結婚式
あれからひと月ほどが経っただろうか。
私達は再会を果たしたあと、エレンと合流して公爵邸へ向かった。
玄関の大きな扉を開けると、見慣れたホールで使用人が掃除をしていた。
『あの公爵様が、女性を二人も連れてきた!』と、大騒ぎになったのを覚えている。
「お姉様、とっても綺麗です!プリンセスラインを選んで正解でした!」
目の前で微笑むエレンに、私はくるりと回って全身を見せた。
「やっぱり、ドレス選びをエレンに任せてよかったわ。」
今、私は純白のドレスを着て控え室にいる。
たくさんの装飾品を付けて、華やかな化粧をして、式が始まるのを待っているのだ。
「うう……世界で一番美しいです……」
「泣かないで、今日は私の結婚式でしょう?」
「でも……お姉様が幸せそうで嬉しくて……!」
今日は、私とレアンの結婚式。
過去に戻ってくる前に叶わなかったことである、式を挙げること。
それが今日行われるのだ。
「ここまで、色々あったね。」
「そうですね……」
「あの時、イヴァスを倒せてよかった。そうじゃないと、エレンに会えなかったもの。」
「私、お姉様に会えて幸せです!だから、お姉様には幸せになってほしかったんです。」
この結婚式の計画を立てたのはレアンとエレン、そして私である。
レアンと私の考えを元にして、式場の飾り付けやドレスのデザイン、さらには披露宴の食事まで、全てを積極的にやってくれたエレン。
そんな素敵な妹であるエレンが、愛おしくてたまらない。
「ありがとう、私はエレンが大好きよ。」
「……ッ私も、お姉様が大好きです。」
そこで、リメアがノックをしてから控え室に入ってきて、式がもう始まることを告げられた。
リメアは今も私の専属メイドである。
記憶は保持していなかったが、魂が私のことを微かに覚えているらしい。
いきなり現れた婚約者である今の私にも、最初からすごく優しく接してくれた。
「リメア、ありがとう。」
「いえ!ではお二人を会場までお連れしますね!」
リメアを先頭にして、教会の廊下を歩いていく。
「な、なんだか緊張するわ。」
「大丈夫ですよ、私が責任を持ってお姉様をエスコートしますから!」
エレンはタキシードを着ていて、いつもの可愛らしい雰囲気とは真逆で凛としている。
私にはもうお父様もお母様もいないので、エレンがエスコート役に立候補してくれたのだ。
「……そうね、エレンがいるから大丈夫。」
「はい!……あ、そろそろ式場に着くのでは?」
ざわざわしている人々の話し声が、歩みを進めるたびに大きくなっていく。
そして、ついに先頭のリメアが大きな木の扉の前で立ち止まった。
「ルチェット様、エレン様、準備はよろしいですか?」
リメアがそう聞いてくれて、私達は顔を見合わせてから頷いた。
リメアが私のベールを下げて、扉の前にいる二人に声をかけた。
扉が開かれると、たくさんの人々が一斉にこちらを見て、大きく拍手をした。
エレンにエスコートをされながら、私はゆっくりと歩いていく。
(あ、シェルミィちゃん達だわ。)
私のことを覚えていないだろう。だが、祝福されているのは間違いではなさそうだ。
シェルミィちゃんはこちらを見て目を輝かせている。
きっと、エレンのドレスに魅入ってしまっているのだろう。
色々なことを考えていたら、いつの間にかレアンの前まで来ていた。
「お姉様を、どうか末永くよろしくお願いします。」
「ああ、心配しなくても離すつもりはない。」
エレンとレアンが握手をしながら、そう言葉を交わしていた。
「さあ、行こうか。」
「はい!」
差し出されたレアンの手を取って、私はまたゆっくりと歩き始める。
ここまで、本当に色々なことがあった。
(そういえば、最初はぎこちなかったよね……)
残虐公爵に嫁ぐと聞かされた時、私は酷く動揺した。
でも、本当は優しい人だってわかって、彼のあたたかさに触れて愛を知った。
「新郎、貴方は健やかなる時も病める時も、妻を愛し、生涯を共にすることを誓いますか?」
「誓います。」
神父の目の前まで何事もなくたどり着くことができた。
私達は、神父の言葉に誓いを立てる。
「新婦、貴女は健やかなる時も病める時も、夫を愛し、生涯を共にすることを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「では、指輪の交換を。」
リメアとカオンさんが指輪を持ってきてくれて、私達はそれを手に取ってお互いの指に通した。
指輪には、お互いの瞳の色をした宝石がキラキラと輝いていた。
「誓いのキスを。」
神父がそう言うと、レアンが私のベールをあげた。
視界が晴れて、周りがよく見えるようになった。
その瞬間、私の鼻に蝶々が止まった。
「わ!?」
鼻から指に蝶々を移してから、私は目を見開いた。
桃色の羽根をした蝶々だったからである。
魔法を誰かが使った様子はないが、シルベリアには桃色の蝶々なんていないはず。
精霊界には色とりどりの蝶々がいた気がするが、何故人間界にいるのだろうか。
すると、蝶々は私達の周りを飛んでから、ひらひらとどこかへ去って行ってしまった。
(もしかして……いや、そんなわけないよね。)
あの蝶々はお母様かもしれない__
そう思ったが、今は式の最中。気を取り直してレアンの方へ向き直った。
「ルチェット、愛してる。」
「私も、レアンを愛しています。」
私は目を閉じて、レアンからのキスを待った。
お互いの唇が軽く触れて、人々からの歓声が耳に入る。
薄く目を開けると、レアンの耳が赤くなっているのに気づき私も顔が熱くなっていく。
何度もキスをしたことがあるのに、どこか初々しい誓いのキスとなった。




