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奇跡の魔法

少し冷たくなっていた彼の唇から自分の涙に濡れた唇を離した。


すると、レアンの体が何故か光り始めた。


まるで包み込むような優しい光がぽわぽわと浮かんで、パッとレアンを見ると先程より明らかに顔色が良くなっている。


そして、長い睫毛が上がって、薄青色の瞳と目が合った。


「レアンっ!!」


「ルチェット……」


私はレアンの綺麗な顔に涙をぽたぽたと落としながら彼の名前を呼び続けた。


レアンは上半身を起こすと自分の体をペタペタと触って不思議そうにしている。


「…傷が、無い。」


「………へ?」


そう言われてぽかんとしてしまったけれど、すぐにレアンの包帯を慎重に取ってみた。


なんと、血は付着しているものの、傷は無く綺麗だった。


「なんで……」


「…夢の中で、幼女を見た。」


レアンは夢の内容を唐突に語り始めた。


それは、私が前に昏睡した際に見た夢の、少年とのやりとりと似ていた。


「もしかして、お母様……わ、私に似ている大人の人はいませんでした?私も成人してるけど…もっと綺麗な人です!」


「…………いたような、いなかったような。曖昧でわからない。」


「そう…ですか…。」


とにかく、レアンが無事で嬉しくて、レアンの頭を抱えるように抱きしめた。


存在を確かめるように。


「そうだ、ちゃんと伝わったよ。」


「えっ……あっ!」


「俺も、君のことを全て愛しているよ。」


止まった筈の涙がまた、ぽろぽろ私の頬を伝って落ちていく。


通じ合えた事が嬉しくて、でも本音を聞かれたのも照れくさくて。


色んな感情の混じった今のこの気持ちが、今までで一番心地よかった。


「あの、別室にいらっしゃるお医者さんを呼んできます。」


「……嫌だ、一緒にいたい。」


「っもう!子供じゃないんですから…ぅ……し、仕方ないですね…!」


普段はオオカミのように威厳があるレアンだけど、子犬のような可愛い顔をされたら、私だって断れない。


でも、お医者さんは呼ばないといけないのでどうしたものかと考えていると、カリカリと扉を引っ掻くような音が聞こえた。


「にゃーーお」


「ね、猫…?」


猫の声に扉を睨むレアンから離れて扉を開いてみる。


すると、モフモフした猫がちょこんと座っていた。


「どうしたの?迷子ですか?」


「にゃあ」


猫は私の胸元に飛びついてきて、抱っこを要求しているようだった。


モフモフで手触りが良いので、飼い猫かなと思いながら抱っこして、ベッドの方へ戻る。


「どうしましょう、猫ですよ。」


「…………ん?待て、その猫は…!」


「えっ……ひゃあ!?」


私は瞬き一つの間に宙に浮いていて、誰かの腕に抱かれているのだと気づくのに時間ががかかった。


上を見ると、綺麗な男の人の顔が近くにあった。


「おや、流石公爵。すぐ気づかれましたねぇ。」


「今すぐルチェットを離せ。」


笑う男の人と、今まで見たこと無いくらいの怖い顔をして男の人を睨むレアン。


状況がいまいち掴めないので、ここは聞いてみるのが手っ取り早いだろう。


「あの、誰ですか?猫は…?」


「ん?先程の猫は私です。私は教会から来ました、魔法使いの総括責任者ユシルと申します。以後お見知り置きを。」


「教会……???」


教会、リメアから聞いたことがある。


魔法使い達が集まって研究をしたり、聖職者が治癒を行う場所らしい。


それに、総括責任者ということは偉い人なのは間違いない。


でも、何故ここに?


私達は何もしてないんだけど。


「手短に話せ。お前は滅多に外に出ないからな、きっと何かあるんだろう?」


「では手短に話しますね。結論から言いますと、今まで感知したことのない大きな魔力を感じたので来ました。」


「魔力…?」


私は先程の光景を思い出した。


レアンの体が光って、それからすぐに起きた。


それから、酷かった傷が無くなっていた。


そのことをユシルさんに話すと、考え込む様子を見せてから口を開いた。


「恐らくですが、ルチェットさん。貴女の魔力でしょう。公爵の魔力は波長が分かるので違いますし。」


「私のですか…!?」


でも、何故私が魔法を使えたのかな。


お父様もエレンも魔法は使えなくて…もしかして、お母様?


私はあの時見た夢の内容を思い出してみる。


『私の事はどうだっていい、だから私の力を全て次の子に託してほしい。』


次の子、というのが私だったとしたら?


