決着
光の眩しさに目を開けると、そこはアルベレア家で私の使っていた部屋だった。
こじんまりとした、小さな部屋。
私にとっての安息地であった場所。
ここにいるということは、私は無事に過去に戻ることができたのだろう。
鏡で自分の姿を確認すると、随分と幼くなっていた。
十二歳ほどだろうか、酷く痩せていて傷だらけである。
「魔法は……よし、使える。」
私はすぐに部屋を飛び出して、エレンの姿をしているイヴァスを探し回ろうとした。
しかし、私は手っ取り早くイヴァスに会える方法を知っている。
それは、失敗をすること。
水の入ったバケツと雑巾を持ってきて、掃除をするふりをした。
するとメイドが近づいてきて、水入りのバケツを蹴り飛ばした。
廊下は水浸しになり、メイドは大声で騒ぎ立てる。
「この子がわざと水浸しにしたのよ!!」
イヴァスは、私を虐げるチャンスを絶対に逃さない。
私の予想通り、イヴァスは騒ぎを聞きつけて、あちらからやってきてくれた。
「あら、わざとやっただなんて……なんて浅ましいのかしら。お仕置きが必要ね。」
髪を掴み、引きずりながら私を地下室へ連れて行く。
こんな痛みなんて、今の私なら余裕で耐えられる。
だが、”普段通り”にしていないと怪しまれるかもしれない。
私は、泣き叫びながら許しを請う。
「お願い、許してください!!あのメイドがバケツを……!!」
「うるさいわね……口を縫ってあげたほうがいいかしら?」
「ご、ごめんなさい、黙るから許して……きゃっ!」
地下の拷問室、私が折檻を受けていた場所。
吐き気を催すほどの血の匂いがこびりついた、私の最も嫌いな場所。
だが、ここに入るのもこれで最後だ。
拷問室の扉を閉めて、鍵をかけたところをはっきりと見た。
私は立ち上がって、イヴァスを睨む。
「何よ、その目。私に反抗する気?」
「ええ、その通りですよ……イヴァス。」
私はイヴァスの首を掴んで、そのまま浄化魔法を発動させようとした。
「ギャアッ!!な、何をするの!!」
「エレンを……エレンを返しなさい!!」
覚醒した私の魔法は、イヴァスの魂を浄化していく。
しかし、この頃の私は力が弱く、簡単に馬乗りにされてしまった。
「よくも……よくもやってくれたわね!!」
「がはっ……!!」
イヴァスは私の首をぎゅっと掴んで、気道を絞めてきた。
「あんたみたいな出来損ないに何が出来るの?グズで、泣き虫で、誰からも愛されないのに。」
「愛されなくてもいい、私は大切な人が幸せならそれでいいの!!」
私の首を掴むイヴァスの腕に、光魔法で炎を出して燃やした。
燃えている腕を掴み、エレンが私の上から退けないようにする。
「熱い!!」
「イヴァス……光の精霊の名にかけて、あなたを葬ります!!」
「や、やめて、やめなさい!!」
イヴァスはそれほど強くない、まだ多くの魂を喰らっていない。
ルミアさんから授かった力で、全ての事が始まる前に浄化してしまえばいい。
私は持っている魔力を全て使う勢いで、浄化魔法を発動させた。
「汝、光の祝福があらんことを__」
「ギャァァァ!!」
私の上に力なく倒れるイヴァス。
私は抜け殻となったエレンの体を抱きしめた。
「エレン、終わりましたよ。だからお願いです、戻ってきて……」
私の心からの祈りは、暫くしてエレンに届いてくれたようだった。
エレンは目を覚まして、わなわなと震えながら私と目を合わせた。
「お姉様……?お姉様が目の前にいるわ!!」
「エレン?エレンなの……?」
「お姉様っ!!」
エレンは私を座らせてくれてから、存在を噛み締めるように力強く私を抱きしめる。
「お姉様、過去に戻ってきたのですよね。」
「何で知っているの?」
「不思議なのですが、私にも記憶があるんです。
お姉様が私を信じてくれて、助けてくれるって約束してくださったことも覚えています。」
エレンは私から離れると、真剣な顔をしてこう話し始める。
「私には、イヴァスがしていたことも見えていました。なので、お父様が隠している悪魔との取引の証拠のありかが分かります。」
「それって、お父様を処刑するということ?」
「そうです!そうしたら……きっと私達は平民になってしまいますが。」
『アルベレア家の令嬢』という身分がなくなってしまえば、レアンとの政略結婚は叶わないだろう。
エレンは、過去のレアンと私の関係を気にしているようだった。
だけど、もう大丈夫。
俯いて気まずそうにしているエレンのつむじに、私は優しく語りかけた。
「エレン、平民になったら、一緒に暮らさない?」
エレンは顔をあげて、信じられないというような表情で私を見つめた。
「え……一緒にですか……?」
「そう、二人でゆっくり暮らすのよ。貴女と過ごせなかった時間を取り戻したいの。」
エレンは私の言葉を聞いて、真珠のような涙をぽろぽろと流してしまった。
「嫌だった……?」
「違うんです、嫌ではありません。嬉しくて……!」
涙を拭っているエレンを見て、胸が締まるような感覚がした。
今度は私からエレンを抱きしめて、共に生きていこうと、お互いに涙でぐしゃぐしゃな顔で笑い合った。




