9.意外な訪問者
突然の訪問者に事態が動き出す。
「という訳でお盆休みはお母さんこっちにおいで。でウチは7月の連休に帰省するから」
『なんか私の我儘でごめんね』
翌日早速母に帰省する旨を伝えた。恐縮しながらも喜ぶ母に胸を撫で下ろす。母に昨日の様な違和感はなく、気のせいだと思い始めていた。
電話を切り掃除をしようとしたら誰か来た様だ。荷物が届く予定あったか考えながらインターホンのモニターを見たら
「!」
そこには滅多に会う事の無い井鷺氏が映っていた。固まる私。そこに夫が来て応対する。そして
「香里さん。僕が迎えるからお茶をお願い」
「あっ!はい」
こうしてレアキャラな井鷺氏をお迎えする事になった。ここで登場の井鷺氏のスペックの紹介。
井鷺氏はアラフォーのダンディなイケオジで独身。日本人離れした容姿に低音ヴォイスを武器に正論で攻めてくる切れ者なのである。
毎度遣らかす夫の尻拭いをしてくれる親的な存在なのだ。彼は頼りになる紳士だが私は正直苦手だ。
『出会いが最悪だったからね』
そう10年前の出来事がまだ払拭できない子供な私である。
「メールや電話では伝わらないニアンスがありますから、直接話をしたくて参りました」
「いつもご迷惑おかけしてすみません」
そう言いながらお茶を出すと、綺麗な所作でお茶を飲み、仕事だから気を使わない様に言ってくれた。
緊張しながら夫の横に座り井鷺氏を見据えると
「予定外の帰省は受理されましたのでご心配無く。ただ…」
「「ただ?」」
実家の帰省はできる様だが、別に何かありそうだ。緊張が高まると夫が手を握ってくれる。夫の優しさに少し気が緩んだところで井鷺氏が
「お盆に香里さんのお母様がこちらにいらした際に、検診を受けていただきたい」
「!」
突然の申し出に固まる私。夫が井鷺氏に理由を聞いているが、驚いて全く話が頭に入ってこない。
「井鷺さん。少し待ってください。里香さんが落ち着いてからにして」
夫はそう言い私を抱き上げ寝室に私を運んだ。そしてベットに私を下ろして、目の前に跪き手をとって
「大丈夫。頼りないけど僕も永人もいるから。それにまだ決まった事ではないよ」
「うん。ありがとう。分かっている。驚いただけだから」
そう言い夫に抱きつく。暫く夫の温もりに身を任せ、気持ちが落ち着きリビングで待たせている井鷺氏の元に戻る。
中座した事を謝罪すると、私と目を合わせた井鷺氏は微笑みゆっくり話し始めた。まず現時点でまだ何も分かっていない事と、自分の話し方が悪く誤解を与えた事を謝罪された。そして
「危惧されておられる通り、お母様がご病気の可能性があり、確認のために診察を受けていただきたいいのです。お母様は町の小さな病院にお勤めされ健診もそこで受けられいるはず。しかし検診結果が保健機関に上がっておりません」
田舎の小さな病院で全てアナログだ。意図して情報を隠す事は可能だろう。母は【約束の日】の条件に自分が関わっている事を知っている。
私は知らせていないが、《あそこ》が母に伝えたのだろう。ある時期から母はあからさまに自分の事(特に健康について)は話さなくなったのだ。疑念を持った私が井鷺氏を問い詰めてその事を知った。
「我々は心からお母様のお身体を心配しております。確かに【約束の日】の事を思うと、複雑だはありますが」
そう言い井鷺氏は口籠った。国からしたら面倒な案件は早く終わらしたいはず。もし母が病を患っているのなら吉報だろう。契約した時にこうなるのは分かっていたのに、自分の運命を呪いたくなる。
「井鷺さん。僕は契約があっても香里さんが嫌がる事はしないから」
一生懸命私の味方をする夫。嬉しいがそもそも夫が私を選ばなければ、こんな苦労はしなかった。井鷺氏と話をする夫を見ながら契約した時のことを思い出していた。
『あの時は考える時間もなく、思い付きで決めた条件だけど、こんな辛い事だなんて思って無かった』
私が辛いと言う契約内容とは、母が存命な間は日本を離れないというものだった。
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