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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン2(2020)

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第91話 ガラス細工と骨董品(20/7月)

(簡易人物メモ)

濱崎安郎: 南紀ウメスタSC GM

栗田靖: 南紀ウメスタSC 監督

椋林翼: 同クラブ所属FW

畑中哲也: 同クラブ所属MF

真弓一平: 黒船サッカークラブ 管理部長


ーーーーーーーーーー

 2020年7月某日。南紀ウメスタSCの面々が黒船のクラブハウスに集まっていた。


 黒船ターンアラウンドの佐藤を中心にインタビュー形式の動画収録が行われており,カメラの中心にいるのは、正式に選手契約を結んだばかりの新戦力、椋林翼むくばやしつばさである。


 ユース名門JFAアカデミー出身、わずか17歳でJリーグデビューを飾り、度重なる怪我でキャリアを失いかけていた日本屈指の才能が、和歌山県の社会人サッカーチームである南紀ウメスタSC入りを決断した。



ーーー改めて加入を決めた理由を教えてください。


「そうですね…選手として3年近いブランクがあるので、正直自分のプレイに自信が持てていません。そんな中で、クラブの皆さんがすごく寄り添って頂いて、一歩勇気を出して前に進むことにしました。それに弟がウメスタのサポーターなんですよ、これは入らないとなって感じです」


ーーーどのようなプレイでチームに貢献したいですか?


「怪我の影響もあって、フルで試合に出ることはあまりないかと思いますが、自分の武器はドリブルなので、後半からチームに勢いを与えるようなプレイがしたいと思っています」


ーーーサポーターの皆様は一言おねがいします。


「この前のリーグ戦、自分は皆さんと一緒に観客席から試合を観戦していて、このチームは本当に素晴らしいサポーターから応援されていることを実感しました。今季絶対に関西リーグへ昇格して、一緒に喜びたいと思います」



「ーーーいやぁ、ついにきましたね翼くん」


「ええ。木田には感謝しないといけないですね」



 インタビューの様子を眺めていたGMの濱崎と管理部長の真弓がしみじみと語り合っていた。


 なにせ10代でJ1の舞台を経験しているレベルの選手だ。もちろんブランクを埋める時間は必要だろうが、トップパフォーマンスを発揮すれば…そう思っただけで年甲斐もなくワクワクしてしまう。



「使えるかどうかもわからねえ、博打じゃねえか」



 二人のやりとりに水を差すかのように横からぼやきが聞こえてきた。監督の栗田靖くりたやすしである。



「うまく使えるようにするのが監督の仕事ですよ、栗田さん」


「無茶言いやがる。現場の俺からすりゃガラス細工よりも骨董品のほうが趣味に合ってるわ」



 椋林と同時に加入する畑中哲也はたなかてつやのことを指して、栗田がアンティークと評していることは理解できた。



「でも確かに、畑中くんが来てくれる方が私はびっくりしてます」



 畑中哲也、34歳。高校卒業後にJ1浦和レッドサンズに入団。トップチームの試合に出始めたのはプロ5年目からであり、準レギュラークラスの生え抜き選手として活躍。30歳でJ1アベリヤ福岡に移籍。その後さらにタイのラーチャブリーSCに移籍して現在に至る。


 プレイスタイルは年齢とともに変化しており、現在はドリブラーというよりもサイドから攻撃を組み立てるチャンスメイカーとしての役割を担うことが多いようだ。いずれにしても長らくトッププロの世界で活躍してきた、まごうことなきJリーガーである。


 畑中もすでにタイでのシーズンを終えて、今日クラブハウスに来てもらう予定であったが…。



「噂をすればですね」



 キャリーケースをガラガラと引っ張りながら、畑中が黒船サッカーパークに姿を現した。ラーチャブリーSCとの契約満了により帰国してきたのだが、もちろん南紀ウメスタと契約を交わすためでもある。濱崎がすぐに立ち上がり、熱い握手を交わした。



「南紀ウメスタSCへようこそ、畑中」


「濱崎さん、よろしくお願いします」



 その後、椋林と畑中はそれぞれ背番号16と18のユニフォームを身に纏い、ウェブサイト用の写真を撮り終えてから、改めてクラブハウスに戻ってきた。


 二人のスマートフォンにクラブチーム管理アプリ「AthleM」がダウンロードされる。実質的に開発を指揮した濱崎がアプリの使い方を説明し始めた。



「ここがトップ画面。AthleMの機能はスケジュールの確認、選手のデータ、フロントとのやりとりの3つが主なものだよ」



 スケジュールには練習やリーグ戦を始めとした試合の日程と、リーグ戦の順位表を確認することができる。


 選手のデータについては、定期的に行われる身体能力テストの結果及び過去の推移。リーグ戦における個人成績と試合毎の評点。そして黒船独自の指標であるCVを見ることができる。



「CVというのは、選手の個人データと試合のパフォーマンスを元に、市場価値を自動的に算出する仕組みだと思ってほしい」



 説明を受ける椋林と畑中はそれぞれの画面を見比べる。椋林のCVは約1,200万円。畑中は1,500万円と表示されていた。



「自分と畑中さんの市場価値は300万円しか変わらないということですか?」



 ふたりともJリーグ経験者であるだけに市場価値の感覚は当然わかっていた。だからこそJリーグで10年以上プレイしてきた実績のある畑中と、プロでたいした活躍をしていない自身との差がたった300万円であることに、椋林は違和感を覚えたのだ。



「詳しい計算方法は説明しないけど、このCVで一番重要な変数は年齢だ。プロでの実績やそれこそ年俸は畑中の方が上だけど、二人のCVが同じように見えるのは、年齢の違いだね」



