新たな生活
「お姉様、荷物がまとまりました!」
「ええ、私も片付けが終わったわ。」
暖かい風が優しく吹いて、花々の咲き誇る春のこと。
孤児院では数回誕生日を迎えたが、今日で私は十六歳になった。
そして、いよいよ孤児院を出て自立する日でもあった。
部屋の片付けも終わり、いよいよ荷物を持って最後の挨拶に行かなければならない。
「なんだか、時が経つのが早かった気がします。」
「うん、たくさんお世話になってしまったわ。」
来たばかりの時のように、最低限の家具しかない部屋を目に焼き付けてから、私達は部屋を去った。
玄関前のホールに着くと、孤児院の皆が揃っていた。
「食事はしっかり食べるのよ!あと、夜更かししないこと!」
院長を筆頭にして、大人達に無理をしないよう厳しく言われてしまった。無理をするつもりはないのだが。
厳しい口調とは裏腹に、大人達は寂しそうな顔をしていた。
「やっぱり、巣立ちを見送るのには慣れないわ……」
「ルチェット、エレン、元気に過ごすのよ……」
「困ったことがあったら、いつでも戻ってきてちょうだい……相談にのるからね……」
大人と子供、その場にいた全員に、たくさん抱きしめられる。
「ルチェットお姉ちゃん、いかないでよぉ……!!」
「エレンお姉ちゃん、ここにいてよ……!!」
子供たちは悲しそうな顔でそう訴えてくる。
皆が、私達を"お姉ちゃん"と慕ってくれていた。
そんな可愛らしい子たちを置いていくのは心苦しいが……国が決めたルールだから、従わないと孤児院が潰されてしまう。
「ごめんね、また会いに来るから。」
「ほんとう?やったあ!」
無邪気に喜んでいる姿を見て、定期的に孤児院を訪れようと心に誓った。
そして、ついに玄関を跨いで、外の世界で暮らす時がやってきた。
「ここを一歩出たら、あなた達はもう孤児院の子ではなくなります。」
「はい、わかっています。」
「今までお世話になりました。」
私達は深く頭を下げて、玄関から外へ出た。
親から離れるヒナのように、私達は孤児院から巣立ったのだった。
◇◇◇
都市からだいぶ離れた町に、馬車を乗り継いでたどり着くことができた。
町の人々に空き家がないか聞いてみる。
すると、ある住人が引っ越すと言うので、小さな家を譲ってくれることになった。
案内された場所には、二人で暮らすにはちょうどよい大きさの家が建っていた。
ただ譲り受けるだけではいけないと思い、案内してくれた人にお金を渡してから、玄関の扉を開けて中を確認する。
綺麗な状態が保たれていて、木の香りが私達を包み込んだ。
「荷物をほどきましょう!」
エレンと一緒に持ってきたものを整理して、家具の位置を好みに調整して、小物を置く。
すると、完璧な内装が出来上がった。
「小物を買い足せばもっと良くなるかな……」
「はい、ふかふかのシーツも必要ですね!」
「少し買い物をしましょうか。」
早速町に出て色々な店を回り、これからの生活に必要なものを手分けして買い足した。
食材に、シーツと枕、それから調理器具に……服をデザインするための羊皮紙とペンにインク。
布を数枚に、裁縫の材料も購入した。
エレンと合流して、一緒に家に戻り購入したものを広げていく。
今は一つずつ整理整頓しているところだ。
「はー、疲れました。でも楽しかったです!」
「少しはしゃぎすぎたかもね……でも本当に楽しかった。」
絨毯を楽しそうに敷いているエレンが視界の端に入る。
私は仕事用の物を丁寧に箱に詰めて棚に置いたり、調理器具をキッチンの棚に収納したり、細かいものを片付けていた。
しかし、エレンが大きな声を出したので、危うくお皿を落として割ってしまうところだった。
「エレン、どうしたの!?」
「お……お……」
「お……?」
エレンはキラキラした草色の大きな瞳でこちらを見て、こう言った。
「お腹が……空いてるんです……!!」
「まあ!なら夕食にしましょう!」
そう聞いた私は、すぐにキッチンへ向かって食事の準備をする。
切った野菜を鍋に入れて、魔法で綺麗な水を出して浸す。
かまどに火をつけて、コトコト煮込んでいく。
「お姉様、これは何を作っているのですか?」
「ポトフ、という食べ物ですよ。」
「ぽとふ……!!」
私の横で、子供のようにはしゃぎながら鍋の中を見つめるエレン。
そんなエレンをなだめつつ、塩や胡椒で味を調整した。
それから少し経って、ようやくポトフが完成した。
「できたわ、席について。」
「はい!」
席に座るエレンの前に、皿に盛り付けたポトフを置いた。
エレンは匂いを堪能してから、いただきますと言ってポトフをスプーンで掬った。
そのまま一口食べると、エレンは涙を流した。
「これが、おいしいということなんですね……!!」
「ふふ、まだたくさんあるからゆっくり食べて。」
「はい……!」
エレンはその後二回おかわりをして、終始泣きながら食べていた。
食器を片付け終わり一段落つくと、疲れが一気に押し寄せてきた。
少し早いが、私達は明日に向けてしっかり体力を回復させるため、眠りにつくことにした。
寝間着に着替えて寝室へ向かう。
ここまで案内してくれた人によると、前に住んでいたのは夫婦だったらしく、ベッドがちょうど二つ残されていた。
右のベッドに私、左のベッドにエレンと、それぞれ寝転んだ。
抗いがたいまどろみの中、おやすみなさいと声を掛け合って、すぐに夢の中へ入った。




