表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン1(2019)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/113

第52話 県2部リーグ第5節(19/10月)

(簡易人物メモ)

西野裕太: 南紀ウメスタSC所属MF

大橋大地: 南紀ウメスタSCキャプテン

坪倉信: 南紀ウメスタSC所属DF

真田宏太: 南紀ウメスタSC所属FW

下村健志: 南紀ウメスタSC選手兼監督

木田: 南紀ウメスタSC データ収集班

濱崎安郎: ASKグラーツ コーチ


ーーーーーーーーーー

【10.13 12:30 黒船SP ロッカールーム】



「なぁ、西野」


「はい?」


「真田、なんかあったのか?」



 リーグ戦第5節を目前に控え、ロッカールームに姿を現した西野はすぐにキャプテンの大橋に捕まった。


 名前の上がった真田の姿を探すと、ロッカールームの奥でイヤホンをつけて俯いているのが視界に入ってくる。


 元々そんなに周りと馴れ合うようなタイプではなかったが、先々週あたりから練習に復帰して以降、その様子にやや鬼気迫るものがあるのは、チームメイトの皆が認識していることだった。


 練習への取り組み方も明らかに怪我前とは気合いの入りがまったく違う。かといって周りとのコミュケーションを絶っているわけでもなく、その証拠に監督の下村やトロングジムのトレーナーとの会話は以前より増えているように感じる。



「あのイヤホンはなに?」


「ああ、あれは多分英会話を聞いてますね」


「英会話ぁ?」



 以前西野も聞いてみたが、怪我の治療期間中、英会話講師をつけて毎日英語の集中レッスンを受けているらしく、その延長線上の自主練ということのようだ。しかも単なる英会話ではなく、サッカーに特化した内容であるらしく、そういうスクールが存在するということ自体、西野は後から自分で調べて知った。



「外国人選手とのコミュニケーションしやすくなるように今から勉強してるらしいですよ」


「…いや、社会人サッカーでそれは意識高すぎるだろ…」


「俺は結構納得してますよ」



 ふたりの会話に割り込んできたのは、先月チームに加入し、今節スタメンでの出場が濃厚となっている背番号2の坪倉だ。



「そんなに徹底してるなら、黒船カップの時最後ぶち抜かれたのも分かるっていうか…1部でもあんな綺麗にやられたこと、なかったっすから」


「そうなんだ」


「俺も見習いたいっす。英語勉強しようかな…赤点だったけど」


「坪倉、おまえはまずチームに溶け込む努力をしろよ…言いたいこと言い過ぎなんだよ」


「真田くんもそんな感じじゃないですか」


「あいつはFW。おまえはDFだろ。ディフェンスってのは横の連携とか相互理解が何より大事なんだよ」



 どうも坪倉と大橋は馬が合わないらしく、練習では事あるごとに衝突していた。すでにチーム内でも、また始まったレベルの認識が浸透しており、西野も苦笑いしながらその場を離れて自分のロッカールームにバッグを置く。


 確かに真田は変わったと思う。ただ西野としては、どちらかと言えば「戻った」という感覚に近いものを感じていた。そう、全国大会に出場した木国高校2年生の時の真田はこんな雰囲気だった。


 3年生になり下級生をまとめる立場になってから少しマイルドになったと思うが、それまでの真田は、今みたいにどこか近寄りがたくて、それでいて試合では勝手にボールが集まるようなオーラがあった。


 なにか目標を見つけたのだろうと西野は想像する。それが何なのかまではもちろん分からないけれど、きっとそうなんだという確信があった。そしてその変化を西野は好ましく思っており、チーム全体としてもどこか歓迎する雰囲気があることが西野のモチベーションも高めていた。



・・・・・・・・・・

   小久保

  三瀬 真田

アド      西野

   平 大西

 坪倉 下村 大橋

    礒部

・・・・・・・・・・


 

 監督の下村がホワイトボードを通じて今日の先発メンバーを選手たちに知らせる。


 全員が特段大きな反応を示すことはなかった。練習通りの布陣であり、黒船カップ以降継続してトライしている3-4-2-1の新フォーメーションだ。



「よし、全員注目。今月から1ヶ月に2試合以上行われる最後の3ヶ月が始まる。うちは現在首位。下位以降が潰しあってくれているのでポイント差は結構ある。とはいえ、何が起こるかわからないのがリーグ戦だ。今日もいつも通り、得失点差を意識して臨んでくれ」


『うぇす!』


「それから今日は平と坪倉のリーグデビュー戦。それから真田は怪我明けの初戦となる。とは言ってもやることは今まで練習でやってきた通りだ。新しいウメスタのサッカーをサポーターに見せよう」



 選手全員が声を上げた。下村は小さく頷くと一旦その場が解散して、各選手がばらばらとピッチに向かって歩き始める。



「真田」



 下村は真田に声をかけた。真田は返事もなく振り向く。その顔つきは明らかにこれまでとは違っていた。



「練習通りって言ったことの繰り返しになって悪いが、自分の役割は分かってるな?」


「はい」


「新しく入った選手を早く見たいというサポーターももちろんいるだろう。でも彼らが何よりも期待しているのはお前のゴールだ。それを忘れるなよ」


「そのつもりですよ、監督」



 小さく笑って下村と手を叩き合い、背番号10が約2ヶ月ぶりにピッチへ姿を現した。



【10.13 14:40 黒船SP ホームサポーター席】



「すげえな…」



 いつものようにウメスタ応援団から一歩引いた位置でピッチを見ていた木田が思わず呟いた。


 今日の試合を木田は楽しみにしていた。これまでウメスタに足りなかった中盤のゲームメイカーと対人に強いディフェンダーの加入は、チームを間違いなく一段階上に引き上げる強力なピースになると確信していたからだ。


