19.何かが変わる予感
海から戻り実家最後の夜を迎え…
パラソルの近くに来るとまだ寝ている永人が目に着く。それより母の隣の男性は誰だろう?
すると私に気付いた男性が会釈した。それに気付いた母が慌てて
「お母さんが世話になっている笹川医院の院長先生よ」
母のパート先の先生だった。話は聞いた事があるが初めて会う。少し捲れ上がったラッシュガードを整え挨拶すると先生は目を細める
「黒川さんは知識も豊富で若い看護師のサポートをしてくれ、我が医院になくてはならない人です」
そう言い母を褒めまくった。恐らく先生の言葉はお世辞じゃない。真面目で几帳面な母だから仕事も丁寧なのは分かる。自分の母が褒められるのは嬉しい。そう思っていたら母が先生に私達を紹介してくれた。挨拶が終わるとウォーキングの途中だと言い、先生は去っていた。
「いい職場みたいだね」
「こんなおばあちゃんでも、雇ってくれるだけで良い職場だよ」
そう言い今日一いい笑顔をした。その笑顔を見て妙な気分になったが、その理由は分からなかった。
そして少しすると永人が起きて、永人の指名で私と2人で波打ち際でまた砂山を作る事になった。
「今度は父さんが昼寝ね」
「分かった。一生懸命寝るよ」
そう言いシートに寝転び寝始めた。母は疲れた様で先に家に戻る。ここから昼寝をしフルチャージした永人に付き合い、立派な砂山を作り上げスマホで写す。
気がつくと人が少なくなって来た。日も傾き出しそろそろ帰る時間の様だ。パラソルに戻ると夫が荷物を纏めてくれており、分担して荷物を持ち実家に帰る。帰り道真っ白な肌をした2人を見て思う。日焼け止めを塗っていないのに、2人とも全く日焼けしない本当に羨ましい体質だ。
「裏から入って風呂場に行ってね」
実家に着くと母がお風呂の準備をしてくれており、夫と永人が先に入り私は荷物の砂を払いパラソルを水で洗い庭に干し、2人が上がった後に風呂を済ませた。
風呂上がり居間でに行くとアイスを食べながら永人が
「あーあ。明日帰っちゃうんだ」
寂しそうにそう言い視線を落とした。それを見て母がお盆にまた会えると言い、どこに連れてってくれるのか永人に聞く。すると永人は表情を明るくし、母を何処に案内するかプレゼンし始める。
私は2人を見ていて理由は無いが、私たちの生活が変わる予感がし、得体の知れない恐怖を覚える。身がすくむと夫が背中に張り付き不安気な顔を向ける。
夫は母の大病疑惑から私の機微に敏感だ。何度聞いても信じなれないが、私は夫の唯一無二の存在らしく、私を失うと生きていけないらしい。
それは故郷に帰っても同じらしく、夫は父親からどんな手を使ってでも私と永人を連れ帰るように言われているそうだ。
これは大袈裟な話では無く、《あそこ》からも井鷺氏からも何度も聞かされている。
不安気な夫の頬にキスをし、手を引いてダイニングに向かい夕食を食べる。
夜はあっさり素麺を食べ、視点が合わなくなった永人を客間に運び、居間に戻ると母と夫が真剣な表情で話し込んでいた。
それを見て焦って駆け寄る。夫が余計な事を母に話してないか心配になったからだ。
「私はいいと思うわ。えいちゃんも色々分かってきているし」
「賛同してくれてありがとう。永人は父親の僕が言うのもなんだけど、頭がいいから7歳でも理解できると思うんだ」
どうやら永人に夫の秘密を話す事を母に伝えていた様だ。永人に帰ったら話す事は帰省前から決めていた。次会う時に母が知らないとリアクションに困るだろう。
夫の母への気遣いが意外で驚きつつ、夫の母への配慮が嬉しかった。
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