幸せ
そういえば、リメアの様子も少しおかしかった気がする。
いつもより上機嫌で、私の化粧も入念に直してくれた。
今日って、なにか特別なことがあったかな。
(うーん、何も思い当たらないわ。)
結局なにもわからないまま、私は執務室の扉をノックした。
「レアン、おまたせしました。」
「ああ、では行こうか。」
私達は庭園へ向かって歩き始める。
いつもはするすると話題が出てくるのに、何故か今日は出てこない。
それに、胸がざわざわする。
レアンをちらりと見上げると、彼も緊張しているようだった。
途端に焦り始める私の心臓。
鼓動はどんどん速度を増していく。
話したいことって、何だろう?
別れ話……いや、そんなはずはないと信じよう。
ならば、何だろう、ペットを飼うとか?
頭の中で考えを巡らせているうちに、庭園のベンチにたどり着いてしまった。
(あ、懐かしい。)
実家での暮らしを聞かれた時の、あのベンチ。
まだレアンのことを信じることができなかったし、私も今より臆病だった。
そんなあの時の私は、すでにレアンが好きだったんだと思う。
だって、この人には捨てられたくないって思ったから。
二人でベンチに座ると、レアンが口を開いた。
「……懐かしいな。」
「はい……あの時はごめんなさい。」
「いや、いいんだ。俺が踏み込みすぎただけだからな。」
そう話していたのも束の間、再び沈黙が辺りを支配した。
レアンはそっぽを向いたまま、私に顔を見せてくれない。
このままでは何も進展しないので、痺れを切らした私はレアンに問いかけた。
「話したいことって、何ですか?」
私の言葉に、レアンはかすかに肩を揺らした。
ゆっくりこちらに向けられた顔は、耳まで赤く染まっていた。
「……レアン?」
「今まで、たくさんの出来事があった。」
「はい、そうですね。」
「最初は、君を蔑ろにしてしまったな。」
確かに、最初に出会った時のレアンは恐ろしくて、今にも私に剣を突き立てそうだった。
無愛想で、表情も乏しくて。
「正直、いつ殺されるのかって怯えてました。」
「本当に申し訳ない。」
でも、だんだんレアンのことを知っていくと、本当は優しくて素敵な人だってわかった。
「私はレアンと出会えてよかったと思っています。」
「……俺も、ルチェットと出会えてよかった。」
レアンと私は自然に見つめ合う形になった。
「俺に愛を教えてくれた、そんな君が愛おしくて仕方がない。」
レアンの氷のように透き通った瞳が、ゆらゆらと揺れて熱を帯びている。
そして、緊張を和らげるように息を吐いて、レアンは私にこう言った。
「ルチェット、改めて……俺と結婚してくれないか?」
「結婚……ですか?」
「あぁ、政略結婚に縛られず、本当の夫婦になりたい。」
私は今、きっと苺のように真っ赤になっている。
頬に涙が一筋流れて、それを皮切りにどんどん涙が止まらなくなっていく。
「だから、結婚式をしたいんだ。」
「結婚式っ……ひっく……うぅ……」
「君に一生を捧げると、誓いたい。」
辛くて、寂しくて、痛くて、何もかもを諦めたいと思っていた時もあった。
命からがら生きてきた証が、汚らしい傷が、身体中にたくさんあるのに。
レアンは私という臆病な存在を全部受け止めてくれて、愛してくれた。
こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。
「私……私っ、これ以上幸せになっていいのですか……?」
「一緒に、生きていこう。」
「レアン……えへへ、私達はこの世で一番幸せ者ですね……!!」
二人で涙を流していると、庭園に咲いている花々が光り始めた。
周りを見渡すと、一輪の薔薇の影から、ラシュルが顔を覗かせていた。
橙色と桃色が混じって、星々が光り始めた空と、色とりどりに淡く光る花々に囲まれながら、レアンと私は顔を近づける。
唇と唇が触れ合って、それはどんな砂糖菓子よりも甘くて。
熱を分け合い、私の吐息は彼に呑まれていく。
あぁ、このままずっとレアンに触れて、彼だけを感じていたい。
そう思えるほどに、この甘い幸せに心酔していた。




