20.墓参り
帰る日の朝。帰る前に行くところがあり…
「おはよう。電車の時間があるから早くご飯食べてちょうだい」
寝起きの私は昨日の疲れがとれず、重い体を引きずりダイニングに行く。夫と永人は人外的身体能力を持っていて、前日重労働でも翌日に響いた事がない。こんな時はその人外的な能力が羨ましいと思ってしまう。それに2人共病気知らずで永人は乳幼児期に受けた定期健診以外、医者にかかった事がない。
そんな元気な夫と永人は今朝も温かい和朝食に目を輝かせて一生懸命食べている。
『こんなに喜ぶならウチでも偶に和朝食にしてみようかしら…』
そう思いながら懐かしい味のお味噌汁に箸をつける。いつも以上に会話が弾み、話すのに必死な永人を諫め食事を急ぐ。何故なら帰る前に父のお墓に寄って行くためだ。父のお墓は昨日駆けっこした坂の先にあり、車が入れず徒歩で山道を上がらなけばならない。
「帰り支度は大丈夫?」
「多分。残っていたら今度ウチに来る時に持って来て」
荷物をまとめ母の車に乗せ帰る準備はOK。この後みんなで墓参りに向かう。墓までの道のり永人は母の手を引き一生懸命母に話しかけ、母は絶妙な相槌をし微笑む。看護師だけあり子供の扱いは慣れている。
お墓に着きみんなで雑草を抜き墓石を磨き、花と水をセットし父が大好きだったワンカップのお酒とお菓子を供える。そしてみんなで手を合わせる。
私は心の中で
『後何回ここに来れるのだろう。これが最後なんて事はないよね…』
ここ最近ずっと不安で良くない思考に陥る。顔を上げると母と目が合った。母は私の頬を撫で
「良くない想像は良くない結果を連れて来るわ。不安な時は家族がいるでしょ?」
そう言い視線を夫と永人に向けた。つられて夫を見ると優しく抱きしめてくれる。すると永人が私と夫の間に体をねじ込み母を手招きした。母は照れながら永人の手を取ると、夫は3人を抱きしめて
「僕の幸せな家族で自慢の家族です」
そう言い泣きそうな顔をした。
こうして帰る前に父の墓参りを終え、母が運転する車で最寄り駅に向かう。母の安全運転で駅に向かう途中に信号待ちをしていたら永人が
「あー猫がいっぱい」
そう言われ永人が指さす方を見てみると、そこは旅館のようだ。永人が言った通り玄関先に猫が4,5匹いて、更に塀にも猫が沢山いる。旅館にこんなに猫がいて衛生上大丈夫なの? 母が永人の指す旅館を見て
「そこの旅館ねオーナーが猫好きで、猫を放し飼いしている有名な旅館なのよ。遠くからも猫目当てに泊まりに来る客が多いらしく繁盛している様よ」
ウチは特別猫が好きなわけでもないが、やはり見ていると癒される。母の話では施設内に猫が入れない様に対策がしてあり、猫を触れるのは中庭だけらしい。恐らくギリギリのラインを攻め営業をしている様だ。
『私の知り合いに猫好きはいないけど、好きな人に会ったら教えてあげよう』
そう思いながら通り過ぎた。そして駅に着きここで母とお分けれ。永人は半泣きで母の手を離さない。
困った顔をした母が永人の頭を撫で直ぐ会えると宥める。
お別れに時間を取ってあげたいが、乗る電車の時間が迫り、夫に永人を任せ私は荷物を持つ。
「色々ありがとう。来月来るのを待ってるね」
そう言い、いつもはハグなんてしないのに、なぜか今日はハグしたくなり母を優しくハグした。母は照れ笑いしながら
「あらあら。香里まで…」
そう言い嬉しそうに笑う。珍しく時間を気にした夫に手を引かれ母と別れて改札を通った。
こうして何度も乗り継ぎをしやっと夜8時過ぎに我が家に帰ってきた。玄関を開けるとセンサーライトが反応し明るくなる。実家も落ち着くがやはり自分の家が一番安らげる。
気が抜けるとどっと疲れが襲って来て足取りが重い。するとそんな私に気付いた夫と永人はせっせと荷物をリビングに運び、永人はお風呂の準備をし、夫は荷ほどきをしてくれる。やはり2人共疲れ知らずのようだ。甲斐甲斐しく世話をしてくれる2人を見ながら幸せを感じるのだった。
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