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閑話2 ユシルとレアン

 

 ある朝のこと。眠気を覚ますために庭園を散歩していた私は、見覚えのある猫を発見した。


「……貴方は、ユシルさんですね?」


 猫にそう話しかけると、煙幕がもくもくと出てからユシルさんが出てきた。


「おや、私達は会ったことがありましたか?」


「ふふ、魔法使いの総括責任者ですもの。知っていますよ。」


 ユシルさんは私に『この女は見る目があるな』とでも言うような目線を投げかけている。


「それで?何か用があって来たのではないですか?」


「いや、公爵の妻を見に来ただけですが……」


「ああ、私に用があったんですね。」


 笑顔でそう言うと、ユシルさんはジトッ……と私を睨むように見つめた。


「……私の魔法は完璧だと思っていたんですが、簡単に見破られてしまいましたね。」


「いえいえ、ユシルさんの魔法は完璧ですよ。」


「貴女、一体何者なんです?」


 ユシルさんにそう聞かれて、私は返答に困った。


 精霊だと言ってしまえば、きっと探究心と好奇心が暴走してしまう。


 かといって、魔法が使えることを隠すことも得策ではないだろう。


「……教えてもいいですが、条件があります。私の質問に答えてください。具体的に。」


「へえ、何でしょう。」


 前から聞きたかったことがある。ずっと気になっていたが、レアンがいたので聞き出せなかったのだ。


「……その、レアンとユシルさんって、どうして仲が悪いのですか?」


「そうきましたか。いいでしょう、何があったのか教えてさしあげます。」


 ユシルさんは考える素振りもなく、すぐに了承して話し始めた。


「あれは、とある戦争の時でした。公爵は強いのでよく戦場に立っていたのですが……それは私も同じでした。」


「では、お二人の出会いは戦争だったのですか?」


「ええ。最初は仲がよかったのですが、私が彼の友人を殺してしまったのです。」


 私は動揺を隠せずに、口元を手のひらで隠した。


「そんな……何故ですか……?」


「魔物の毒が回っていた友人は、狂乱状態とでもいいますか……とにかく、無差別に仲間を殺してしまった。」


「それを止めるために……」


「はい、レアンにとても責められましたが、仕方がないことだったと今でも思います。」


 レアンはずっと孤独だったのだ。友人という存在にとても心が救われていたのだろう。


「私にもっと高度な魔法があれば、殺さずに助けられたかもしれない。そう感じて魔法について研究を重ねました。」


「……ユシルさん、ありがとうございます。」


 私の一言に、ユシルさんは目を見開いて驚いた。


「レアンだって、わかっていたはずです。でも、手にかけることはできなかった。」


「……はい、公爵なら確実に一生引きずりますね。」


「ありがとうございます、レアンの心を守ってくださって。自ら手にかけていたら、きっと心が壊れてしまっていたと思います。」


 ユシルさんは端正な顔を歪ませて、複雑そうな顔をしていた。


「……そんなことを言われたのは初めてです。本当に、貴女は何者なんですか。」


「私は……ただの精霊と人間のハーフです。」


「……は?」


 ユシルさんは先ほどの表情とは打って変わって、今度は間の抜けた顔で私の顔を凝視した。


「……冗談じゃない、ですよね??」


「あ、そういえば精霊の血のほうが濃いらしいです。」


「……はぁぁあ!?」


 庭園に響き渡るユシルさんの声。


 その声を聞きつけたレアンがあとから乱入してきてしまい、暴走するユシルさんとそれを止めるレアンという状況が暫く続いた。


 仲がいいのか悪いのか、最後までよくわからないままになってしまったが……今の二人を見ていると、心から言い合える関係にも思える。


「ユシル!ルチェットに何をした!」


「へえ、随分と惚れてるんですね。あの残虐公爵が?」


「ユシルこそ、そろそろ相手を見つけたらどうだ?」


 言い合いをする二人を止めずに、今は微笑ましく見守ることにした。






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