平穏
イヴァスを倒した日、私達は国王の宮殿に向かった。
お父様が悪事を働いていたという証拠を一日でかき集め、それを提出したのである。
国王はすぐにお父様を捕らえて、地下牢に収監した。
それから数日後に処刑された。
大きなギロチンによって、お父様は亡くなったのだ。
処刑台に登ったお父様は、裏切った私達のことを罵っていたが、それに聞く耳を持つ必要はない。
エレンと私は、処刑される瞬間を見ることもせず、お父様にとびきりの笑顔を見せてからその場を去った。
最後にどんな顔をしていたのかは知らないが、心残りは全くなかった。
今、私達は馬車に乗ってシルベリアへ向かっている最中だ。
国王は、アルベレア家を伯父に継がせようとしていたが、私達が拒否をしたので没落貴族となった。
最後の頼みとして、アルベレア家の財産を少し分けてほしいことと、シルベリア帝国へ馬車を出してほしいということを国王へ頼んだ。
国王は私達を哀れに思ったのか、快く了承してくれた。
馬車に揺られながら、私は初めてシルベリアへ来た時のことを思い出す。
あの日、実家から出ることができて安心していた。
だが、同時にレアンに底のない恐怖心を抱いて震えていた。
だが、現在は恐怖心なんて全くない。
シルベリア帝国への旅路は、残虐公爵に嫁ぐ目的ではないから。
(今のレアンは十四歳、きっとまだ孤独で苦しんでいる。)
会って慰めてあげたいと、そう思ってしまう自分を抑えて、気を紛らわすためにエレンへ話しかける。
「エレン、何かしたいことはある?」
「したいこと、ですか?」
「うん、私が叶えられることなら何でも言っていいのよ。」
エレンとはここ数日でかなり打ち解けることができた。
敬語で話すのはやめてほしいと頼まれて、慣れないながらもくずした口調で話しかけるようにしている。
私も、エレンに敬語をやめていいように伝えたのだが……
私への敬語だけは譲れないらしく、ものすごい勢いで拒否されてしまった。
そんな可愛らしい妹のエレンは、俯いて少し照れたような様子を見せた後、小さく口を開いた。
「私、その、お姉様の好きなものを食べてみたいです。」
エレンはずっとイヴァスに閉じ込められていた状態だった。
食事をしたことがないのだろうか、ならば私が食べることの楽しさを教えてあげたい。
「……私が好きな食べ物は、金平糖って言うの。」
「コンペイトウ?」
「まるで星のかけらみたいにキラキラしていて、とっても甘くて美味しい砂糖菓子なの。」
それに、私の思い出の詰まったものでもある。
あの日、レアンが私にプレゼントしてくれた、私にとって一番の砂糖菓子。
「お、お姉様!?泣かないで下さい!!」
「……え?」
胸がズキズキと痛くて、寂しくてたまらなくなって、気づいたら涙を流していた。
「どうしよう、私、どうしたら……!?」
「エレン、いきなりごめんね。もう大丈夫だから。」
「……お姉様、私がいます。一人ぼっちにはさせないです。」
「……うっ……うわぁぁん……!!」
体が子供だからなのかは知らないが、大声で泣く私と、それをなだめながら一緒に泣いてしまったエレン。
シルベリア帝国に到着して、馬車の扉を開けた御者は、大泣きする私達を見てとても驚いていた。
「ありがとうございました。」
「本当に、大丈夫なのか?」
「大丈夫です、お元気で。」
御者は後ろ髪を引かれた様子を見せたが、馬車を走らせて去っていった。
その後、私達は一緒に住むための家を探していたのだが……
中身は成人でも、私達はまだ十二歳の子供。
自警団に見つかってしまい、そのまま孤児院へ送られてしまったのだ。
孤児院は、両親のいない子供が入る施設。
しかし、シルベリアの孤児院は、しっかりと支援を受けているため、ご飯もしっかりと食べられて、暖かい布団で寝ることができた。
原則、十六歳になると出ていかなければならないが、兄弟や姉妹の場合は、姉や兄が十六歳になると妹や弟を連れて行かねばならない。
そういうルールがあったが、私達にはさほど関係がなかった。
ルールがなくても、一緒に孤児院を出るつもりだったから。
そのためにも私達は、将来のために色々なことを相談していた。
「稼ぐ方法を考えました、まずは__」
「そうね、そのためには技術を__」
将来安心して暮らせるように、お金を稼ぐ方法をゆっくり模索すること。
そして、それを実行するために必要な技術や、商売方法を学ぶこと。
これを毎日繰り返して、やっと方針を固めることができた。
それは、平民のための衣服を作って、安く売ること。
エレンがデザインを担当して、私の魔法で素早く丁寧に服を仕立てる。
機能性の高く、可愛らしいデザインの服を考えて、平民にもオシャレを楽しんでほしい。
そんなエレンの考えを重視した方向性である。
そして、農業をしながら都市の離れで暮らすこと。
無理をして都市に住まなくとも、服は市場のスペースを借りて不定期で売りに行けばいい。
自然の多いところに住んで、動物たちと触れ合いながらのんびり過ごしたい。
二人で考えが一致したので、将来についての会議は一旦終わりを迎えた。
私が十六歳になる日を二人で待ち遠しく思いながら、孤児院での暮らしを楽しんだ。
楽しい日々は過ぎ去るのが早い。
あっという間に四年間が過ぎて、ついに私は十六歳を迎えることができた。




