23.真の名
真の名の秘密を知り…
「日本人ぽく正親なんて名を付けましたが、僕は香里さんが呼んでくれる【夫】の方がしっくりきます」
夫はそう言い笑った。初めて会った時に名前を聞き色んな呼び方をしたが、どれもしっくりこず呼び名迷子になった私。そして呼び方が定まらない内にスピード結婚をし対外的に【夫】と呼んでいるウチに、それがしっくり来てずっと【夫】と呼んでいる。
「なんで本当の名前を言ったら帰れないの?」
「うーん。永人には難しい話だから理解できるかなぁ…」
そう言い夫は考え込んだ。そして夫は永人が理解できる言葉を選びながら話す。
夫曰く夫の故郷では真の名は神からの贈り物とされ、神聖なものとされている。と言うのも身分関係無く名付けは神殿で行われ、神官から示された候補から父親が選びつけられる。
「神から頂いた名は神が加護する世界で存在する証となるため、異界で使ってしまうと存在が異界に移り故郷に帰れなくなるんだ」
「ゔーん。よく分からないけど、父さんの名前はここで呼んだらダメなんだね」
やはり永人には難しかった様だ。斯くいう私もなんと無くしか分かっていない。とりあえず日本に居るうちは正親が名となる。
「僕は愛する香里さんに早く真の名知ってもらい、そして呼んでほしい」
そう言い男の顔をした。永人がいるから今はやめて欲しくて一睨みすると夫は視線を外した。そして永人は夫の真の名が何か想像するのが楽しいらしく名前当てゲームを始めた。自分の知っている名前を次々に言う永人。その姿は可愛く夫の顔がゆるゆるになっていた。そんな夫を見ていて
『やっと本音を言ったなぁ…』
夫は出会ってから早く帰りたいと言った事がない。何故なら私が日本を離れる事を渋ったからだ。夫の説明の通り異界の女性と子を儲け、その子を連れ帰れば夫は次の王としての責務を全うできる。だから私が転移しなくても永人だけを連れ帰ればいい。しかし私に執着する夫は私の条件を飲み帰りを伸ばしてくれている。
夫は出会ってからずっと周りに帰りを急かされても私の気持を優先してくれた。
今は円満そうに見えるだろうが、実は永人が生れて1歳を迎える少し前に、夫に八つ当たりした事がある。理由は≪あそこ≫から夫の帰還を説得して欲しいとお願いされ、精神的に追い詰められた事が原因。
日本政府は厄介な異邦人である夫を早く還したいらしく、我が家のクラストスカ王国への移転を急がせた。
しかし私には直ぐに移転出来ない理由があり、それならば夫の血を継ぐ永人だけ連れていこうという事になった。勿論自分の子と離されるのも嫌だったが、自分の人生を他の人の思惑で左右される事に腹が立ち、当時責任者になったばかりの井鷺氏に噛みついた。
この頃の私は初めての育児と、この世界にまだ馴染んでいない夫のフォローでいっぱいいっぱいで、精神的に追い詰められていた。そこに息子を移転させろと言われキレてしまい夫に
「こんな事なら貴方と結婚しなければよかった。もう嫌だ。離婚するから他の女性と子供を儲けて帰還して」
突発的にそう言い夫に離婚を申し込んだ。この時の夫の顔を今も鮮明に覚えている。その私の暴言に夫は
「僕に任せて。ごめんね香里さんに辛い思いさせて…」
そう言い残し家を出た。そしてその日夫は帰らず死ぬほど(八つ当たりした事)を後悔した。そして翌日…
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