18.家族
お昼になり母のお弁当を皆んなで食べて…
「おばあちゃん。ただいま!」
パラソルに戻ると夫を見た母が苦笑いする。夫と永人は水分補給をし、今度は沖まで泳ぐといい浮き輪を膨らます。永人は吹き口から必死に息を吹き込むが中々膨らまない。真っ赤な顔をした永人が夫に助けを求めた。母と話していた私は気付くのが遅れ
「あっ!ダメ」
夫が息を吹きかけると一息で浮き輪はパンパンに膨らんだ。慌てて周りを確認すると小さい女の子が目を見開き夫を見ていた。
『みっ見られた!』
でも女の子は親に呼ばれ走り去った。未就園児位だから親に話しても間に受けないだろう。元凶の夫は気にもしていない。夫と出会ってからこんな小さな事でも気を使わなければならない。
『これ位ならいいけど、やり過ぎると報告書だもんなぁ』
私の苦労も気にせず夫は永人と泳ぎに行った。私が溜息をつくと母がクーラーボックスからジュースを渡してくれる。それを一口飲むと母は徐に
「香里は幸せ?」
「何よ藪から棒に」
「うん確認したくなっただけ」
さっきの浮き輪の件が気になり、母の今の質問を気にもしなかったが、大きな意味を持っていた事を後知る事になる。
潮風を浴びながら母と会話を楽しんでいたら、お昼になっていた様で、泳ぎ疲れた夫と永人が戻ってきた。そしてパラソルをもう1本立てて昼食にする。
私が作る弁当と違うおかずやおにぎりにテンションMAXの永人。その食べっぷりに母の頬が緩みっぱなしだ。食べ終わると永人は眠くなった様で母の隣で昼寝を始めた。
「永人は見てるから夫婦で泳いでおいで」
「香里さん!行こうよ」
子供の様にはしゃぐ夫を可愛いと思い、海に入る事にした。永人の浮き輪を借り夫に引っ張ってもらう。夫がギリギリ足が着く所まで来たら、浮き輪に捕まり顔を近づけてきた。そして当たり前の様に口付ける。少し離れたところで黄色い声が上がったが、雰囲気もあり私も受け入れた。
「香里さん。僕今スゴイ幸せだよ」
「うん。私も」
波に揺られながら目の前の夫しか目に入らない。夫は異世界小説に出てくる王子様のような甘いセリフを言い、塩辛い海の水が砂糖水に変わりそうだ。こんな甘い雰囲気にのまれていた私がふと出た言葉が
「貴方の故郷に行って私は幸せに暮らせるかなぁ」
「!」
夫の故郷の環境と日本は違う所が多く正直不安しかない。事前の調整を受ければ大丈夫だとは言え怖い。多分永人は夫の血を継いでいるから調整なく順応するだろう。不安な顔をした私の頬を両手で包み視線を合わせ
「何度も言うけど香里さんが嫌がる事は父上であっても許さない。香里さんは僕の全てなんだ。それを忘れないで」
そう言い夫は泣きそうな顔をする。
『分かってるし、その時が近く腹を括らないといけない事も』
夫は私の契約があるから故郷に帰れない。そんな夫は《あそこ》に月一出向く。そして帰って来ると必ず書斎に籠る。初めは分からなかったけど、故郷の父親に連絡を取っている様だ。ここ最近連絡をした後は暫く難しい顔をして考え込む。
分かっているのに何もしてあげれない自分が嫌になる。
『でもたった1人の家族だから母を看取ってあげたいし』
気がつくと足に砂が当たり、波打ち際まで戻ってきた。夫は私の手を取りいつもの笑顔で、パラソルに戻ろうと言った。
足取り重くパラソルに戻ると母と誰かが話している。私は知らない人だ。母の職場の人だろうか?
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