11.田舎へ
実家に帰省する日の朝。いろんな思いをもち香里は出発した。
「準備は?」
「「OK!」」
今日は実家に帰る日だ。昨晩荷物チェックを終わらせており、最後に戸締りのチェックをする。
時間になり荷物を持って家を出ると、玄関先でお向かいの鈴木さん夫妻に会う。奥さんはブレる事なく真っ先に夫に挨拶し愛想を振りまく。夫は挨拶しか返さない。
「旅行ですか?」
「いえ。私の実家に帰省です」
旦那さんにそう答えると親孝行者だと褒められる。そして立ち話をしていたら永人が旦那さんに向かって
「おじさん、おばさん。いつも美味しいお野菜ありがとう。おばあちゃんの所でお土産買ってくるね」
「喜んでくれておじさん嬉しいよ。お土産は田舎のお話を聞かせておくれ」
「わかった。いっぱい見てくるね」
素直な永人に大人全員の頬が緩む。このタイミングで予約したタクシーが到着し、鈴木さんに手を振り出発した。空港までの小一時間。夫と永人は携帯ゲームをし、私は昨晩寝付けず寝不足のため少し眠る事にした。
「ママ!着いたよ」
永人の声で目が覚めて慌てて降りる。そしてタクシーの精算を終えた夫に永人を任せ、チェックインと荷物と預けに向かう。
荷物預け長椅子で待つ夫と永人の元へ戻ろうとしたら、後ろから声をかけられた。こんな所で知り合いがいるのか不思議に思いつつ、振り返ると
「井鷺氏?」
「お疲れ様です」
思わぬ人に言葉が出ない。すると気まずそうに井鷺氏が
「上からは秘密裏に接触する様に命を受けましたが、それをすると私は貴女の信頼を失う。そうなると今後の仕事がし辛くなるので、正直に話しておこうと思い声をかけさせていただきました」
「上の命って…」
嫌な予感がしたが勇気を出し聞いてみる。すると井鷺氏は今から母の職場の医師に話を聞きに行く言った。驚いていたら
「あまりにも情報が無い事に上層部が焦り情報を得ようとしているのです。決してお母様に接触はしませんし、今回の貴女達の帰省に水を差すつもりはありません。そこは信じていただきたい」
そう言い頭を下げた。彼との付き合いは10年になるが、この10年彼は約束を違えた事はない。きっと最後まで反対してくれたのだろう。彼の立場を思いそれ以上聞かない事にした。そしてここで別れ二人の元に急ぐ。
こうして出発前にドキッとしたが無事離陸し実家に向かう。窓側に座った永人は夫のスマホを借りて、窓の外の景色を録画し、夫は私の手を握り眠っている。私は目を閉じ近い未来に起こることを考えていた。まだまだ先の事だと思っていたが、案外その日はすぐ来るかもしれない。そう思うと怖くなってきた。
「香里さん?」
気がつくと夫の手を強く握ってたようで、夫が心配そうに私を見つめる。微笑んで誤魔化すとシードベルトサインが鳴り、着陸が近い事を知る。
暫くすると無事着陸した。ご機嫌の永人は機内を出る時に乗務員さんに手を振り愛想を振りまき、乗務員さんから紙飛行機のキットをもらっていた。
やっと空港を出ると次は電車に乗り3時間の移動で、実家の最寄駅に着いたのは夜の6時になっていた。駅前まで母が迎えにきてくれているはずだ。お迎えの車から母が乗る水色の軽自動車を探していたら
「永人!」
「おばあちゃん!」
手を振り母が現れた。さっきまで疲れて口数が減っていた永人は駆け出し母に飛び付いた。母も嬉しそうに永人の頭を撫でている。
「お母さんただいま」
夫がそう声をかけると微笑んだ母が夫にも声をかけてくれる。感動の再会はこの辺にし母の車で実家に向かう。74歳の母の運転は高齢者とは思えないほどスムーズ。そろそろ免許の返納を促そうと思っていてが、運転する母を見ていると決心が揺らぐ。
「着いたよ」
あーやっと帰ってきたよ実家に!そう思うとどっと疲れが出て、夫に手を引いてもらう事になった。
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