 仮に畑中が椋林と同い年であった場合、彼のCVは5,000万円を軽く超えることを説明すると、椋林は納得した。



「このCVっていうのは、要は移籍金みたいなものですか?」


「移籍金の交渉や年俸交渉にも使う指標だと思ってもらって構わないよ。実際公開されている選手年俸や移籍金の実績と照らし合わせて計算方法は考えているから、そう嘘っぱちでもないと思うけどね」



 ただこれはあくまでも世界基準、要は欧州移籍市場目線に準じた金額であり、国内で移籍する場合は移籍金は低めで取引されることになるだろう。最大50%くらいのストレスが掛かる可能性もある。



「このCVは試合毎の評点に応じて細かく変化する。この評点はいわゆるヨーロッパのスポーツ紙でプロチームのスコアリングを行ってるチームが、実際にウメスタの試合を見て算出している評点だ。信憑性はあるよ」


「…すげえな。ガチですね。そんなことやってるクラブ聞いたことないですよ」



 説明を聞き終えた畑中は素直に感想を口にした。フィジカルデータを詳細に分析するクラブチームはいくつも見てきたが、選手そのものの価値を計測する仕組みを持つクラブは初めてだった。



「金融出身の経営陣が運営しているクラブだからということも影響していると思うが、私個人としてもこの仕組みは気に入っている。選手にとっても必ずプラスになるよ」



 リーグ戦の成績やコーチ陣からの評価に加えて、CVを上げるという新しいモチベーションが加わるのだ。しかもこの数値を元に今後の契約交渉はオープンに行われる。



「これいいなぁ。若い時にこの仕組みでサッカーやってたらもっと上手くなったかもなぁ」


「リーグ戦は8月から後半戦が再開される。と言っても全10試合の内、消化しているのは3試合だけ。だからほぼフルシーズン戦ってもらうに近い状態になるから、二人とも。期待してるよ」


「リーグ戦を優勝した先の関西府県CLを勝ち上がるのが目標ですよね」



 椋林の言葉に濱崎が頷いた。



「ああ、そうだ。今年の優勝候補とされているチームに、うちは練習試合で0-2で完敗した(第71〜72話参照)。だから、君たちの力が必要だ」


「おう、頼むぜ、俺の給料も上げてくれよ」


「監督」



 監督の栗田が二人の前に立った。椋林も畑中も正直栗田の実績を評価するキャリアは持ち合わせていない。しかしながら、彼のお眼鏡に適わなければ出場することはできないサッカーの構造は当然に理解していた。



「畑中。お前は3トップの右か、3バックの時の右ウィングバックで出てもらうことになる。タイでやってた時とは微妙にポジションは変わるが、そこは対応しとけよ、ベテランだろ」


「わかりました。浦和と福岡ではウィングバックでしたから、大丈夫ですよ」


「椋林、お前は右でも左でもいけるんだよな? 状況に応じてどちらで出る場合もある。コンディションは整えとけ。なんかあったら、さっき説明受けてたアプリで報告しろ」


「…はい」



 畑中と比べると歯切れの悪い返事となった椋林の心情を読み取った栗田はそばにあった椅子に腰を下ろして色眼鏡の位置を整えた。



「なんだあ、おまえ緊張してんのか? こわいか?」


「……」


「…こわいですね」



 自分の実力が通用するかどうかの不安ではない。自分の足がまた壊れるのではないかという懸念であることは栗田も察した。


 椋林は1試合最長で45分しか出場しない特殊な契約を結んでいるが、だからと言って絶対に怪我しないかというと、極論関係はない。たとえ5分の出場であろうと怪我するときはするものだ。



「あー…そしたらもう、おまえは走るな」


「え?」



 栗田の提案に椋林本人も、濱崎も驚いて栗田の真意を見極めるように視線を送った。


「試合の映像は見たよ。おまえのスピードとドリブルは確かにすげえ。あれだけスピードに乗った状態でストップアンドゴーなんてやられたら、早々ついていける選手はいねえだろ。…でも足は消耗品だぜ。もし長く選手としてやりたいんだったら、もっと考えてプレイしろ」



 その点については濱崎も同意である。短期的なウメスタでのパフォーマンスを考えれば助言の内容は変わったかもしれないが、それは本意ではない。高校サッカーという教育の場で指導してきた栗田はおそらく無意識だろうが、方向性は一致していた。



「当時若かったからかもしれんが、もう少し手を抜け。試合中に休むことを勉強しろ。90分走り続けてて点が取れないヤツなら、5分しか走らなくても1点取るヤツのほうが評価される。FWってのはそういうもんだ」


「わかりました…」


「それから、足に負担をかけずに抜く方法を身につけろ。これは怪我云々抜きにしたって必要になる武器だ。まぁ、これからお前がサッカーする場所は県リーグ。見下せと言っているわけじゃあないが、ドリブルの技術をテストする環境としてはちょうどいいんじゃねえか?」



 椋林は頷くとともに心の中の不安が幾分軽くなったことを感じていた。アドバイス自体は特別なものではないが、監督が直接言葉で伝えている事実は大きい。そのまま選手起用や評価される内容に直結するものだからだ。


 改めて南紀ウメスタを選んだのは間違いではなかった。ここからチームも自分ものしあがる。そう決意を新たにする1日となった。



  そして後日、黒船chの動画公開に併せて、南紀ウメスタSCの公式サイトに新加入選手のお知らせが掲載された。



 椋林翼。背番号16。無所属。21歳。身長174cm。登録ポジションはFW。


 畑中哲也。背番号18。タイ1部ラーチャブリーSC前所属。34歳。身長175cm。登録ポジションはMF。






つづく。



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