水晶
走って、走って、走り続けた。
先手をとられるわけにはいかないので、休まずにひたすら走った。
コウモリたちはいくつか洞窟を見つけたらしいが、中を探索しても泉は見つからなかったらしい。
コウモリたちには、泉が見つかったら魔力信号を私に送るようにしてあるので、信号が来るのを待ち続けた。
しかし、何も収穫がないまま辺りは暗くなっていく。
夜が来てしまったのだ。
(もう少し、あともう少しでたどり着ける……!)
私は言い聞かせるようにそう信じ続け、木々の間を通り抜けていく。
すると、西の方角から、魔力の信号を感じた。
きっと、コウモリが洞窟を見つけたのだ。
(そう遠くない場所……だけど。)
コウモリをたくさん創ったので、魔力が残り少ない状態にある。
使いどころを決めなければ、もしイヴァスと遭遇したときに戦えない。
だが、体力の限界が近く足がうまく動いてくれなかった。
やむを得ず、魔法でオオカミを呼び出した。
「わふ!」
オオカミはすぐに状況を理解すると、私を背に乗せて大地を駆け抜ける。
その間に、信号を出したコウモリ以外の魔法を解除した。
目を閉じて、体力を回復することだけに集中していると、オオカミがいきなり止まった。
「わおん!」
「キキッ!!」
瞼をあげると、目の前には小さな洞窟があった。
私の周りをコウモリが飛び回っていて、早くついてきてと言っているようだ。
二匹の魔法を解除して、魔法で火の玉を浮かせ、私の前を行かせる。
洞窟は狭く、私の身長でギリギリなくらいだった。
暫くの間歩いていると、行き止まりになってしまう。
しかし、突き当たりの壁をよく見ると、紋章のような模様が描かれているのがわかった。
(紋章の意味はわからないけれど……触れると何かが起こる気がする。)
ここで引き返すわけにもいかないので、そっと紋章に触れてみた。
すると、紋章は金色に光り始めて__
「きゃあっ!?」
地面が勢いよく二つに割れて、私は穴に落ちてしまった。
「うっ……魔法があってよかった……」
咄嗟に下へ向かって大きなクッションを創ったおかげで、怪我はせずに済んだ。
クッションから降りて、魔法を解除してから周りを見渡す。
「わ、鉱石がいっぱい……」
色とりどりの鉱石がそこら中にあって、発光してくれているおかげで地面が見やすかった。
まっすぐ道なりに歩いていると、ひらけた場所にたどり着く。
そこには、宝石のように輝きを放つ泉があった。
「やっと……やっと見つけた……!」
泉の中心には、大きな水晶がたたずんでいる。
残りの力を振り絞って水晶に近づいていくたびに、輝きが増しているような気さえする。
ようやく目の前にたどり着けたその瞬間__
水晶は粉々に砕け散ってしまった。
「あら、残念だったわね。」
「……は……エレン……?」
「いいえ?イヴァスよ。」
「イヴァス……そんな、だって、あと少しで……」
壊されてしまった、その事実が私の感情をかき乱していく。
魔力も尽きかけているので、ここで攻撃されては勝ち目がない。
「はあー……いいわね、その顔。」
恍惚とした表情で、イヴァスはこちらへと近づいてくる。
「これで貴女は私に勝てない。夫にも会えずにここで死ぬの。ああ、安心して?夫もメイドも、皆殺してあげるから。」
「……そんなの、させるわけがないでしょう!!」
火の玉をイヴァスに飛ばしたが、あっけなく水の魔法で消火されてしまった。
雷、水、風、どの魔法も打ち消されてしまう。
ならば、浄化の魔法を使うしかない__
そう考えた私は、浄化の魔法を放とうとした。
しかし、イヴァスは私へ光線を撃った。
光線は腕を掠めていき、傷口から出血していく感覚がする。
「うあっ……」
「ねえ、今貴女は絶望の淵にいるでしょう?どんな気持ちで抗っているの?私は絶望なんて味わったことがないからわからないの。」
「うるさいです……!!」
「あ、そうだわ。せっかくだから先祖に殺してもらいましょうか。」
イヴァスはひときわ大きな水晶のかけらを、魔法で浮かせて目の前に持ってきていた。
「どう?先祖である光の精霊に殺されるのよ。」
出血が思ったよりも酷いのか、意識が朦朧としてきた。
痛みで内臓がかき回されているような、そんな気持ち悪い感覚。
(あ、だめだ。)
私はここで終わってしまう。
いやだ。
そんなの認めたくない。
「じゃあね、光の精霊の可愛い末裔ちゃん。」
水晶のかけらが私の腹を貫いて、水晶と接触している内部から冷たさを感じた。
「あーあ、死んじゃった……ふふ、これで人間界は私のものになったわね。」
イヴァスが踵を返して去っていくのを、手を伸ばして止めようとした。
しかし、伸ばした手は虚しく地面に落ち、私の意識は暗闇の中へ溶けてしまった。




