4.能力
夫の順番が来て駆けだすが…
「パパ!頑張れ!」
永人の声が響き渡ると夫が超加速し、半周差の先頭に追い付き1位とほぼ同時にバトンリレー。青組のアンカーはちょいメタボパパだが、見た目に反しとても速く1位でゴールした。
「嘘!ウチの夫が2位なんて!」
後ろで拓斗くんのママが叫んだ。後で聞いた話だが拓斗パパは陸上短距離で国体出場の経験があるそうだ。それに子供の行事のリレーとはいえ親も見栄があり、リレーに出た親達は若い頃スポーツ経験者であり、走りに自信のある人ばかりだったのだ。
走り終え退場した夫は髪をほどき、児童席に居る永人に親指を立てた。永人は腕が抜けそうなくらい手を振り興奮している。その姿は微笑ましく少し泣きそうになったのは2人には黙っておこう。
そして保護者席に戻ってきた夫は私に抱き付き
「香里さん。僕頑張ったよ」
「お疲れ様。カッコよかったよ」
そう言うとタオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲みTシャツの袖を捲った。すると後ろから黄色い声が上がり、振り返ると他のクラスのママ達が後ろから夫を見ていた。私は慌てて夫のシャツの袖を戻した。はいやきもちです。
「凄い走りでしたね。陸上経験者ですか?」
拓斗パパが声をかけて来た。そしてその後ろに拓斗ママが頬を染め夫に秋波を送っている。午前中あれだけ夫を貶していたのに、変わり様に呆れてため息が出た。
夫は他のパパさんと話を合わせた後に私に視線を向けてた。これは着替えに行ってくるの合図だ。カバンからお着替えセットを出し夫に渡すと、夫は着替えに向かった。
「永人パパがあんな男前なんて知らなかったわ。なんでいつもは隠して居るの?」
佐久間ママにそう聞かれたが、人見知りするのと身なりを気にしない性格なのだと話すと納得してくれ、勿体無いと言い笑ってくれた。どうやら上手く誤魔化せた様だ。
少しして戻って来た夫が見えてきたら、数人のママに絡まれている。苦笑いし困っている夫。視線で助けを求めてる。
私は立ち上がり夫の元に行き、手を引き一旦喫煙場に避難した。夫婦共に喫煙しないけど、運動場から一番遠く人が少ない喫煙場でゆっくり夫と話をする。
『ちょっと目立ち過ぎたね』
『えーあれでもダメ。あれでもかなり加減したんだよ』
そう言い口を尖らせる夫。夫の言い分は本当で、本気を出せば簡単に世界新記録を出してしまうほど身体能力は高いのだ。それに容姿も人工物の様に整っている。本音を言えば夫の隣に立ちたくない。自分の平凡さを痛感してしまうから。
でもこんな十人前の私を夫は女神だと言い、どんなに美しい女性に目もくれない夫。そんな夫の事を
『きっと夫は美的感覚がズレている』
と思っている。そう思わないと超絶綺麗な夫と一緒に居れないもん。
「1年生は徒競走の準備をして下さい」
「!」
アナウンスがながれ永人の競技が近付いていることを知り、保護者席に戻らず夫と撮影エリアに移動して写真を撮影と観戦をする事にした。
1年生の徒競走は50mを8人が一斉に走る。永人の順番が来たのでカメラを構えると…
「あ…」
「香里さん!永人一番だよ」
そう。永人は夫に似て足が速い。ぶっちぎりで一番だった。ゴールにいた先生達が固まっている。どうやら普段永人は加減して走っていたらしく、パパの走りをみて感化された永人は本気で走った様だ。
『あー下手したらまた引越しかも』
そう思うと気落ちして来た。私が黙り込んだのを見た夫は、このくらい多分誤魔化せるよと意味不明なフォローをする。
こうして悪目立ちした体育祭は終わり、無事?家族で家に帰る事ができた。
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