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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン1(2019)

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第67話 微笑みの国

(簡易人物メモ)

真田宏太: ラーチャブリーSC 所属FW

畑中哲也: ラーチャブリーSC 所属MF

カン・ソジュン: ラーチャブリーSC 所属FW


ーーーーーーーーーー

 その国は、温暖な気候と豊かな自然、その恵みである食の豊富さもあって、人々は穏やかな生活を送ることができるという。


 敬虔な仏教徒が多く、来世の幸福を願う信仰から、人間関係を大切にする文化が形成されており、植民地支配を受けた経験がないことから他国への警戒心が少なく、開放的な国民性を持つようになったとも言われている。


 微笑みの国、タイ。真田宏太さなだこうたの所属するラーチャブリーSCは、名前の通り、ラーチャブリー県を本拠地とするタイのプロサッカーチームである。


 ラーチャブリー県は、首都バンコクから100kmほど離れたタイの地方都市である。県の東部はメークロン川に連なる運河が流れており、広大な水上市場は海外観光客からの知名度は高いが、地元民はもっとこぢんまりとした近場の市場を選ぶものである。



「買ってきたぞ」



 ビニール袋をいくつも引っ下げて、ラーチャブリーSCに所属する畑中哲也はたなかてつやが、席に戻ってきた。


 33歳のベテラン選手はラーチャブリーSCでシーズン2年目を迎えているが、新たな指揮官であるスラトン監督からも信頼を得ており、今季はリーグ戦の大半をほぼフル出場していた。



「ソジュンは辛いやつだからガパオな。真田はとりあえずパッタイにした。麺好きだろ」


「麺好きなのは畑中さんでしょ」


「ふたりとも英語でしゃべってくれる?」



 買い出し係の畑中をテーブルに迎え入れたのは、新人の真田と韓国人選手のカン・ソジュンである。


 ソジュンは韓国とアメリカのハーフで、一時期J2の群馬にも所属していたFWの選手だ。フィジカル型のセンターフォワードで、184cmの上背は身長の低い選手が多いタイリーグにおいては大きな武器となっている。



「ソジュンも日本語しゃべれるだろ、Jリーグいたじゃん」


「4年も前だよ、もう忘れちゃったよ」


「Jリーグにいた時から二人は仲良かったんですか?」


「いんや、リーグ違ったからな。まったく知らんかった」



 畑中は買ってきたバミー(タイラーメン)を啜りながら答えた。


 畑中はJリーグの中では浦和レッドサンズのキャリアが最も長く、移籍した後の福岡もJ1に昇格していたため、J2でのプレイ経験はなかった。



「畑中さんはなんでタイに来たんですか?」


「あー、なんかサッカー選手だったら一度は海外でやってみたくならない? もう30歳も過ぎてたからさ、オファー来て即受けたよ。給料も悪くないしな」



 畑中は事あるごとに10代で海外に出れた真田のことを羨ましいと口にしていた。若い内に日本以外の国でプレイする経験を得たかったとと思っているようだ。



「試合出れてないですけどね」


「まだタイに来て1ヶ月じゃないか。チーム最年少だし、そんな甘くねえってことよ」



 自虐的に答えた真田を畑中は笑い飛ばした。


 畑中の言う通り、現実は甘くなかった。真田は12月のキャンプからチームに合流し、トレーニングマッチ等ではプレイしているものの、リーグ戦では途中出場の機会すらない状況が1ヶ月続いている。



「テチュ、考え方を変えたらどうかな」



 速攻でガパオを平らげたソジュンが口を開いた。ソジュンは畑中のことをテチュと呼んでいる。



「考え方って?」


「スラトン監督が俺らに求めることってタイ人らしくないプレイじゃない? 特にテチュはそうだ」


「んだな」


「俺らもコータが試合に出るためにはタイ人みたいなプレイをしないことがポイントかと思ってたけど、そうじゃない気がする。彼はまだ19歳だよ」



 タイ人選手の特徴はとにかく1対1にこだわるところにある。タイ人にとってサッカーは最も有名なスポーツと位置付けられており、生活の周りにサッカーコートは多い。従って幼い頃からボールを蹴ってきているため、テクニカルな選手が多いのである。


 しかしボールを持った瞬間にひたすらDFに突っ込むような選手ばかりでは攻撃は成り立たない。従って、外国人選手はタイ人選手との共存が図れるようなプレイスタイルを求められがちだ。畑中の場合は、右サイドから味方にパスを供給し、ソジュンは前線のターゲットマンとして、継続的に出番が与えられているのだ。



「もしかしたら純粋にFWとしての結果が求められているのかも」


「…なるほど。それはあるな」



 実際にスラトン監督のもとで成功体験を積み重ねてきた2人は、真田の入団にあたって自分たちのやり方と同じようなアドバイスを行い、真田もそこを意識してプレイしていたが、それがかえって仇となっているのではとソジュンは思い当たったのだろう。


 確かにキャリアや実績を評価され即戦力として入団している2人と、お試し移籍のような形で入ってきた経験のない若手選手を、監督は同じように見ることは難しいのかもしれない。むしろ自国の若手選手と比べて、できるのかどうか。そういう視点で評価している可能性はある。



「すまんかった真田。そうしてみようか。変に味方と連携する必要なんてないから、ぶち抜いて決めちまえ」


「…簡単に言いますね」



 それができるならとっくにそうしていると真田は心の中で愚痴った。いくらプレイスタイルを選ぼうが、FWである以上ゴールを決めること以上に評価されることなんてない。


 実際甘くないのだ。高校時代よりも和歌山県2部リーグよりも確実にディフェンスの強度は高い。レフェリーが結構軽めの接触でも笛を吹いてくる傾向にあるが、ファウルで倒れるような選手をスラトンが評価するイメージはなかった。



