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私の魔法

「これは…治癒の波長…そして、いや…」


何かをボソボソ呟いているけれど、いきなり私の手を掴んで色々な事を話される。


「貴女、ご出身は!?家族に魔法使いは!?あぁ、なんて珍しい!貴重なモルモッ……人材だ!」


モルモットと言いかけたのが聞こえた。


でも、それ以外はあまり聞き取れなかった。


「結論から言うと、貴女は生まれつきの魔法と与えられた魔法を持っています。そして、貴女の魔法には治癒の力が強く出ています。」


「生まれつき?治癒?」


お母様が私に魔法を授けてくれたのは分かるけど、生まれつきとはどういうことなのだろう。


治癒の力なら思い当たる節がある。


私は怪我をしても、すぐに治ることが多いのだ。


実際に、公爵邸に来たときも足を刺されたけれど、寝たら痛みは無くなっていたから、治っていたのかもしれない。


治癒とは自分にも適用されるのか。


その力を持つ人間はどうすればよいのか。


ユシルさんに詳しく聞こうと口を開く前に、ユシルさんが興奮して頬を赤らめながらまた早口でこう言った。


「貴女の魔法のイメージに、金色はありませんでしたか?それは精霊にしか使えない精霊魔法のイメージに出てくる色です。貴女は精霊なのですか!?」


「に、人間です!!」


精霊とは、この世界に存在するのかどうかもあやしいような、とても珍しく確かに存在する生命体。


と、本で読んだ。


そんな精霊の魔法のイメージが、私に出たというのはどういうことだろう。


身内に精霊なんかいるはずないし、いるはず……ない……


『いいの、わが子の為ならなんだってする。そうして、死んでいった子達に償うの。いいでしょう、ラシュル。私の唯一の友達。』


ラシュル、夢に出てきた浮かんでいる生命体。


ラシュルとは何者だったんだろう。


もしかして、精霊だったり?


「ルチェットさん、何か心当たりが?」


「あ……はい、夢でラシュルという精霊?を見ました。」


「夢で!?それはどんな夢なのですか?貴女はそのラシュルという精霊と契約を?いや、それとも」


「ストップ、ルチェットが困っている。」


ユシルさんの早口を、レアンが止めてくれた。


ユシルさんはきっと、好きなことに執着してしまうタイプなのだろう。


現に、色々なことをまくし立てられて、頭が爆発しそう。


だって、すごく早口だから。


「……失礼。とりあえず魔法の使い方を教えましょう。」


ユシルさんは手のひらを上に向けて、私の前に差し出した。


すると、ぽわぽわと光が現れて、手のひらの上で踊るように形を作りはじめる。


そうして完成したのは、小さなハムスター。


普通のハムスターと違うのは、体の輪郭が緑色に光っていること。


「魔法とは、要はイメージなんです。自分の想像力と魔法力を組み合わせて、それを実現させる。ルチェットさんなら簡単だと思いますよ。」


ユシルさんはそう言って、ウサギを蝶々に変化させた。


蝶々は私の手のひらに止まって、キラキラと粉塵になって消える。


私はユシルさんに言われた通り、自分の出したいものを想像してみる。


何を出そうかな、可愛らしい方がいいよね。


うーん、可愛らしい……


目を瞑ってうんうん唸っていると、瞼の向こうが一際明るくなった気がして目を開ける。


私の目の前には、もふもふ……もふもふ?


「わふ!」


「……お、オオカミ!?」


辺りはしんと静まった気がする。


オオカミの尻尾を振る音しか聞こえない。


私の思う可愛らしいものって、オオカミ?


「……オオカミですか!しかも大きさもかなりありますね。最初からこの大きさを出すのは相当難しいですよ。」


ユシルさんはパチパチと手を叩いていて、多分私を称賛している。


でも、その表情は悪だくみをしているような、悪戯をする前の子供のような表情だった。


「相思相愛ですね。このオオカミ、公爵に似てますよ。」


「わおん!」


そう言われて、バッと勢いよく振り向いてオオカミを見る。


黒い毛並みに、牛乳をこぼしたみたいな白が混じっていて、薄青色の瞳で。


見れば見るほどレアンに似ていて、私は顔から火どころか、溶岩が出そうなくらいに真っ赤になっているだろう。


「ルチェット……」


「れ、レアン、これはちがくて……」


私が言い訳を考えている間に、レアンは虫を閉じ込めるようにした手のひらをこちらに差し出して魔法を使っていた。


閉じた手が開かれると、そこには薄い桃色をした小さなウサギが、ちょこんと大人しく座っていた。


「ルチェットみたいだろう。」


レアンは誇らしげな顔でそう言って、私の手のひらにウサギを移してくれた。


「ふわふわ……可愛いです……」


「ルチェットの方が可愛らしいよ。」


「いえ、レアンの方がかわ……かっこいいです!!」


私達は謎の言い合いを始めてしまった。


可愛いとかっこいいの言い合いは中々止まらなくて、私達がやっと止まったきっかけは、ユシルさんが出したハートが私達の周りにプカプカ浮いていたからだった。


「ラブラブですね……」


生暖かい視線が私達を襲う。


私は恥ずかしくてやめるように言ったけど、レアンは何故か満足気だった。


オオカミは不満気だったみたいで、ウサギがぽぅっと消えると、私の手に頭を擦り寄せてきてくれた。


「くぅん……」


「ごめんね、あなたも可愛いよ。」


悲しげな顔が一転して、ぱあっと笑顔になった。

こういう所もレアンにそっくり。


「さて、魔法の使い方はわかりましたね?」


「はい、ありがとうございます!」


「これからどうされるのですか?」


「……お母様の置いていった宝石を取り戻しに、妹の元へ。」


エレンはきっと、前より私を憎んでいるだろう。


だけど、私にはたくさんの味方がいる。


何より、魔法という素敵な力も授かっている。


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。レアン、そろそろ帰りましょう。準備をしないと。」


「では、私が出口まで送りましょう。」


ユシルさんと一緒に魔法使いの拠点を出て、教会の中を歩いていく。


すると、ユシルさんに耳打ちされた。 


「これを公爵に飲ませてください。試作品ですが、人体に害はありませんので。必ず、夜に飲ませること。何か聞かれたら、魔力増強薬と答えること。」


私の手に小瓶を押し付けて、ニヤリと怪しい笑みを浮かべた後、それでは。と、踵を返して戻ってしまった。


小瓶には、紫に寄ったピンク色の液体が入っていて、本当に人体に害がないのか心配になってしまう。


小瓶に気を取られて歩くのが遅くなってしまったからか、レアンが私の方へ振り向いた。


「……それは?」


「あっ、えっと、魔力増強薬です!」


「…………そうか。」


レアンは私の手をとって、ゆっくり歩き始めた。


そんな優しい大きな手に顔を綻ばせながら、次の目的に想いを馳せた。





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