これはお母様が私に託してくれた力だとしたら?


考えれば考える程分からなくなっていく。


私はユシルさんなら何か分かるかもしれないと考えがついたので、夢の中の出来事を簡単に伝えてみた。


「プリュイ……はて、そんな方は…いえ…」


「会ったことは無いですか…?」


「………その、貴女のお母様の出生は分かりませんか?」


出生、と言われても…


私が生まれてすぐお母様は失踪したってお父様が言っていたし、分かるわけが…。


「…………あ!」


お母様の遺した、エレンに奪われたあの宝石!


確か、あの宝石は変な紋様が入っていたし、まだエレンが持っているなら、何かの手がかりになるかもしれない。


宝石について話すと、ユシルさんは頷きながら持ってきて欲しいと言った。


でも、どうやってエレンから取り返せばいいのだろうか。


それに、ロザリー様の事も片付けないといけないのに…。


「う〜…やる事が山積みです…」


「ルチェット、俺を頼ってくれないのか?」


私が途方に暮れていると、今まで何故か黙っていたレアンが急にそんなことを言い出した。


確かに、レアンは一人で何でも出来てしまうような人だから、頼りたい気持ちはある。


でも、これは私の問題だから迷惑をかけたくない。


でも…でも……少しくらいなら、いいのかな。


「じゃあ、一緒にエレンの所へ行ってほしいです。」


「ん、分かった。」


レアンは私の頬に沢山キスをする。


ユシルさんがその様子をニヤニヤと見ていたので、急いでやめさせたら、むすっと拗ねた顔をされた。


「ルチェットさん、一度教会に来てみてはいかがですか?魔法の使い方も教えますし、何より貴女の魔法の性質を調べられます。」


それを聞いて私は魔法について改めて考える。


もし、もし私が魔法を使って役に立てるのなら。


誰かのために強くなれるのなら。


それは、私が私を乗り越える一歩になる筈だと思う。


「レアン、出来るだけ早く教会に行きたいです。私の魔法のことをもっと知りたいです!」


「……分かった、明日に教会へ出向こうか。」


レアンはとても嫌そうな顔をしていた。


そんなに教会が嫌なのかな。


ユシルさんにも威嚇するように睨んでるし。


「では明日、お待ちしております。私は帰りますね。本日は突然来訪してすみませんでした。」


ユシルさんはそう言うと、私が座っている近くに跪いてから、私の手の甲にキスをした。


「ッお前!!」


「ははは、ではまた。」


ユシルさんは魔法を使ったのかパッと消えてしまったけれど、レアンの怒り?は収まりそうになかった。


「レアン、落ち着いて下さい。何で怒ってるんですか?」


「………した。」


「え?」


「嫉妬した。」


嫉妬、って。やきもち妬いてるってことでいいのかな。


そっか、ユシルさんとずっと話し込んでたし、手の甲にキスもされたし、レアンは我慢してくれてたんだ。


何だか悪い事をしたような気分。


「ごめんなさい、大事なお話だったので…」


レアンはこちらを向かずに、そっぽを向いて顔を見せてくれない。


私が申し訳なくてレアンの前に移動すると、急にガバっときつく抱きしめられた。


「私の一番はレアンだけですから。」


子供をあやすように大きな背中をゆっくり撫でる。


すると、レアンは背中を撫でていた私の手を掴んでから頭に持っていった。


「…もっと撫でてほしい。それで許そう。」


そ、そんな、捨てられそうな子犬みたいな目で見ないで...!


私の心臓が早くなっていくのがバレちゃう!


誤魔化すように頭を撫で始めると、さらさらの髪の毛がくすぐったくて。


レアンを見ると目を細めて気持ちよさそうにしていた。


本当に犬みたい。


耳と尻尾の幻覚が見える気がする。


そのまま暫く撫で続けていると、様子を見に来たリメアが部屋に入ってきて、バタバタお医者さんを呼びに行った。


酷かった容体はすっきり全快になっていたらしく、お医者さんは驚いていた。


夜が近くなっていたので、私達は一緒に寝ることになった。


ベッドに二人で寝転がって、レアンの腕の中で考える。


レアンが助かって本当によかった。


私に魔法の力があってよかった。


この力を授けてくれたであろうお母様に心から感謝をしながら、たくましい腕の中で、幸せに包まれて眠りについた。



学業もあるので、書けたら更新になると思いますが、1週間に1回は更新できるように頑張ります!

読んでくれてありがとうございます!

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