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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン2(2020)

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第85話 陸のプチ孤島脱出会議

(簡易人物メモ)

進藤唯: 黒船サッカーパーク 広報部長

大西亜誠: 南紀ウメスタSC 所属MF

高橋則夫: 梅サポ「シエロ」のリーダー

田中アンナ: 喫茶ジョージ屋 店主の妻


ーーーーーーーーーー

 その日、黒船サッカーパークから程近い喫茶ジョージ屋に関係者が集まった。


 ひとりは今回の打ち合わせの発揮人である進藤唯しんどうゆい。黒船サッカーパークの社員である彼女は、今年度から広報部長に任命されていた。



「最寄駅から普通に歩いたらさぁ、30分以上はかかるわけじゃん? それって最寄駅って言わないよね?」


「言わないですね」



 テーブルに広げられた木国市の地図を見つめながら考え込んでいるのは、南紀ウメスタSCに所属するMFの大西亜誠おおにしあせいである。



「バス停だったら製鉄所前にあるじゃないですか。俺いつもそこから歩いてきてますよ」



 JPスチールの和歌山製鉄所で働きながら、南紀ウメスタSCのサポーター席をまとめあげている高橋則夫たかはしのりおが地図の一点を指差した。



「でもここはサッカーパークの入口から離れてるじゃん。歩いて15分くらいかかる。それだったら、この近くにあるバス停から歩くのと大差ないよ」


「そうねえ…」



 最後のひとりは、人数分のコーヒーカップをテーブルに置いてそのまま座った喫茶ジョージ屋店主の妻である田中たなかアンナだ。


 本日の打ち合わせ会議に名前をつけるとしたら『陸の孤島脱出会議』だと進藤は伝えたが、メンバーよりさすがに陸の孤島は言い過ぎだとの意見があったため、改めて『陸のプチ孤島脱出会議』と命名された。



「黒船サッカーパークは電車でもバスでも行きにくいでしょ? そこを改善しない限り、試合のない日でも人が集まる空間を作ることは難しいということなわけよ」


「はぁ…」



 気のない返事をする大西のおでこを進藤がペン先でつついた。



「いたっ!」


「なーにを他人事みたいに! いい? 人が集まらないってことはサポーターも来れないってことよ! それにスタジアム収入が増えないってことは亜誠くんの年俸も増えないってこと!」



 当然アタシの給料もね!と息巻く進藤に、高橋とアンナが苦笑した。


 無論ウメスタのサポーター数を増やしたい高橋からしてもアクセスの改善はウェルカムであるし、アンナにとっても店の売上が増える話ではある。



「現状はどうなってるんでしたっけ」


「今はそもそもお客さん来ないから、1,000台ある駐車場を使えば余裕だよね。でも今のキャパですらスタジアムに5,000人入れるんだよ?」



 5,000人がマイカーで来場されたら当然にパンクするだろう。しかもこれからJ1クラスのスタジアムに増改築を予定している。それを見越すのであればなおさらである。



「木国駅からシャトルバスとか使ってある程度のピストン輸送はできると思うんだよね。ただそれでもスタジアム改築後はとてもムリ」


「そう思うと、これ…結構重要な話っすね」


「そうだよー! だから大事なんだって!」



 いくら数万人規模が収容できる立派なスタジアムを建てても、そこに人が来なければ無用の長物。このままでは大赤字、黒船グループの存続すら危ぶまれる事態にもなりかねない。



「でも公共交通機関と言ったら電車かバスですよね?」


「というか、バスしかないんじゃない?」



 素人ながら鉄道の駅を増やすというのは骨が折れそうである。駅を作ることはもちろんだが、線路を引くところから始めなければならない。その点バスなら道路を活用できるわけで、既存の停車ルートを変更するだけで済みそうにも思う。



「バスってことは、バス停を増やすってこと?」


「そういうことになるんじゃないかしら…」


「バス停って、どうやって作るの?」



 メンバーの疑問の声を受けて、進藤が軽く咳払いをする。



「もちろん調べております」


「おお、さすが」


「まず決めるのは行政よ。具体的には木国市役所ね。市役所で住民からバス停作ってほしいっていう声が届けば、バス停の設置に向けてバス会社と相談を始めるらしいの」


「市役所…あ、都市計画課?」



 大西はパズルのピースがハマったように声を上げると、進藤は大西を指差して頷く。



「今の木国市役所の都市計画課長はどなたでしたっけ」


「…うちの親父です」



 大西の父である大西誠司おおにしせいじは、今年度から商工振興課から都市計画課に人事異動になった事実を思い出した。



「だから俺が呼ばれてるんすね…」


「そうそう。ちなみに高橋くんもアンナさんもちゃんとメンバーに入っている理由があります」



 ポイントは住民の声である。バス停を設置するためには、まずその地域の町内会からの要望が市役所に届くことが第一ステップなのだ。


 いくら大西(父)が息子を思って漢気を発揮したところで、そもそもそういった明確な意見が役場に伝わらなければ動きようがない。



「つまり黒船サッカーパークのある、和歌山県木国市湊町の町内会をひとつにまとめることが必要ってわけか!」


「湊町に町内会はないよ」


「あら」



 高橋が納得して手を叩いたのも束の間、進藤の一言にずっこけそうになる。いや、町内会がないってどういうこと?



