また気軽に来てくださいね。』


 と、書いてあった。


 仕事、とは私の昼食のことだったのね。


 胸がじんとあたたかくなって、また近いうちにお邪魔してみようかな、と思いながら、昼食に手をつける。


 昼食のお魚のムニエルも美味しくて、レモンの酸っぱさが口に広がって香ばしかった。


 また食べたいなぁ、なんて思いつつ私はリメアとお出かけ当日に着る洋服を選んだ。


 リメアが凄く推してくる服は今日着ているものよりも豪華で、小さな宝石があちこちに付いていた。


 宝石が付いているのは流石に派手すぎると思うし、派手なものは着たことがないので遠慮しておいた。


 私が選んだのは、薄い青色で雲みたいなフリルが付いた、晴れた空のようなドレス。


 他は派手なものばかりで困った結果、比較的落ち着いたこのドレスを選んだ。


 リメア曰く、ドレスは全て公爵様が適当に買ったらしい。


 きっと、女性はキラキラした派手なドレスが好きなんだろうという先入観から、このラインナップになったのだろう。


 ドレスも選び終わって、公爵邸をリメアに案内してもらった。


 公爵邸はアルベレア家のお屋敷よりも全然広くて、一人だと迷ってしまいそう。


 色々な場所を巡って、最後に庭園を散歩した後夕食を食べ、波乱の一日はあっという間に終わった。


「ではルチェット様、おやすみなさい。」


「おやすみなさい。」


 リメアがベッドメイキングを終えて部屋を立ち去った後に、ふかふかのベッドに体を預けながら1週間後の事を考える。


 一週間後は街へ出かける。


 そこで私は見せしめにされて殺されたりするのかな。


 だからあんなに乗り気なのかな。


 もしかして、他に好きな方がいるのかな。


 嫌な考えを落ち着かせるためにふぅっ、と息を吐く。


 きっと、私なら大丈夫。


 だって今まで受けてきた事の方が辛かったもの。


 だんだんと瞼が下がってきて、いつの間にか私は眠りについていた。



________




 時はあっという間に過ぎて、一週間後のこと。


 私は部屋で速やかに食事を済ませて急いで空色のドレスに着替える。


 さあ、執務室へ行くぞ!と意気込んでいたその時、コンコンと部屋の扉がノックされた。


「僕です、カオンです〜!」


「カオンさん、どうしてここに……?」


「実は、公爵夫人の護衛になりました!」


「護衛……よろしくお願いします……!」


 カオンは人懐っこい笑顔でルチェットに話しかけているが、実は護衛というのは建前である。


 昨日、執務室に呼ばれたカオンは、レアンにこんなことを伝えられた。


『俺の妻になったあの女性を監視してほしい。』


 カオンは最初びっくりしたが、確かにスパイという可能性があるかもしれない、と引き受けたのだった。


「カオンさん、執務室はどこですか?」


「執務室ですね!案内します!」


 私はカオンさんに付いていきながら、カオンさんがどうして護衛になったのか聞いてみることにした。


 だって、あの私に関心の無さそうな公爵様が付けたってことでしょう?


 何か裏があるに違いない。


「あの……どうしていきなり護衛になったんですか?」


「えっ?あー……」


 カオンさんは一瞬止まって目を逸らした。


 ほら、やっぱり!


「……実は、公爵様って小動物がお好きなんですけどね。」


 本当である。


「えっ!意外ですね!」


「それで、公爵夫人がウサギみたいに可愛らしいので護衛を付けられたんです。」


 これは嘘である。


 ルチェットはカオンのついた嘘に気づかずに、私ってそんなにウサギに似てるのかな?と、くるりと見れる範囲まで自分を見ていた。


 確かに、髪の毛がふわふわしてるからそのせいかもしれない。


 ウサギみたいで可愛らしいなんて思われたことないから新鮮だなぁ。


 リメアはきっと世話焼きのリスで、カオンさんはきっと耳のたれた犬で、公爵様はオオカミみたいかも。


 なんて動物に例えていたら、前を歩いていたカオンさんが止まった。


「あっ、執務室に着きましたよ!」


 執務室の扉は他の扉よりも圧を感じる。


 緊張してきて、手が少し震えているのがわかる。


 私が恐る恐る扉をノックすると、コツコツと歩く音が聞こえて扉が開いた。


「来たか、では行くとしよう。」


「は、はい!」


 何故かカオンさんは行かないみたいで、馬車の外から手を振っている。


 護衛は……?と思ったが、公爵様に聞く事も出来ずに、カオンさんを置いてそのまま馬車は動き出した。



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