34.母の秘密
母に彼氏がいた事に驚き…
「え?」
やっとでた言葉だった。母は私がテンパっているのを分かっていて待ってくれている。
「ごめん全く話が見えてこない」
そう言うと母は姿勢を正し静かに話し出した。お相手は帰省した時に海で会った笹川先生。真面目な母が職場恋愛していた事に驚きを隠せない。だって母は私と同じで元々結婚願望が無く、父が亡くなった後もそこそこモテたが1人がいいと言って、再婚どころか彼氏すらつくらなった。それが今になって?
母の心境の変化に戸惑っていると、母が別室に待機している笹川先生を呼んでもいいか聞くが、私の返事もそこそこに井鷺氏がスマホを取り出し何処かに連絡をした。すると数分で職員に案内され笹川先生が登場。
「改めて香里さんにご挨拶させていただきます」
そう言い笹川先生は私の目の前に来て挨拶をした。先生は先日の海で会った時と違い、こげ茶の品の良いスーツ姿で育ちの良さがにじみ出ている。挨拶の後に笹川先生は母の隣に座った。ツーショットを目の当たりにして、娘としては複雑な気分だ。
少し気まずい空気が流れると、咳払いをした井鷺氏がファイルを開き話し出す。
「以前お話ししておりました、お母様のお身体の事ですが、笹川先生が健診をして下さり今は問題ないとの事です」
母の健康状態に問題がないと聞きほっとする。それより母に彼氏がいた事は衝撃的だった。でも他問題があるとは思えないから、日常が戻って来そうだ。
そう思っていたら井鷺氏が私をじっと見ていて、何か言いたそうだ。無視できず聞いてみると
「先ほどの私の報告をちゃんと聞いてましたか?」
「ちゃんと聞いてわよ」
イラっとかながらそう言うと井鷺氏は先程と同じ事を言い…
「お母様のお身体は今は問題なくと言いました」
「今は?」
ハッとして母顔を見ると穏やかな表情をし
「笹川先生が早期に見つけてくれ完治したわ」
『はぁ?完治ってなに?』
またフリーズすると笹川先生が母の病について話してくれた。笹川先生は母の中学の時の同級生で、先生が親の病院を継ぐ為に地元に帰って来て再会した。丁度母が大学病院を定年退職した直後で、暇を持て余していだ時だった。
「年柄もなくお恥ずかしい話なのですが…」
そう言い先生は初恋の相手が母だと言い、ずっと想いがあったそうだ。笹川先生は再会した母の顔色が良くなく、純粋に心配し検査を勧め更に更年期に苦しむ母に知り合いの専門医師を紹介した。そして…
「検診で引っかかって、勤めていた大学病院で精密検査したら初期の胃癌が見たかったの」
「!」
もう驚き過ぎて言葉も出ない。母はあっけらかんとそう言い、そして治療後は再発や転移はないと言い笑った。そして更年期の方も紹介してもらった医院に通い楽になったそうだ。
「経過は笹川先生に観てもらっているから大丈夫」
そう言い先生と目を合わせて微笑む。
そして先生は母と距離を縮める為に自分の職場でパート勤務を提案。元々じっとしているのが性に合わない母は提案に乗り再度働く事に。
そして先生の猛アプローチの末お付き合いする事になったそうだ。
話を聞き驚いたが父が亡くなり1人だった母。その母がこんな幸せそうな顔をするならお付き合いするのもいいかもしれないと思い、応援しようと思っていたら井鷺氏が驚く事を言う
「これで契約と話は変わってしまいますが、これで正親氏の故郷に帰ることができます。後は香里さんの気持ちです」
「ちょっと待って!」
突然の話に思わず声を上げると、母も夫の故郷に早く移住すべきだと言い出した。
「私は詳細は知らされていないが、雅子ちゃんの事は私に任せてほしい。最後まで雅子の側にいると誓い悲しい思いはなせないから」
笹川先生はそう言い母の手を握った。私以外は話が分かっていて私だけ置いてきぼり。腹が立ち思わず
「待って!話が見えないし、勝手に話を進めないで」
気がつくと席を立ち叫んでいた。驚いた母が駆け寄るが自分が抑えられない。
すると井鷺氏が廊下にいる職員を呼び、笹川先生を別室に案内した。そして母と井鷺氏と3人になり、井鷺氏が温かいコーヒーを淹れてくれた。
そしてしばらくの沈黙の後、井鷺氏は母に視線を送ってから…
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