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蜘蛛の魔物

「はっ……」


 気がつくと目の前には蜘蛛がいて、さほど時が経っていないことを理解した。


「ルチェットさま、大丈夫!?」


「はい、大丈夫です。」


 不思議と、先ほどまでの疲労は体から消えていて、寧ろ魔力が満ちている。


(エレンが何かしてくれたのかな……?)


「キシャア!!」


 すると、蜘蛛が大きく鳴いて、糸でできた玉を飛ばしてきた。


 私は魔法を使って、網目の細かい大きなネットを作り出した。


 ネットは糸の玉を受け止めたが、速度を落とす気配はない。


 ネットが破られないように、必死に力を込める。


「ぐっ……」


(重い、けど……!!)


「やぁぁあ!!」


 バシュン、と大きな音を立てて、ネットは反動で元に戻る。


 そして、糸の玉は蜘蛛の方へと跳ね返っていった。


「グエェ!!」


 これだけ強い魔物の攻撃なんだから、自分が受けたらひとたまりもないだろう。


 そう考えた私は、相手の攻撃を利用することにしたのだ。


 自分の攻撃を受けた蜘蛛は、外殻にヒビが入り始めた。


 蜘蛛の硬そうな外殻がポロポロと崩れ落ちていき、額の部分が露出する。


 そこには、人の形をした赤い瞳のなにかが、糸に絡め取られてぐったりしていた。


 頭と思われる部分には、金髪の毛束が何本か見えた。


「エレ……イヴァスは、人を魔物に……!?」


「……だめだ、あれはもう人間じゃないよ。」


 私の隣に浮いているラシュルがそう言った。


「うえぇ……あの魔物、気持ち悪いオーラ……」


 私が相手にダメージを与えたからなのか、パティルは少しだけ落ち着いてきたようだ。


 だが、オーラに気圧され、具合の悪そうな顔をしている。


「ラシュル、パティルをお願いします。」


「……わかった!」


 ラシュルは苦虫を噛み潰したような顔をして、パティルを連れて茂みに隠れた。


「さて、浄化をしないといけませんね。」


「グ……ユル……サナイ……ユルサナイ!!」


 蜘蛛の魔物はうわ言のようにそう言い続ける。


(この魔物の元になった人間は、誰かに憎悪を向けていたのかな。)


 エレンの姿をしたイヴァスに付け入られて、魔物へと変えられてしまったのだろうか。


 だとしたら、早く浄化をして、解放しなければ。


 でも、バタバタと暴れていて近づくことができない。


 すると、一瞬で辺りが暗くなって、蜘蛛に向かって電撃が放たれた。


「も、もしかして……パティル?」


「お姫さま、今だよっ!!」


「……ありがとうございます!」


 蜘蛛が痺れて動けなくなっている内に、私は走って近づいていく。


 人の形をした部分の目の前まで、魔法で跳躍力を高めてジャンプした。


 魔法で足場を作ってから、頭だと思われる部分に触れた。


「ア……ユル……サナ……」


「……どうか、安らかに眠れますように。」


 レアンの傷を治した時と同じ魔法を使って、浄化を進めていく。


 蜘蛛の魔物は光に包まれていき、形をなくしていく。


「ウ……スキ、だった……ノニ……」


 最後にそう言い残して、完全に光に呑まれ消えてしまった。


「ルチェットさま、こんなに大きくて強い魔物を倒しちゃうなんて!さすがだよ!!」


「あ……ラシュル。」


 私の胸に飛び込んで、称賛の声をあげるラシュル。


 すると、パティルが控えめに私の袖口を引っ張った。


「ぼく、怖がりで逃げてばかりだったけど……勇気をだせたの。」


「パティルのおかげで浄化ができました、ありがとう。」


 二人を抱きしめたい気持ちでいっぱいだけど、私にはやらないといけないことがある。


「早急に、残りの魔物を倒さないと。」


 そうつぶやくと、ラシュルが顔をあげて、何かを決意したような表情でこう言った。


「……そのことなんだけどね、ルチェットさまは結晶を探すのを優先してほしいんだ。」


 最初は理解できなかった。


 結晶を探すよりも、精霊たちの安全のほうを優先しなければならないからだ。


 だが、すぐにわかってしまった。


「ラシュル達だけで、魔物を倒そうと……?」


「うん、ぼくたちだって強いんだよ!上位精霊だもん!」


「で、でも……」


「お姫さま、ぼくたちは大丈夫だよ、だから行ってきて!」


 ラシュルとパティルは、私へにっこりと笑いかけた。 


 まるで、どうしようもない不安を隠すように。


(イヴァスを止めるには……やっぱり、結晶の力が必要だよね。)


 早く結晶を見つけて私がもっと強くなれば、魔物を一気に浄化できるかもしれない。


 それに、もしイヴァスが先に結晶を見つけてしまったら?


 そうなれば、もう手立てはないだろう。


「……わかりました、無理はしないでくださいね。」


「うん、ルチェットさまも頑張って!」


 私はラシュルとパティルに背を向けて、魔法で大きな鳥を創造して、鳥の背に乗り空へと飛び出した。


 周りを見渡すも、泉らしき水源は見当たらない。


 鳥へ指示をだして、最高速度で風を切って飛んでいく。


 辺りの森は焼け落ちており、焦げて黒くなっている。


 暫くの間飛んで、泉を探した。


 けれど、一向に見つかる気配がない。


 早く見つけないといけないのに。


(何故見つからないの?)


 焦燥と不安からなのか、涙が出てしまう。


 何もすることができずに、精霊界が壊されてしまうことが悔しくて、感情のままに叫ぼうとした。


 その瞬間、頭の中に声が響き渡る。


『地下へ行くのです……さすれば道は開かれる……』


 知らない誰かの声。


 でも、不思議と安心するような、包み込むような優しさを感じる声だった。


 もしかしたら、結晶が私に語りかけてくれたのかもしれない。


 地下……ということは、どこかの洞窟から行けばいいのだろうか。


(だとしたら、降りたほうが探しやすいかも。)


 私の意思を汲み取ったのか、鳥は急降下をして地面に着地する。


「ありがとうございます、お疲れ様。」


 鳥の魔法を解除して、次にたくさんのコウモリを創り出す。


「皆、地下につながる洞窟を探してください!」


 私の指示を聞くと、コウモリたちは素早く散らばっていった。  


 悪の根源を断つために、妹を解放するために。


 私は結晶を求めて走り出した。




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