「でもおまえのプレイスタイルってそうだろ。それでもし通用しないなら、ここでは難しいってことじゃねえか?」



 その通りだった。雑談の中でもプロとしての厳しさが畑中の言動からは垣間見える。だからこそ真田は信頼しているわけだが。


 ソジュンが畑中の肩をバシバシと叩いた。



「ここは先輩が手助けするしかないんじゃない?」


「ああ…おまえも俺よりだいぶ後輩だけどな。韓国人って年齢の上下厳しいんじゃなかったっけ?」


「俺はほら、半分アメリカ人だから」



 2人のやりとりに真田が笑った。タイに来て確実に変わったことは語学力だ。元々ウメスタ時代から今はGMとなった濱崎と英会話の訓練をしていたが、いざ英語しか伝わらない、いや英語すら伝わらない世界に身を置くと、そこしか拠り所がないこともあり、かつソジュンが気にかけたくなることもあって、1ヶ月とはいえ真田の英語力は飛躍的に向上していた。



「でもチャンスだぜ、前節と前々節勝ててないからさ、監督もなんか変えようと思ってるはずだ」


「前節はテチュがPK外したせいだけど」


「違いない! 懲罰ベンチあるぞ俺」



 契約最終年だしな、と豪快に笑う畑中のメンタルを真田はな 半ば憧れながら見ていた。プロキャリア15年ともなれば、これくらい笑い飛ばせるようになるのか。



「よし、じゃあ真田。次節は俺が懲罰ベンチの前提で右サイドやらされることも考えとけ。あとさっきソジュンの言った通り、俺の真似しないで、カットインしてペナ横からゴール狙えや」


「やってみます」


「パスくれてもいいよ。俺が決めてアシストつけるよ」



 ソジュンはリーグ戦18試合出場で7ゴールを挙げている。得点王争いに顔を出せるレベルではないが、シーズン2桁得点も十分狙える位置につけており、チーム内でも最多得点であった。



「ソジュンはこれから先どうするの?」


「うーん、チーム昇格させて一年は1部リーグでやってみたいかなあ。その後はどうしよう。タイは飽きてきたから、韓国戻るか…」


「それ聞くなら俺にだろ。今年で契約満了だよ」


「更新されないんですか? こんなに活躍してるのに?」


「されない。それはウィンターブレイクの時言われた。年齢的なこととか、あとは誰か右サイドの選手取る予定があるのかもな」



 であればそれこそ来年から彼はどうするのだろう。ソジュンも気にするように視線を向けた。



「キャリアの最後は社会人サッカーも悪くないかもな」


「え?」


「社会人サッカーってなに?」



 アマチュアリーグだよと畑中はソジュンに向けて補足した。



「オファーあったんですか?」


「あったよ。おまえの所属元から」


「え、ウメスタ!?」



 真田は驚いた。そんな話、一切聞かされていなかったからだ。



「右サイドの選手がいないらしいんだよ。給料も今より少し落ちるくらいだけど、もらえる」



 確かにウメスタは社会人サッカーチームとしては多分ずば抜けて金持ちクラブだ。関西リーグに上がるよりも前倒しで、全選手とプロ契約を結ぶことになっていたはず。



「後は俺がどうしたいかだけなんだよなあ」


「畑中さんならタイリーグからも、それこそJリーグからだって誘いあると思いますけど」


「だから、どうしたいかだけなんだよ」



 真田はピンときていなかった。上のカテゴリでサッカーできるならそれを選ぶ以外に選択肢はないはずではないか。



「サッカー選手なんてみんなそうだと思うけどさ、自分のためにボール蹴ってきただろ? それで日本代表とかクラブのレジェンドみたいに扱われるならまた別かもしれないけどさ。次のクラブがサッカー人生最後のキャリアになるかもしれない。だったら最後くらいクラブのためにサッカーやる経験するのもありだと思ってるんだよな」


「俺はあんまりわかんないな…」


「そっか? 国民性ってやつなのかね」



 真田は畑中の話を聞いて、彼の言っていることは理解できた。真田自身もはじめに南紀ウメスタで試合に出ていた時は、新人もいいところだったが、同じような感覚でサッカーをしていたかもしれない。それは濱崎からは評価されなかったが、チームの成長していく過程は楽しかった。



「そういう意味なら畑中さん、ウメスタは良いかもしれないですよ。アマチュアチームですけど、本気でプロ目指していますから。それに下村さんっていう元Jリーガーはいますけど、J1でプレイしてきた選手はいないです。頼りにされそう」


「はは、他人事みたいに言ってるけど、おまえがここで活躍できなかったら日本でもチームメイトになるってことだろ?」


「ぐ、それは確かに…」


「え、なになに。そんなおもしろいチームなら俺も行きたいんだけど」


「アマチュアサッカーだぞソジュン。おまえまだ20代じゃねえか。まだまだプロで活躍できるよ」


「一応まだ韓国代表あきらめてないからね」



 ソジュンは一度だけ若手の時に韓国代表に選ばれたことがあり、それ以来韓国代表として再びプレイする夢をあきらめていなかった。


 そんな2人がスタメンとして戦っている世界がプロなのだ。改めて真田は和歌山県でボールを蹴っていた頃とは世界が違うことを認識した。






つづく。

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