28.利害の一致
夫と香里が言っている≪あそこ≫の正体が分かる
「あの時は19歳の誕生日まであと2ヶ月に迫り、焦りと絶望で身なりのなんて気にしてる間が無かったんだ」
そう言い出会いが最悪だったと言う私に夫は言い訳をした。事情を聞けば仕方ないと今は思えるが、あの時は恐怖でしか無かった。
「あの後、圧迫面接ならぬ大川氏から経緯説明を受け、絶望したのよ私」
この大川氏とは公安警察で夫の様な異界から来る人物の警護と監視をする部署の偉いさんだ。夫の適当に付けた【正親】はこの大川氏の名前から付けた。
そしてこの時の黒服①~⑩は異界監視部の公安職員で今は私達家族の生活をフォローしてくれている。特に黒服①は後に出世し黒川家の監督者となった井鷺氏だ。
私と夫が常日頃口にしている≪あそこ≫とは公安警察の異界監視部の事。一般家庭で”公安警察”なんてフレーズがでる家は怪しく思われてしまう為、隠語として≪あそこ≫と呼んでいる。
話を昔に戻し大川氏が私にした夫とゲートの説明はこんな感じだった。
戦後、焼け野原になった土地の持ち主の確認をしていた時に、偶然ある関西の山の中腹でゲートを発見。そこから異界人が侵入している事を知った公安警察がゲートを調べ、異界と繋がっている事を確認。そして今繋がっている夫の故郷のクラトスカ王国と接触。初めは隣人か侵略者か判別できず、両国に緊張が走ったそうだ。しかし誠意をもって交渉している内に利害が一致。こうして両国の交流が始まる。
利害とは…クラトスカ王国は資源が豊かで特に鉱物を多く採掘しているが、工学が発展途上の為に価値を持っていなかった。その鉱物は日本では少量しか採掘できす喉から手が出るほど欲しいものだった。反対にクラトスカ王国は医学が未発達の為に薬が無く、薬草による治療が主で病で亡くなる国民が多い。そこで鉱物を日本に輸出する代わりに薬をクラトスカ王国に送る事で対等な関係を結ぶことになった。
『とは言え、ゲートの通信手段の水瓶は大きいとはいえ直系2m程。この水面を媒体に大量の物資をやり取りする。大変な作業なのよね』
そして今から10年前にクラトスカ王国から依頼があり、花嫁捜しにクラトスカ王国の王太子の滞在依頼が入った。日本政府は見返りがある事から快諾。直ぐに公安警察に異界監視部が設立された。そして夫は日本に渡りあのホテルに滞在し花嫁捜し。そして公安警察職員は夫のサポートと監視をしていた訳だ。
「東京から始まり47都道府県全て周り、見つけられず東京に戻ってきた夜に、滞在していたホテル近くで香里さんを見かけたんだ」
そうあの日の私はイレギラーな行動をしており誘った親友を後に呪った。その親友は大学の同じゼミ仲間で一番気が合う板野絢美。
彼女は都内の政府機関が多くある地区に勤めている。彼女から職場近くに美味しい牡蠣とお酒が味わえるお店を見つけたと連絡を受け、普段絶対行かないあの場所へ行き夫に捕まってしまったのだ。
夫が私を見つけた時の私は美味しいお酒と牡蠣に満足し、足取り軽くご機嫌で帰宅途中だった。それに彼氏と別れたばかりでいい気分転換ができたと絢美に感謝していたくらいだ。
「彼氏の話は聞きたくない」
そう言い夫は両耳を塞いだ。夫は出会う前の私の交友関係を聞きたがらない。理由を聞くと全てに嫉妬してしまうかららしい。そのくせ自分の故郷の話は聞いてもしてくれないズルい奴なのである。
昔話で盛り上がっていたら、課題を終えた永人がリビングに下りてきた。時計を見ると夕方になっている。慌てて回転寿司の予約をし、早めに出て薬局と本屋に寄る事にし身支度を始めた。
「今日は15皿食べて記録更新するよ」
そう言い楽しいそうに笑う息子の笑顔に癒され愛車で寿司屋に向かった。
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