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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン1(2019)

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第47話 ウメスタ戦略会議①

糸瀬貴矢: 黒船SC 代表

真弓一平: 黒船SC 管理部長

下村健志: 南紀ウメスタSC 選手兼監督

濱崎安郎: ASKグラーツ コーチ

木田: 南紀ウメスタSC データ収集班


ーーーーーーーーーー

 2019年8月末。黒船サッカークラブの管理部長を務める真弓一平まゆみいっぺいは、代表の糸瀬に呼び出されていた。場所は黒船サッカーパークのコンテナハウス。定期的に経営会議を開催している場所である。


 コンテナハウスにはすでに他のメンバーが集まっており、南紀ウメスタSC監督の下村、データ収集班として働いてもらっている元チームメイトの木田、そして糸瀬の他にもうひとり、若い男が立っていた。



「よし、全員揃ったな。ではこれより、南紀ウメスタSCの戦略会議を始めます」


「戦略会議?」



 真弓同様に、下村や木田も昨日呼び出された理由を知らずに集まったことが今の反応から分かる。



「まず、新しく我がチームに入閣する新人を紹介します。アローくん、どうぞ」



 「アローくん」と呼ばれた男は立ち上がって皆の前に立つと、背景のスクリーンに経歴が表示された。



「皆さん、初めまして。ASKグラーツでコーチを務めています、濱崎安郎はまさきあろうと言います」


「ASKグラーツ?」


「オーストリア・ブンデスリーガのプロサッカークラブだ」


「オーストリア!? すごいっすね」



 なんとなくヨーロッパの凄そうな響きに声を上げた木田に対して、濱崎が首を横に張った。



「すごくないです。リーグレベルは一部の上位クラブを除いてJリーグとさほど変わりません」



 オーストリア・ブンデスリーガは、オーストリアにおけるプロサッカーの最上位リーグである。同リーグは1911年に創設されており、イングランド、スコットランドに次いで、ヨーロッパで3番目、同時にイギリスを除くヨーロッパ大陸で最も古い歴史を有するサッカーリーグだ。


 一方でそのレベルはどうかと言うと、濱崎の言う通りヨーロッパの中で突出しているとは言い難い。近年レッドベア社に買収されたSKザルツブルクのような一部の上位クラブは別として、それ以外に関しては欧州中堅クラスといったところだろう。



「彼はまだASKグラーツの所属だけど、早ければ来年正式にチームに入ってもらうので、よろしく」



 どのような立場でチームに関わるのかは明らかにされないまま濱崎の自己紹介が終わり、話は本題に移る。



「先月の黒船カップはお疲れ様でした。参加チームのほとんどが格上の中、準優勝という結果はもちろん悪くなかったと思う。一方で、優勝できなかったことに対する課題みたいなものはこれから対処していきたいよね」



 関係者はそれぞれのタイミングで頷いた。



「下村さん、黒船カップを踏まえて、今のウメスタの立ち位置はどこにあると見ています?」


「そうですね…県1部リーグで優勝争いできるレベルには達していると思います」


「私もそう思います。しかしながら、来年の目標は県1部リーグの優勝、かつその後の関西府県CLを突破して、関西リーグ2部へ昇格することですね」


「その通りです」


「そのためにはあと半年でチームをそのレベルに引き上げる必要があるわけだ。そこで…はい、アローくん」



 糸瀬に名指しされた濱崎が立ち上がり、手元にファイルを抱えながら皆の前に出てくると。



「木田さん、資料ありがとうございました」


「あ、とんでもない。半分お遊びみたいな感じで恐縮です」


「いえ、そんなことないです。ちゃんとしてましたよ。それから、一応黒船カップの試合は全て映像で見ました。…えーと、真弓さん」


「は、はい」


「黒船カップで対戦した、紀北サッカークラブの安藤、平、坪倉の3人と、伊勢瑞穂FCの児島。この4人にオファー出しちゃってください」


「あ、え!?」


「全員取っちゃいましょう。本当は他の試合とかも見て決めたいところですけど、直接対戦しているので選手たちも実力はわかってるはずですし、たいした金銭コストにならないなら、いいですよね。この4人は加入したら即レギュラーです」



 濱崎は立ち上がってホワイトボードの前でマジックを拾った。



・・・・・・・・・・

     安藤

アド       児島

     三瀬

    平 西野

坪倉       大西

   下村 大橋

     礒部

・・・・・・・・・・

  


