22.隔世遺伝
自分のルーツを話す夫。それを聞いた永人は…
異世界人である事を永人に告白した夫は、いつもと違い落ち着いていて大人っぽく感じる。永人も同じ事を思っている様で少し緊張している。
夫はやっと本当の自分を語る事ができ饒舌だ。夫は続けて故郷のクラトスカ王国の説明を一通りしたところで永人がお手洗いに立つ。
私はこのタイミングでキッチンから甘いお菓子を持って来た。難しい話をするときは糖分チャージが必要だろう。そしてお手洗いから帰って来た永人は、クッキーを見つけ嬉しそうにクッキーを頬張る。
「続きをしてもいいかな?」
夫は話を続け永人は座り直した。
「父さんの国の建国者は超人的な力を持ち、争いが絶えない大陸を纏め国を作ったんだ。それからその建国者の子孫が… あっ永人子孫て子供の事ね。子孫が国治めてきた」
永人は建国の話を楽しそうに聞いている。きっと絵本を読んでもらっている感覚なのだろう。夫は話を続け次に何故日本に来たかの説明をする。
夫の一族は建国者である初代の王アレスの血を継ぎ、超人的な頭脳・身体・精神力を持っていた。しかし代替わりしていくうちに能力を継ぐ者が減っていった。それでも数代に一人初代王であるアレスと同じ能力を持つ男児が生まれ、その者が王位を継ぐと国を発展させ安寧を齎した。
「それが父さん?」
「そうだけど、改めて言われると照れくさいな…」
「だから父さんは凄いんだね」
父親の能力が分かり明るい表情をし、またクッキーに手を伸ばす永人。そんな永人を優しい眼差しで見る夫は深呼吸をし話を続ける。
しかし先祖返りはいい事だけでは無かったようだ。
アレスの能力を持つ男児が生れると、次の代で能力の無い子が生れ国が傾いた。
それを何とかしたい第15代目の王が神殿に赴き神に祈りを捧げると、神からの啓示が下った。それは
『異界から妻を娶れば、生まれる子が能力を失う事は無い』
というものだった。そう夫が日本に来た理由は、異界の花嫁を探し、その女性との間に力を継ぐ子を儲けるためだったのだ。
父親から聞いた話が衝撃的で永人は興奮が止まらない。
本当はここから異界を渡った経緯と、故郷に帰るの話をしなければならないが、もうすでにキャパオーバーの永人。夫と話し合い続きは後日する事にした。
「えーもっと聞きたい」
「気持ちは分かるけど、今父さんから聞いた話をよく考えて理解しなさい。そうしなければ続きの話が分からないから」
夫は優しく永人を諭す。不服ながら頷いた永人を夫と私で抱きしめる。
私は下手したら永人は困惑して泣き出すと思っていた。だが夫は永人は頭がよく思考が柔軟だから大丈夫だと思っていた様だ。
話を終え頑張ったご褒美に今晩は永人の好きな回転寿司に行く事にした。永人は喜びソファーで飛び跳ねている。暫く飛び跳ねやっと落ち着いたら急に真面目な顔をして夫に向かって
「父さん。本当の名前は何て言うの?」
「ママも教えてもらってない」
そう夫の本当の名を妻の私ですら知らない。ちなみに戸籍上では【黒川 正親】と言う大層な名前が付けられている。夫によると日本に来た時に初めて会った《あそこ》偉いさんが正親さんで、日本の名前が分からない夫はその人の名を使わしてもらう事にした。
「本当の名はここでは言えないんだ。使ってしまうと、二度と故郷に帰れないから」
夫はそう言いなんとも言えない顔をした。
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