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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン1(2019)

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第63話 第1回サポーターズmtg①

(簡易人物メモ)

高橋: 南紀ウメスタSC サポーター

山根(初): 南紀ウメスタSC サポーター

糸瀬貴矢: 黒船サッカークラブ 代表

真弓一平: 黒船サッカークラブ 管理部長

濱崎安郎: ASKグラーツ コーチ


ーーーーーーーーーー

 2020年1月末。青空の下、黒船サッカーパークの練習場を利用して、第1回南紀ウメスタSCのサポーターズミーティングが開催され、約100名のサポーターがクラブの将来の姿を聞きに訪れた。


 それに先立ち、サポーターのリーダー的存在である高橋は、サポーターグループの組織化に着手。


 空に浮かぶ星の関係性から拝借し、クラブを星、サポーターを空と捉えて、グループを「シエロ」と改名の上、副リーダーに木国商店街で和菓子屋を営む古参サポーターの山根を任命した。


 山根は元々木国横丁の居酒屋「よし乃」の常連客として、ヤマト製鉄サッカー部の面々と仲が良かったため、高橋とも旧知の仲であり、ヤマさんと愛称で呼ばれている。



「俺ぁ、小難しいことは苦手なんだよなぁ」


「まあまあ、示しですよヤマさん。この後みんなでよし乃行きましょうよ」


「あんなちっこい店、100人も入るわけねえだろお」



 繊細な手つきが求められそうな和菓子職人に似つかわしくない、その豪快な笑い声に高橋はつられて苦笑した。


 壇上にプレゼンターである真弓が姿を現すと、ノリの良いサポーターから「よっ、名解説!」と野次なのか世辞なのか分からない声が飛ぶ。真弓は社内においては南紀ウメスタSC事務方のトップという位置付けだが、サポーターにとっては試合の解説者というイメージの方が圧倒的に強かった。



「えー…ありがとうございます。こんなにサポーターの皆様の近くでお話しするのは初めてで、緊張しておりますが…」



 無難な出だしから第1回サポーターズミーティングは始まった。



1. 南紀ウメスタSC新執行体制について



「まず、南紀ウメスタSCの来季の執行体制を発表します。クラブの代表…ウメスタを運営する黒船サッカークラブの社長ですが、引き続き黒船グループ全体のトップでもある糸瀬貴矢が再任いたします」



 壇上に座っていた珍しくスーツ姿の糸瀬が立ち上がり頭を下げると、ぱちぱちと控えめな拍手がサポーターから上がった。



「続きまして、こちらは新設の役職になりますが…GMですね」


「…高橋くん、GMってぇのはなんだい?」


「クラブで社長の次に偉い人のことです」



 GM、ゼネラルマネージャーとは、スポーツクラブにおける実務の最高責任者である。チームの編成や方針の決定、選手との契約交渉、誰を獲得して誰をクビにするか、そういった全ての最終決定権はGMにある。


 よく現場は監督の仕事、GMは裏方といった解釈をされることもあり、もちろんそういった役割分担になっているクラブもあるかもしれないが、本質的にGMと監督は上下の関係にある。


 これまではGMの役職がなかった南紀ウメスタでは、代表の糸瀬が実質的にGMも兼務していたという整理になるかもしれない。


 そして、GMとして紹介されたのが、濱崎安郎はまさきあろうなる人物であった。第一印象は、若い。20代なのではと見間違うほどだ。



「サポーターの皆さん、初めまして。濱崎安郎と言います。まだ31歳と若輩者ですが、よろしくお願いいたします。ーーーえー、少し経歴をお伝えしますと、現在私はオーストリア・ブンデスリーガのASKグラーツというクラブでアシスタントコーチをしています。…アシスタントコーチというのはチーム内で監督を補佐するポジションです。監督になれていないのは自分の実力不足もあるかと思いますが、1番の理由は私がチームを率いるためのProライセンスを持っていないからです。来年には取得できる予定ですが、残念ながら直接使う機会がはないようだ」



