6.プログラミング
子供達と夫におやつを出し、自分もティータイムを楽しもうとしたら…
「さて!私もおつやにしますか」
珈琲を淹れ残ったドーナツで私もティータイム。今日のドーナツは85点。私には少し甘すぎたからマイナス15点。そう思いながら甘いドーナツを摂取し、本を読みながらのんびり過ごし…てたのよ!それが…
突然2階の永人の部屋から叫び声や奇声が聞こえてきた。尋常じない声に慌てて階段を駆け上がり、永人の部屋に飛び込むと…
「いや!ここはアイテム選択にするべきだ」
「違うよ父さん。アイテム買うためにミッションを先に入れないと!」
夫と永人がPCに齧り付き何かをしている。友達を放置して何をしてるんだと怒ろうとしたら
「おじさんも永人もスゲー!短時間でゲーム作っちゃうんだもん」
「次は僕の番だよ!」
なんと夫の書斎にあったTVとPCを持ち込み、即席でプログラミングし、作ったゲームで子供達と遊んでいたのだ。その状況を知った私は卒倒しそうになる。
『完全に井鷺氏に報告という名の始末書やん。いや下手したらまた引越し…』
そう思うと高速でタイピングする夫の手を取り、顔を近づけ子供に聞こえない小さな声で
『井鷺氏。報告。引越し』
「!」
そう呟くと夫はノートPCを閉じ、子供達に仕事に戻ると言い書斎に戻ろうとした。怒り心頭の私は大きな声で
「テ・レ・ビ!」
「はいー!」
夫は片手にノートPC、もう片手に50インチのTVを持ち書斎に戻って行った。夫を追出し深呼吸し顔を作ってから振り返り
「楽しんでいた所ごめんね。永人のパパ仕事があるから」
そう言い誤魔化した。察しのい永人は私が怒っているのに気づきテンションを下げる。友達は状況を理解しておらず、直ぐに別のゲームやカードゲームで遊びだした。それを見て胸を撫で下ろし永人の部屋を出た。そして直ぐに自分のノートPCを取り出し、監督者である井鷺氏にメールを打つ。
メールを送信し珈琲を淹れなおすと井鷺氏から着信。直ぐ出ないといけないのに手が伸びない。さすがに5コール目に出ると
『井鷺です。お世話になります。状況確認です』
「いつもお世話になっております。ご迷惑おかけしております。今回は相手が子供なので大丈夫だと…」
そう言うと電話口から特大の溜息が聞こえてきた。それを聞き井鷺氏の小言を覚悟する。
『とりあえず彼が作ったゲームを完成させ、今から送るサイトに登録して下さい。ちなみにゲームは簡単な物に仕上げて下さい。彼なら簡単でしょう』
「サイトに登録?」
井鷺氏の対策は無料ゲームサイトを作り、夫が作ったゲームは2日前に登録された別人のゲームと偽装。子供達と遊んだゲームはこのサイトのゲームだったと押し通す様だ。相手は小学1年生でまだ騙されてくれる年頃だから大丈夫だと判断した様だ。
井鷺氏からあの場にいた子供の名前を聞かれ、井鷺氏はその子供の親も調査し、親にITに詳しく者がいない事も確認済み。本当に卒がない井鷺氏だ。
夫の遣らかしを誤魔化すためにゲームサイトまで作ってしまう《あそこ》は恐ろしい。でも《あそこ》が無ければウチの家族は生活はできなかった。
サポート及びフォローをしてくれる井鷺氏に感謝しかない。
電話を切り直ぐに夫の書斎に行き井鷺氏の指示を伝えると、反省しているのか夫は直ぐに先程のゲームの続きを作り始めた。
私は邪魔にならない様にそっと部屋を出て永人の部屋に行き、子供達に帰り時間だと告げ片付けを促す。子供達は素直でみんなで片付けを始めた。それを見て安心し私はキッチンに戻り夕食の準備を始める。
“ピンポーン”
インターホンが鳴りモニターを確認するとお向かいの鈴木さんだった。溜息を吐き玄関に向かい扉を開けると、満面の笑みだった鈴木さんの奥さんの顔が素に戻る。この奥さんは夫目当てなのよね…
「また夫が沢山茄子を収穫して困っていたの。良ければ食べてくれる?」
「いつもすみません。ご主人にお礼を伝えて下さい。そうそうウチも…」
ある物を思い出し取りに行き
「今朝焼いたパンです。良ければ食べて下さい」
「あら〜嬉しいわ。香里さんのパンはお店の物より美味しいから夫が喜ぶわ」
鈴木さんの奥さんはそう言いながら、うちの奥に視線を向けた。多分夫登場を期待しているのだろう。しかし夫はプログラミングに必死で暫く書斎から出てこない。この奥さんに夫を会わすと、中々帰らないから嫌なのよ。
夫が出てこないと分かると、奥さんはあっさりと帰っていた。今日何度目かの溜息を吐くと2階から子供達が降りてきた。
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