第74話 黒船経営会議(20/3月)①
(簡易人物メモ)
糸瀬貴矢: 黒船サッカークラブ 代表
矢原智一: 黒船サッカーパーク 代表
細矢悠: 黒船ターンアラウンド 代表
濱崎安郎: 南紀ウメスタSC GM
福島亜紗: 西野黒船食品 執行役員
森田梢: 黒船ターンアラウンド 社員
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2020年3月末。黒船幹部がサッカーパークに集合した。参加メンバーは、黒船サッカークラブから代表の糸瀬と南紀ウメスタGMの濱崎。黒船サッカーパークからは代表の矢原。黒船ターンアラウンドからは代表の細矢に加えて、福島と森田も同席している。
今回は2020年3月期決算、黒船グループとして初の12ヶ月決算ということもあり、通常よりも長めに時間が取られていた。
打ち合わせの場所は、いつものコンテナハウス。以下は当日配られた資料と、経営会議の議事録である。
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黒船サッカークラブ
(実績報告)
単体売上: 1.5億円
税前利益: 0.9億円
スポンサー収益が前年から大幅に増加。最大スポンサーはタイ財閥ウォンキットグループからの5,000万円となるが、既存の田辺組やトロングジムからも昨年を上回る金額の支援を受けた他、新規で紀伊銀行と紀南信金からも支援を獲得。総額は1.4億円に到達した。
一方、南紀ウメスタSCについては、先日のサポーターmtgで発表の通り、濱崎安郎が正式にGMとして就任し、旧関大和歌山高校の監督を務めていた栗田靖を新監督として招聘。また所属の全選手とプロ契約を締結し、新たに導入されたCVシステムによる管理体制を構築。なお、新体制で迎えたプレシーズンマッチは2連敗。
レンタル中の真田宏太については、今年の7月末までレンタル期間を延長。現在ラーチャブリーSCにおいて1部昇格を目指して先発メンバーに定着しているとのこと。
(今後の方向性)
2020年4月5日より、和歌山県1部リーグの開幕戦が控えており、昨シーズンに引き続き首位でリーグ戦を突破できるように注力したい。
また来季関西2部リーグへ昇格するためにはリーグ戦終了後に行われる関西府県CLで勝ち進む必要があることから、今シーズン以上に新戦力の補強には力を入れていきたい。
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矢原「早速槍玉に上げるようで申し訳ないけど、GMの濱崎さん。プレシーズンマッチの2連敗を、我々経営側はどういう風に受け止めればいいのか教えて頂きたいね」
濱崎「はい。まずこのプレシーズンマッチを2試合一括りに捉えるのはミスリードです。1試合目のシェガーダ和歌山戦は、正直実力差がありすぎました。相手は2カテゴリ上かつ来季JFL昇格の本命と言われるまで戦力を整えている相手です。参考にすると判断を誤るかと思います」
矢原「去年は引き分けていたみたいな話はとりあえず置いとくよ」
濱崎「一方で2戦目の難波City戦に関しては、カテゴリは同じであっても相手は激戦区大阪で勝ち抜いてきているチーム、やはり力のある相手だったということかと思います。また監督も就任したばかりで戦術も浸透し切れていませんでした」
矢原「監督はなんて言ってるんだ?」
濱崎「えー…そのまま伝えますね。『黙って見とけ』ーーーだそうです。すみません、ちょっと学生サッカーでやってきた人なので、ビジネス的な機微に疎いというか…」
矢原「……」
細矢「はは。おもしろい人ですね。そうまではっきり言われたら、黙って見とこうかなと思いますが」
矢原「いや笑い事じゃねえよ、細矢。リーグ戦1回でも負けたら自力突破できないかもしれないんだぜ」
濱崎「2位まで関西府県CLに出れますので、1敗だけならまだ自力は狙えます」
矢原「そういうことじゃねえだろ。その監督さんは一敗の重みが分かってるのかって聞いてんだ。もし昇格に不安があるなら、レンタル中の真田を呼び戻すなり、金で強い選手取ってくるなりして今から対策しろって話になるじゃないか」