 濱崎のキャリアを聞いたサポーター一同からはさすがにどよめきの声が上がった。



「オーストリアブンデスリーガってなに?」


「1部リーグだよ。ザルツブルクのある」


「日本代表の北野がいるとこじゃん」


「…え、なんかすごくない?」



 改めて彼のキャリアは今の南紀ウメスタからすると、かなりのオーバースペックだと思う。そのままJ1のクラブに入閣したっておかしくないキャリアだ。


 横で座っていた糸瀬がマイクを取った。



「補足します。彼を南紀ウメスタSCへ招聘するにあたって、どのポジションで起用するかは悩みました。キャリアからすれば、当然に監督の立場で迎えるのが正解なのかもしれない。今でもその思いはあります。一方で、彼は非常にデータに明るく、客観的な判断のできる男だと思っています。サッカー素人の私からすると、そういった理論的な説明ができる人にはもっと自分の近くにいてもらい、権限も与えたい。監督ではその能力をフルに活かしきれないと判断し、GMの職に就いてもらうことにしました」


「私は糸瀬さんの考える南紀ウメスタSCの将来にとてエキサイトしています。ここからは真弓さんに変わって私がGMとしてプレゼンしますが、今日の話を聞いて、ぜひ皆さんにも私と同じ気持ちになってほしい。そういう思いでしゃべらせてもらいますよ」



 大きな拍手がサポーターから上がった。頼もしい、そういうイメージを与えるに十分な、はきはきとした口調であった。



「では次に南紀ウメスタSCの監督人事についてですが…ーーー現監督である下村健志は今シーズンをもって退任いたします」


「え!?」


「え!?」



 今日一番のざわめきが会場を包んだ。



「なんじゃあ!? 聞いとらんぞ!」



 下村とは居酒屋での交流もあった山根が声を上げる。しかしその横にいる高橋もこの件は初耳であり、唖然とした表情で続く彼の言葉を待つしかなかった。



「ひとつ申し上げておきますが、決して下村監督の手腕に疑問を持っているということではありません。今シーズンのリーグ戦を全勝で突破したわけですから、続投しない理由はないと考える方がほとんどでしょう。…ーーーしかし一方で、彼は選手でもあるということは無視できない事実です。試合の流れを読み適切な指示を出すことは、選手としてピッチに立っている以上、限界があります。監督としての下村と、選手としての下村を天秤にかけた時、私は選手としての彼を取ることを選びました。Jリーグで長年戦ってきた彼の経験は、ピッチの上で表現してもらいたいと思っています」



 その理路整然とした濱崎の説明に対して異論の声は上がらなかった。高橋も、下村が選手兼監督であるがゆえの弱点がチームに存在することについては同意する。



「そして来季、下村監督に代わって、チームの指揮を取って頂くのは、栗田靖くりたやすし監督です」



 高橋も含めて、その名前を聞いてピンと来た人間はほとんどいなかった。


 練習場に持ち込まれた大型ディスプレイ上のスライドが切り替わり、栗田の経歴が表示される。


 栗田靖、45歳。直近のキャリアは私立関西産業大学附属和歌山高等学校サッカー部の監督である。高校サッカーにおける大会、夏冬合わせて6回の内、3度全国大会に導いている実績を持つ。



「栗田監督は、キャリアからして高校サッカー界では引く手数多でしょうし、そもそも関大和歌山高校で十分に成果を出されていますので、なかなか社会人サッカークラブへ興味はないかなと思いつつも、ダメ元でお誘いしてみたら、引き受けてくださることになりました」



 今日はこの場にいないので直接皆様に紹介できないのが残念ですと一言添えた上で、濱崎は続けた。



「監督の招聘にあたって、私が最も重要視したのは選手からの信頼です。なぜなら、選手の獲得や戦術の選択はGMである私がある程度決めることができるものだからです。しかし、GMである私と監督の違いは、監督は直接選手たちとコミュニケーションを取れる立場だということです」



 確かに、と高橋は心の中で頷いた。



「栗田監督は和歌山県内の特に若い選手にとっては一目置かれる存在でしょう。場合によっては、直接指導した生徒だっている。そういった彼のカリスマ性や、地元でのネットワークに期待しています。ただ学生サッカー以外のチームを率いるのは経験がないでしょうから、その点は私もサポートできればと思っています」



 濱崎の説明に納得のいったサポーターからは拍手が上がった。もちろん現状では結果の出している下村と、結果が出るかどうかわからない栗田という構図になっていることから、この決定を疑問視する人間が少なからずいるかもしれないが、それはもう結果を出して見せる以外はないということである。



「以上が、来季における南紀ウメスタSCの執行体制の発表となります。続いて、クラブの方向性について、代表の糸瀬からご説明いたします」






つづく。

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