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12.売って欲しい

実家に着きホッとしたのも束の間。突然の訪問者が…

実家に着くと食事が用意されていて直ぐにいただく。懐かしい母の味を堪能していたら、インターホンが鳴る。母が立ち上がりモニターを見て表情を曇らせ


「その話は後日に。今日は人が来ているので」


そう言い断ろうとしたが、訪問者は帰る気配がない。時計を見ると夜の8時前。こんな夕飯時に来るなんて信じられない。立ち上がり母の後ろから


「私が出ようか?」


そう言うと無言で首を振り再度訪問者を拒む。モニターに映っているのはおそらく隣の色ボケ爺さんだ。とうとう本当にボケたのかと思っていたら、いきなり大声をだして


『娘が帰ってきたのは知っとる。娘に話をさせろ。あんたじゃ話にならん』

「へ?私?」


突然のご指名に固まっていると、夫が私の名が出たのを聞き立ち上がった。やばい夫が出たら余計に話が拗れる。そう思い夫を止めようとしたら


『雅子さんごめん。親父!こんな時間に非常識だろう。帰るよ!』


どうやら息子さんが連れ戻しに来てくれた様だ。インターホンを切って振り向いた母は表情が無い。こんな顔をする時の母はブチギレている時。元々感情の起伏が少ない母で、付き合いの浅い人は分からないだろうが娘である私は直ぐわかった。母は私に顔を寄せ小声で


「話は永人(えいちゃん)が居ない時にね」


頷き夫に目配せすると夫は永人を居間の方へ連れて行ってくれた。そして母と一緒キッチンで後片付けをする。一緒に並んで洗い物をしていたら


「香里に話そうか悩んでて…」

「!」


もしかして…一気に緊張が高まり固まる私。この数ヶ月気にしていた母の体調の事だろうか? 緊張し声が上ずると母は居間にいる永人に聞こえない様に小声で話し出した。


「お隣の楠田さんからこの家を売って欲しいと打診されてるの」

「家?」


思っても見なかった事に変な声が出た。とりあえず母の体調では無く胸を撫で下ろす。母はそんな私の心情を知る事なく話を続ける。

どうやら悩みの種の引きこもりの孫に嫁が来て、面目が保たれた祖父が家を建て直し3世帯住宅を計画しているそうだ。だが3世帯住宅にするには土地が狭く、実家の土地が欲しくなり半年前から譲って欲しいと頼みに来るそうだ。


「土地持ちなんだから他で建てたらいいじゃん」

「あのおじいさん変にプライド高いでしょ。本家を自分の代で動かしたく無いのよ」

「そんなの知らんし!」

「でもおじいさん以外は3世帯住宅を望んで無いのよ」


どうやらおじいさんの独りよがりの様だが、度々土地を譲れと家に来るそうだ。母は笑いながら相手にしないから大丈夫だと言うが、精神的苦痛を受けているに違いない。家族が反対するのに3世帯住宅に固執するのだろう。


「お孫さんが色々あってやっと嫁をもらい安心したんだろうね。そして欲が出て曽孫と暮らしたいとか思ったみたいよ」

「本当に迷惑な色ボケ爺さんだね」


そう言うと楽しそうに母が笑う。隣の楠田家には昔から色々悩まされて来た。

私が中学の時に今の家を買い引っ越して来た。色ボケ爺さんの前妻さんは大人しく《The'昭和の女》で夫の後ろに控える女性だった。とても優しく夜勤で夜母が居ない私を気遣ってくれた。その頃の楠田家は真面だったと思う。狂って来たのは前妻が不慮の事故で亡くなってからだ。

色ボケ爺さんが母を後妻にと迫って来て、警察騒ぎになった程だ。当時母と私は一時的に母が務める大学病院の寮に避難した事もある。


『当時【ストーカー】なんて言葉も規制する法律も無かったから大変だのよね』


警察騒ぎの後に母に執着する色ボケ爺さんに危機を感じた身内が、お見合いを勧め今の後妻さんを迎え母への付き纏いは無くなった。


『まぁー母の次は私が被害者なんだけどね』 


この件は夫は知らない。いや知られてはならない。私が好き過ぎる夫が何をするか分からない。これは墓場まで案件だ。そう思いながら居間で永人とTVを見る夫を確認する。そして母に小声で


「あの人に嫁ぐ人がいたね」


そう言うと母珍しく悪い顔をして


「あの爺さんに似た孫だから中々見つからなくて、かなり遠方から迎えたみたい。それに」

「あ…お金だけはあるからね」


どうやら家業が傾いた家の離婚歴のある娘さんに縁談を持っていったそうだ。お嫁さんもお金持ちだし跡取り息子だから妥協したようだ。


『まぁ〜知らんけど』


この後、母の(お隣の)愚痴を一頻り聞き片付けを終えた。



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