 ここまでリーグ戦を全勝で進めてきた中で、そのひとつ上のカテゴリで首位を走るチームの中心選手を引き抜いてきたのはまさに鬼に金棒な状況であり、2部では圧倒的な戦力を保有することとなったわけで。


 前半35分の段階ですでに2-0。そんな木田の期待を見事にチームが応えているという状況であるが、ただその内容に関しては、木田の想像していたものとはまるで違っていた。


 確かに坪倉の加入によってカウンターの芽をより確実に摘むことができるようになり、平のパスによってピッチをワイドに使えるようになった結果、ウメスタは堅守速攻という従来の形から、ボールポゼッションを前提とする攻撃的なサッカーに転換したのである。


 それは選手一個人の能力云々よりも、はるかに大きな進化であることは木田も理解していた。


 にもかかわらずである。南紀ウメスタの誇る背番号10の輝きは、それら全てが霞んでしまうほどの存在感を放っているではないか。



「そうか…おまえはそういう選手だったんだな」



 以前の真田は2トップの一角に起用されていても、基本的には右サイドに開いてボールを受けることが多く、それゆえに木田は真田のことをサイドアタッカーだと定義付けていた。3トップの右を配置されるウィンガーが本来のポジションであり、ウメスタのシステムに合わせて2トップの真ん中にいるだけであると。


 しかしそれはとんでもない勘違いであることを、この試合を通じて思い知らされた。思わず拳を握りしめる。


 小久保もFWとして点を取りたいだろう。三瀬なんてゴールを決めることを何よりも優先したいタイプの選手だ。右サイドの西野や左サイドのアディソンもリーグ戦初ゴールを狙っているかもしれない。


 それでもボールは明らかに真田に集まっていた。それはチームとして意識して真田にボールを集めているわけではなく、点を取るという目標に向かって合理的にプレイを選択した結果、真田にいきつくという感覚に近いものだった。



「真田の一番の強みはなんだと思いますか?」



 ASKグラーツのコーチを務めている濱崎が、現地リーグ戦開始に合わせて渡欧する直前に話していたことを思い出した。



「スピードだと思います。ドリブルに目を奪われがちですが、技術の凄さというよりはアジリティ、クイックネスと言われるような身体能力こそ、真田の武器だと思います」



 木田の回答に濱崎は頷いた。



「それも正解だと思いますが、私の意見は違います。彼の良さはオフザボールの動きです」



 オフザボールとは、ボールを持っていない時のプレイのことを指す。当たり前だが、サッカーは敵味方合わせて22人がひとつのボールを奪い合うスポーツなわけで、ボールを持っている1人を除いた残り21人はオフザボールの状態だ。従って、その動きの質が試合全体に大きく影響するのは言うまでもない。



「なぜ彼がチャンスを作れるのか。それはチャンスの生まれる場所に彼がいるからです。空間把握能力に優れているということかもしれませんが、もっとざっくりと、試合全体の動きを読む目を持っていると思う。そういう選手が、サッカーに愛されているとか言われるんですよ」



 県2部リーグで個の力だけを頼りに戦っている選手はなかなか上を目指すのが難しい。より大きな個の力に阻まれることが常だからである。


 しかし真田は違うと濱崎は言う。彼はそういったプレーヤーと誤解されがちだが、実は周りの選手のクオリティによってプレーの質が高まるタイプの選手だ。


 アディソン、平、坪倉の加入によって、南紀ウメスタの総合力が引き上げられ、より真田への依存度が減ると考えるのは間違いである。


 なぜなら、真田のオフザボールの動きを理解する選手が増えるほど、彼への適切なボール供給により、結果として真田個人のパフォーマンスが目立つことになるのだ。



「今は相手の選手を背負ってボールを受けることが多いですよね。それは相手のマークを個人技で剥がせる自信があるからです。…それがもし突破できない相手だった場合、彼は多分、フリーでボールを持つための動きに変わります。自分で判断してプレーを変えられる選手は上に行きますよ。チームの質が個人の質に連動するからです」



 サポーターの歓声で木田は我に返った。


 2点を取り返そうと前がかりになった相手チームを嘲笑うかのように、平のパスがピッチを切り裂き、パスを受けて独走状態となった真田が、GKの頭上を抜いて3点目を決めた。ハットトリックの達成である。



「…化けたな、まじで」



 木田は手元のノートパソコンを開いた。糸瀬らの尽力によってどうやらタイの財閥であるウォンキットグループが交渉のテーブルにつくところまではどうやら持ってきたらしい。


 ここからは自分の仕事だ。真田宏太という選手を彼らに理解させるために、説得力のあるデータを提供するのが木田の役割だった。


 木田はタイ2部リーグをJFL相当のレベルと結論づけていた。それは真田にとっては明らかに挑戦と呼ぶにふさわしい舞台になりそうだが、今日のパフォーマンスを見る限り、そこには期待しかない。


 試合は今シーズンのリーグ戦最多ゴールとなる7得点を挙げた南紀ウメスタSCが完勝を収めた。



南紀ウメ       菜王

  7     ー    1

04' 真田(PK)    51' 椿

12' 真田(西野)

39' 真田(平)

67' 三瀬(FK)

70' 小久保(平)

77' 真田

90' 大西(真田)







つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