7.母
子供達が帰り今から夫と永人は説教タイムです。
「お邪魔しました」
親の躾がいい様で子供達はお礼を言い帰って行った。キッチンに戻り料理の続きをすると
「ママ…ごめんなさい」
キッチンに来た永人が両手を握り締め泣きそうな顔をして謝る。察しのいいこの子は何が悪かったのか理解している様だ。やっぱり夫の言うとおり、永人には夫の真実を伝えるタイミングなのかもしれない。
「永人はウチのお父さんが他のお父さんと違うを分かっているよね」
そう問いかけると真っ直ぐに私の目を見て考え、ゆっくりと頷いた。子供の成長を嬉しく思う反面、大きな義務を背負わせる事に責任を感じる。
「あのね今日は話す事はできないけど、お父さんの事をちゃんと永人に話したいの。その時が来たら話を聞いてくれる?」
「うん。僕もちゃんと大好きなお父さんの事知りたい」
嬉し涙を堪えて永人を抱きしめてから、永人の手を引き一緒に永人の部屋の片付けに向かった。私はおやつの皿とコップを持ってキッチンに戻り、永人は夕飯まで宿題を部屋でする。
子供の成長は嬉しいが色んな問題が起こり悩ましい。約束の日まで平穏な生活はできるの? また引越しする事になるの? 行き先に不安を持ちつつ夕飯の準備を急ぐ。
やっと夕飯ができると夫が階段を駆け下り、私を見つけ抱きつく。そしてゲームを作り終えサイト登録も終えたと言い、激しい口付けをしてきた。苦しくなった私は夫の背中にパンチを繰出し解放してもらって
「何が悪かったか分かってる?」
「なんとなくは…」
溜息を吐き夫に何がいけなかったのか説明をする。趣味や仕事でプログラミングする人ならゲームくらい作れるだろうが、他の人は初めてプログラミングして作る事は出来ない。それも数十分でなんて無理。
そう告げると驚く夫。夫はこの世界の常識に疎い。出会った頃からしたら常識もルールも理解した方だが、まだ分からず遣らかす事も多い。そんな時は子供の様に教えてやらなければならない。
大きい子供がもう一人いると思っているが、本音を言えば辛いと思う時もある。
『でも素直で可愛いから憎めないのよね』
そう思いながら夫を見ると反省しているのか落ち込んでいる。そんな夫が大型犬に見え笑ってしまう。笑った私を見てちゃんと学んだと言い、抱きつき耳元で夜のお誘いをする。期待した目で私を見る夫に
「遣らかしたからダメ」
「えー!」
再度反省を促すと抱き付いてきた。
「あーずるい僕も」
宿題を終えた永人が階段を降りてきて、私と夫の間に入ってきた。夫は永人を抱き上げて私引き寄せ抱きしめる。暫く幸せを感じていたら
“ぐぅー”
永人のお腹の虫が鳴いたので夕食にする。今日はTVを消して永人の話をBGMに食事を楽しみ、食べ終わると皆んなが席を立つ。すると家の電話が鳴り永人が出てくれる。
永人は私に代わる事無く誰かと話している。そして私を呼び電話の子機を渡した。
『夕飯は終わったかい?』
「うん。お母さん体の調子は?」
電話は母からだった。母は田舎で一人暮らしをしている。看護師の資格を持ち定年退職後、同級生の病院で週3日のパートをしている。
じっとしているのが性に合わない様で、70歳を超えても働くパワフルお祖母ちゃんなのだ。
『この盆休みなんだけど』
「いつも通り帰るつもりよ」
『今年は私がそっちに行こうかと思ってね…』
母がウチに来たいと言ったのが初めてで驚く。ウチは夫の件で何度も引越し実家から遠くなってしまい、帰省するのは盆正月だけで頻繁に帰れていない。急な提案に戸惑う。特別断る理由は無いのだが、実家は海が近く永人が帰省を楽しみにしていたから躊躇してしまう。
それに母の話し方に違和感を感じるのは気のせいだろうか?
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