糸瀬「アロー君。俺たちはサッカーに関しては素人だ。監督含めて現場の人間の判断が正しいのかどうかはわからない。その橋渡しをするために君をGMに置いてるわけで、監督の言葉をそのまま伝えることに意味はないよ」
濱崎「…失礼しました。皆さんもご存知の通り、サッカーは数字で表せられません。なので、あくまで私の感覚的な話になってしまいますが、そこは信じて頂ける前提で申し上げますと、リーグ戦の突破は今の戦力で足りないということはないと思います。しかし関西府県CLでの確実な優勝ということであれば、戦力の補強は必要と考えます」
細矢「どういう選手を取りたいとか、候補の選手とかそのあたりはいかがですか?」
濱崎「右のサイドアタッカーに関して、畑中哲也の代理人と交渉中です。畑中は、真田のいるラーチャブリーSCでプレーする34歳のベテラン選手です(第67話参照)。年俸は張りますが、J1で10年やってきた選手なので、実績は申し分ないです。本人が入団に前向きなので、ラーチャブリーSCとの契約満了次第、フリーで入ってもらう前提で話しています。7月ごろ合流できればシーズン後半戦の戦力として期待できます」
糸瀬「了解。ありがとう」
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黒船サッカーパーク
(実績報告)
単体売上: 0.1億円
税前利益: 0.0億円
ホーム開催のリーグ戦における駐車場収入や黒船カップ等の有料チケット、練習場のレンタル等を通じて売上を構成。
足元新設ホテルの建築が佳境を迎えており、引き続き工事の進捗状況をモニタリング中。
(今後の方向性)
来季より社内に広報部を新設予定。地域の自治体と連携して、より地元に根ざしたサッカーパークの運営を行う。進藤唯を部長とし、4月から入社する新人2名を配属させる。
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細矢「広報部?」
矢原「おう」
福島「えー、広報部だったら私が専門なのに」
矢原「ちょっといわゆる普通の広報とは違うんだよ」
細矢「どういう意味ですか?」
矢原「スタジアム増改築を行うための非常に重要なミッションを課せられているんだよ。ちょっとこれはあまり公にするような話はしにくいから、また別途伝えることにするわ」
細矢「なんだ…もったいぶるなぁ」
糸瀬「ちょうどスタジアムの話が出たから今のうちに共有しておくけど、スタジアムについては、2022年に施工開始、2024年に完工するスケジュールで進めたいと思ってる」
福島「おおっ!」
細矢「ということは…えーと」
糸瀬「もしストレートに昇格が続けられれば、J3の開幕に間に合わせる形でなんとか調整したい」
矢原「なるほど。ってことは、2022年3月期に200億円借りられる数字を作るってことですか」
糸瀬「そう、あと2年」
細矢「2年かぁ…実際200億円とか、やっぱりかかるんですか?」
糸瀬「そこは責任者の矢原社長、いかがですか」
矢原「…とりあえず入札形式にするしかないと思ってる」
細矢「2022年に施工を開始するってことは、それまでに設計から何から何ですべて決めて、あとは作るだけの状態にするってことですよね。その準備に少なくとも一年くらいはかかるんじゃないですか?」
矢原「かかるだろうな」
細矢「今の黒船の財務内容からして、200億円で見積もり依頼して、入札になるだけの企業が手を挙げますか? ただの夢物語だと思われますよ」
矢原「だから、来年の期末までに、夢物語だと思われない数字を作る必要があるってことだよ」
細矢「うんんん…」
糸瀬「まぁ、今のスケジュールは理想だよ。でも今のスタジアムのままだと、たとえJ3を1位で終われたとしても、スタジアムの収容人数が要件をクリアしてないから、J2には上がれない。だから、どんなに工事期間を引き伸ばしても一年が限界だ」
細矢「…切迫してますね」
糸瀬「今年オープンするホテルと、あともう少しで発表できる新規事業、この2つで数字のところは何とかクリアしようと思ってるけど、引き続きありとあらゆる手を使って収益は積み上げよう」
矢原「了解」
つづく。




