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愛をみくびらないでいただきたい!

次の日の朝、私はいつもより早く夢から醒めて目を開けると、目の前にはレアンの顔があった。


しかし、レアンは目を伏せて規則よく呼吸をしていてまだ寝ているようだった。


起きて支度をしようと身動ぎするけど、全然抜け出せない。


寧ろ私を抱きしめている力が強まっている気がする。


しかし目覚めている様子は無く、私は仕方なくレアンが起きるまで待つことにした。


「……起きないのですか?」


暫く経っても目を瞑ったままだから、レアンに向けてぼそっと呟いてみる。すると、ゆっくりと目が開いて薄青い瞳と目が合った。


「…おはよう。」


「おはようございます。」


寝起きで掠れた声にドキッとしたのを隠すように、レアンの胸に顔を埋めた。


心臓の心地よい音を堪能していると、頭を撫でられる感覚があってレアンを見上げる。


レアンは心底愛おしいと言うかのような視線で私を穴が開くくらい見つめていた。


「れ、レアン。起きましょう?支度をしないといけません。」


「……そうだな。」


「だから、離してくれませんか…?」


「嫌だ。」


そう言って私を離さないレアン。


…レアンってこんなにベタベタするような人だったっけ。


と思ったので、私はレアンとの思い出を振り返る。


最初に出会った頃のことを思い出しては、態度の違いが激しくてくすくすと笑ってしまった。


レアンは最初オオカミみたいだと思ったけれど、やっぱり大型犬だったみたい。


だって、こんなに私にべったりなんだもの。


犬が懐いてくれたみたいで嬉しく思う。


さて、今日は教会に行くから本当に起きなければいけない。


「レアン、起きますよ。」


「嫌だ。」


「…起きましょう。今夜また一緒に寝られますから。」


「起きる。」


その反応速度はすさまじく、レアンは素早く上体を起こしたので私も起き上がる。


流石にレアンの前で着替えるわけにはいかないので、私は自室に戻りリメアを呼んだ。


「おはようございます!」


「おはよう。」


一日しか経っていないのに、リメアと会話したのは久しぶりのように感じた。


私は顔を洗ってから、リメアに手伝ってもらいドレスに着替える。


ドレスは重いから一人で着るのが大変。


一人で着られるような軽いドレスはないのかな。


なんて一人脳内で一人ごちる。


「ルチェット様、出来ましたよ。」


「うん、いつもありがとう。」


「はい、ではお食事に行きましょうか!」


私はリメアと共に食堂へと向かった。扉を開けて中に入ると、既にレアンが座っていた。


「待たせてしまいましたか?」


「待ってない、大丈夫だ。」


私はほっとしながら席に着くと、今日の朝食も美味しそうだなぁと顔を緩ませた。


パンケーキにスコーンに…どれも私の好きなものばかり!


まぁ、食べ物は何でも好きだけど…。


「ふ、はは。」


「な、何で笑ってるんですか?」


「いや、ニコニコしている君が可愛くて。」


「なっ…!?」


私の緩んだはしたない顔を見られてしまったし、それを見て可愛いだなんて…レアンったら。


「…冷めない内に食べましょう。」


私は一つ咳払いをしてからスコーンを手に取った。


甘酸っぱくて美味しいイチゴのジャムを塗って、一口ぱくりと齧る。


もちろんとても美味しいに決まっていて、気がついた時にはスコーンがもうあと一つになっていた。


我ながら恐ろしい速さ。


レアンも食事しながら私をずっと見ているので少し恥ずかしい。


「ご馳走さまでした。」


「もっとあるぞ、食べないのか?」


「へ、平気です!そんな食いしん坊みたいに…!」


「食べている君は幸せそうで可愛いからな。」


そ、そんなこと言われたら…もう少しだけ食べちゃおうかな。


私はレアンの視線に負けてもう二つスコーンを食べることにした。


もぐもぐと咀嚼していると、レアンはため息をついていた。


「な、何か気に障ることをしてしまいましたか…?」


「いや…違う…こんなに可愛らしく綺麗で聡明なルチェットが、教会に行ったら人々からモテてしまって俺から離れるんじゃないかと…。」


「だ、大丈夫ですよ〜!私はレアンが好きですから、他の人に目移りしませんよ!」


とても早口でまくし立てられたので半分くらい聞き取れなかったけれど、なんとなく内容は分かったので安心させようと言葉をかけ続ける。


「特にユシルだ!!アイツは絶対駄目だ!!」


急に叫ぶものだからびっくりしてしまって、私は涙目になりながら様子のおかしいレアンに問いかける。


「私のこと、信用できませんか…?」


「なっ、違う!そうではなく…」


「なら、安心して下さい。私の愛をみくびらないでいただきたいです!」


「……ふ、そうだな。俺はこんなに愛されて幸せ者だな。」


急に惚気てくるものだから私だって!と言い合いになって、教会に行く予定が少し遅れたことは、ユシルさんには内緒にしておこう。


私達は急いで支度を済ませてから馬車に乗り込む。


もちろん、二人並んで座り肩をくっつけてお互いに温もりを堪能しながら。


レアンは優しい温かさをしていて、私はうとうとしてしまったけれど、何とか持ち堪え私達は教会に着いた。


「わぁ……!綺麗な建物ですね!」


「神を信仰する場所だからな。」


魔法使いの拠点ではないのかと聞くと、魔法使い達が場所を借りてこっそりと研究しているのだそうだ。


何を研究しているんだろう。


教会を歩いているとシスターさんとすれ違うのだけれど、レアンを見ると顔を引き攣らせていたから、やっぱり外では残虐公爵なんだなと改めて実感した。


私と話したりする時は残虐だなんて言葉が出てこないくらいに甘いから尚更びっくりしてしまう。


「おや、いらっしゃいましたか。ようこそ魔法使いの拠点へ。」


「ユシルさん!ごきげんよう。」


ユシルさんはレアンと私を交互に見ると、キツネのように目を細めてこう言った。


「魔力の波長が少し似てますね、キスでもしましたか?」


「キ……キス!?!?」


「ユシル…!!」


ユシルさんは心底面白いというような顔をしていたけど、スッといつもの少し胡散臭い笑顔に戻って本題に入り始めた。


からかってくるのは良いけど、切り替えが早い人なんだなぁ…と、びっくりして混乱しそうになる自分を落ち着かせる為に深く息を吸って吐いた。


「早速ですが、ルチェットさんに魔力を出してもらいそれを私が計測します。レクチャーをするのでご安心を。」


「は、はい!」


「では、手を取って下さい。」


私はユシルさんの差し出された手の上に自分の手をそっと重ねる。


レアンの視線が痛い。


「まず、目を閉じて。それから自分の魔力を想像して下さい。それを手から出すイメージで念じるのです。」


「ん………」


私は言われた通りに目を閉じて想像する。


自分の魔力はどんなものなのだろう。


と、考える。


すると、不思議なことに頭の中にイメージが湧いてきた。


ピンクと水色で、金色で、雲みたいにふわふわしている。何だか可愛らしいかもしれない。


そのイメージを手から出す……


「………ぷはぁっ!」


息を止めていたらしく、私は苦しさで現実に引き戻された。


はあはあと肩を上下させていると、ユシルさんは驚いた様子で私を見ていた。

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