「私なりに一応考えた補強後のベストメンバーです」



 コンテナハウス内がざわついた。そのメンバー表は新加入の選手を単純に入れ込むだけに留まらず、3バックから4バックへの変更。西野をボランチ、大西を右サイドバックへコンバートすることを前提とした、かなりドラスティックな内容であったからだ。そして何より、当然あるはずの名前がそこにはない。



「ま、待ってくれ、濱崎さん、色々言いたいことはあるが…そもそもの話、なぜ真田の名前が入ってない? 児島の能力は確かに高いと思うが、彼のポジションは真ん中だろう。センターに児島、右ウィングが真田でいいじゃないか」



 真田を児島の控えとする濱崎の考えに下村は疑問を呈する。真田を控えにするのはあまりにもったいない。共存させるシステムで検討すべきだという主張であった。


 しかしその質問に対する予想外の回答に、一同は唖然とした。



「ああ、彼は私の構想に入っていません」


「は?」


「すみません、控え選手の枠をどこかに設けるべきでしたね。真田は児島の控えとして考えていないです。構想外なので」


「じ、冗談だろ…。誰がどう見たってこのチームは真田がエースだ。彼のゴールでここまで勝ってきてるんだぞ」



 語気を強めた下村に対して、濱崎は当然のように肩をすくめた。



「彼のゴールに頼らずとも1部で勝てるチームを作ります」


「じゃ、じゃあ真田はどうするつもりなんだよ!」


「構想に入ってない以上、放出するしかないですね」 


「ーーー話にならん。…糸瀬さん、本当にこの男をチームに迎えるつもりなのか? 真田の能力を評価できないなんて、見る目以前の問題だろ!」



 テーブルを叩いて立ち上がった下村を正面から見つめて、濱崎は息をついた。



「あの…下村監督。僕は真田を評価していないとは言ってないです。ただ、ウメスタにいても彼は成長しません。だから一度外に出すべきだと言ってるんです」


「な、なに…?」


「彼はまだ19歳ですよ。これからの成長次第で、日本を代表する選手になるかもしれないし、プロにもなれないで終わるかもしれない。少なくとも今の彼のメンタルで前者は到底無理です。もっと厳しい環境に身を置かせて、ストイックにフットボールと向き合うべきだ」



 真田にとって今の環境がぬるま湯であることは事実だろう。あまり感情を表に出すタイプではないので分かりにくいが、どこか達観したような雰囲気を感じるのは、性格ではなく、今の試合のレベルが見合ってないということの裏返しであったかもしれない。



「い、言いたいことは分かる…分かります。ただ真田抜きで来年の昇格を義務付けられたという監督の立場も理解してほしい」


「監督、その先を見据えませんか。再来年、3年後にはJFLでの戦いが始まります。その時に個の力で戦える選手に育ってもらうために、ここは一度…えーと、日本語だと…そう。武者修行に出すイメージですよ」


「一応、所属をウメスタのままにして、プロで言うところのレンタル移籍みたいなことができないかと、契約関係の整理を白坂先生には頼んでます」


 すでに濱崎の意向を受けて裏で動き始めているという糸瀬。しかしながら社会人サッカーの選手にレンタル移籍は馴染みがない。そもそも年俸もなく複数年契約でもない選手にとって完全移籍もレンタル移籍もないだろう。



「移籍先の候補とか、あるんですか? 真田の能力を正当に評価してくれるところがあればいいんですが…。仮にあったとしても、結果としてそのチームに選手を取られるようなことになる気もします」


「候補はあります。まだ決まってはいませんが、交渉のカードとして考えているところです。…せっかくなので、アローくん。ちょっと俺に話させて」



 糸瀬が皆の前に立った。ひとりひとりの顔を見てから軽く咳払いをする。




「先程アローくんが、来年ではなくその先を見据えるという話をしてくれて、俺もその通りだと思う。そのために俺の考えてることをみんなに話したいから、時間を少しください」



 これまでは、なんとなくJリーグを目指すんだという漠然とした希望を胸にただ走ってきたが、曲がりなりにも糸瀬はクラブチームを運営する人間として、多くの人と接して学んできた。そして黒船カップを通して自分たちの立ち位置を知った。



「改めて、今日は南紀ウメスタSCの運営会社である黒船サッカークラブとして、このクラブをどのように成長させていくか。どういうクラブを目指すのか。それをお伝えします」



 今はもう明確に自分の中でビジョンを持っている。今度はそれをクラブ全体に浸透させるフェーズに移行しよう。そのための戦略会議だ。






つづく。

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