「地域に人がいなくなって市町村が合併したりしたりでしょ? 町内会もおんなじ。今は木国市自治会連合会がこのあたりの地域は全部管轄してるの」



 木国市自治会連合会は、11名の役員から構成されている。会長、副会長、会計、監事、そして理事が7名だ。



「そしてこのジョージ屋こそ、その自治会連合会の理事さまが運営されている店なのよ!」


「…よく知ってるわね、唯ちゃん」



 おおおーとどよめく男衆。田中アンナの伴侶こと田中譲治氏は木国市自治会連合会の理事に名を連ねているのだ。



「湊町代表ってやつね。連合会だから、各地域の元々の役員がそのまま理事になってるケースが多いのよ。その地域に役員がいなかったりすると、なんか見捨てられた地域みたいな扱いに見えちゃうでしょ?」


「なるほどね」



 高橋は何度も頷く。つまりこの会議のメンバーに田中アンナが出席している理由がいま明らかになったわけだが。



「じゃあ、俺は?」


「高橋くん、君が実は一番重要です」



 そもそも木国市の自治会連合会とは、どのような人達が運営しているのかを考えれば、自然と答えが見えてくる。



「木国市は元々ヤマト製鉄の企業城下町だったでしょ? だから町内会だってほとんどヤマト製鉄の一部みたいな感じだったのよ。みんな実際そこに住んでるわけだしね」


「確かに。そうなっちゃうかもね」


「それがこの前ヤマト製鉄が吹っ飛んじゃってさ」


「言い方!」


「だってそうでしょ。製鉄所は実質的にJPスチールと名前が変わって引き続き動いているわけだけど、働いてる人は結局ヤマト製鉄の人なわけじゃん?」


「…そうか」



 メディアの情報によれば、JPスチールとして和歌山製鉄所の承継は、決して前向きな投資と考えておらず、どちらかといえば地域経済を支える義務のような位置付けで面倒を見ているような雰囲気に近いと言う。


 当然JPスチールからマネジメントクラスの人間が和歌山製鉄所に派遣され、実際そこに住んでいるのだろうが、終の住処として選んでいるわけはなく、製鉄所のある町の行政にまであれこれと介入するつもりもおそらくないはずだ。



「つまり、木国市自治会連合会は旧ヤマト製鉄の人達で構成されてる?」


「ピンポーン! その通り。例えば自治会連合会の副会長は旧ヤマトの小池所長だよ」


「…小池さんかあ! 懐かしいなぁ…」



 まだこの町に住んでいらっしゃったとは。直接会話したことは数えるほどしかないが、とてもいい人だったことはよく覚えている。当時の製鉄所は今のJPスチールよりもずっとアットホームな、ファミリーのような雰囲気があった。



「だから、高橋くん。キミの力が必要よ! 旧ヤマト製鉄和歌山製鉄所で働いていて、かつJPスチールになっても引き続き働いてるでしょ? そういう人間が中から説得しないと、きっと動かないわ」



 進藤のプランの全体像が見えてきた。大西の力を借りて市役所の協力を仰ぎながら、地元である湊町を田中譲治アンナがまとめあげ、連合会最大勢力のヤマト製鉄組を高橋が説得する。



「え、いけそうな気がする! 俺やりますよ!」


「ありがとう、高橋くん!」


「そんなうまくいきますかね…」



 進藤のテンションについてきた高橋に反して、大西は疑問を呈した。


 いくら人ベースで協力を取り付けても、根本的にバス停の必要性自体を訴える必要があるのではないか。そう考えた。



「うん、そうね。木国市にとって黒船サッカーパーク、南紀ウメスタSCが必要だって思ってもらう必要があるわよねえ…」


「そうそう。コネだけじゃ無理っすよ。なんか具体的にやらないと」


「だからやってるじゃん、大西くん」


「え、なにを?」



 まったく心当たりのない大西は首を傾げる。



「木国市中の掃除してるじゃん、毎週みんなで」


「え? あっ…! ボランティアのこと!?」



 進藤が頷いた。大西の言うボランティアとは、毎週開催している『プロジェクト白船! 南紀ウメスタの選手と一緒に木国の街を綺麗にしよう!』である(第76話参照)。



「そ,そういうことだったのか…! なんで急にみんなで、しかも毎週掃除しなきゃいけないんだって話してたんすよ!」



 まさかそんな下心があったとは夢にも思っていなかった大西は頭を抱えた。


 地域密着を掲げるJリーグに思想を体現すべく各Jリーグのクラブがやっているので、それをなんとなく真似してるんだと思っていたら。



「地域のためになってるんだから、別に他に目的があったって、問題ないでしょ!」


「んんん、たしかに! 確かにそれはそうなんだけど、なんとなく下心に思えてしまう!」



 要はわたしたちはこんなに地域に貢献してるから必要な存在ですよねーアピールをしているということだ。



「すげえな、進藤さん。ちょっと鳥肌立っちゃったよ俺。点と点が繋がるというか」


「でしょでしょ?」


「今週からもっと気合入れて掃除します…」


「よろしい」



 さて、話がまとまったところで各人の役割を決めよう。


 まず大西に一言添えてもらった後で、木国市役所には正式に出向く必要があるだろう。


 アンナは自治会連合会のスケジュールの確認だ。準備の整った段階で議題に挙げてもらう必要がある。


 そして高橋についてはタイミングを見て、副会長である小池と面談してもらう必要がある。口添えをもらうことと合わせて、外様の田中譲治では限界のある連合会の内部事情を知る必要もあるように思えた。



「黒船サッカーパーク前」


「え?」


「バス停の名前よ。バス停の名前にぜひ黒船の名前を入れたいでしょ!」



 進藤の一声に三人が頷いた。黒船経営陣の掲げるボールパーク構想に、その名前は間違いなく必要だ。


 いよいよ街をまるごと巻き込む『PJ:黒船』が本格的に始まろうとしていた。






つづく。

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