13.魅力的な?母と娘
色ボケ爺さんの孫と香里にも因縁があり…
母から話を聞きながら昔のことを思い出していた。隣の楠田家には昔から悩まされ、何度も引越しを考えたが、色ボケ爺さんと孫の一輝以外はとてもいい人で、何かあると必ず謝罪し直ぐ対応してくれたので、この家で生活してこれた。
因縁のある孫の一樹は私の一つ下。接点はほぼ無く…いや一方的に敵視されていた。
彼は中学から有名大学の中等部に通いこの辺では神童と言われ一目置かれていた。容姿は悪くなく頭もいいので若い頃はそこそこモテた様だ。
でも私は『”俺イケてる”』感が強くて嫌っていた。色ボケ爺さんが母に迫っていた頃は会っても無視され挙句に
『祖父はお祖母さんを亡くし正常じゃないんだ。あんな凡庸な親子が魅力的に思うなんて』
と私に面と向かって言いやがった。私は父に似て十人前の容姿だが、母は世間一般的には美人の部類になる。それに平気で人を蔑む一輝に嫌悪感を持つ様になった。
そして月日流れ大学を出て就職した私は通勤に時間がかかる事から、職場近くで一人暮らしを始めた。
それから一輝と会う事も無くなり、私の記憶から薄れていったある日。久しぶりに実家に帰省すると、家前で男性に声をかけられる。小太りでオドオドとした中年男性は【楠田一輝】だと名乗り驚愕する。なぜなら全く雰囲気が変わり…いや別人になっていた。
「香里だよね。綺麗になったな。化粧が上手いのか?」
「はぁ?」
相変わらず失礼な物言いに頭に来る。無視をして家に入ろうとしたら手を取られた。そして驚く事を言いやがった
「俺は人に傅くのは向いてないと分かったんだ。だから爺さんの後を継ぎ不労収入者になるんだ」
「は?だから何」
そう言うとキメ顔をして
「俺の嫁にしてやる」
一瞬何を言っているのか分からず、意識が疎開してしまった。掴まれた手に力が込められ意識が戻って来て
「バカじゃないの。私結婚願望無いし、有ったとしてもあんたの嫁は死んでも嫌!」
そう言い手を振り払い自宅へ。室内から一輝を確認すると暫く呆然と玄関先で立ち尽くしていた。そして肩を落として帰って行った。
この頃は色ボケ爺さんが後妻を迎え我が家にも平穏が訪れ安心していた頃で、楠田家なんて頭に無かった。
この日夜帰って来た母に一輝の一件話すと、母直ぐに隣に電話をし抗議してくれた。一輝の父親から謝罪され今後このような事が無いようにお願いした。
「香里はここを離れているから知らないだろうけど、一輝君就職先で色々あって、今は働かず部屋にこもっているみたいよ」
エリートの一輝は一流商社に就職したが、プライド高さから上司と揉め、また異性関係で問題を起こし辞めたそうだ。それが原因で精神的不安定に。
まぁ実家が裕福だから働かなくても生活できから問題はない。だがここで色ボケ爺さんが出て来て、早く嫁をもらって曽孫を見せろとお見合いをさせるようになったそうだ。
「どこまでクズなのあの爺さん」
「自信を無くし身なりにも気を使わなくなり、お見合いも断られてばかりみたいよ」
そこに昔見下していた私を見かけ、こいつならイケると思ったのだろう。
「甘くみられたものね」
こうして暫くの間、一輝からも色ボケ爺さんからも迫られ、母の勧めで暫く実家に帰る事をやめた。
『帰省しない間に夫に捕まったんだけどね。この件も墓まで案件だわ』
一輝の事を聞きたら過去のことでも夫はやきもちを焼き、下手したら報復…なんて事になる。
『なんで私と母は厄介な奴に好かれるかなぁ…』
そう思いながら息子と戯れる夫を眺めていた。
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