第31話 県2部リーグ第2節
(簡易人物メモ)
オレンジ熊野(2): 黒船ch 実況担当
真弓一平(7): 黒船ch 解説者
木田(3): 南紀ウメスタSC データ収集班
真田裕太(2): 真田宏太の弟。木国高校1年生
キッズサポ: 西野裕介、真田翔太、下村健人
※選手は割愛
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【04.28 14:00 市民陸上競技場 観客席】
2019年4月28日、ゴールデンウィークに差し掛かろうという実に中途半端な日曜日に、和歌山県社会人サッカーリーグ2部の第2節が行われる。
会場は和歌山市内の市民陸上競技場。そこが本日対戦するコルサントFCのホームスタジアムというわけではないので、厳密には中立他開催といった表現になるのかもしれないが、黒船サッカーパーク以外の場所で試合をするという点においては、いわゆるアウェイゲームであった。
「アウェイに乗り込んでこそ本物のサポーター!」
「さぽーたー!」
本日もキッズサポーターとして周囲から認知されている、西野家、真田家、下村家の子供達が、黒船が用意したサポーター専用シャトルパスから揃って飛び降りた。
ホームゲームでないことから、サポーターの人数は前節の半分、100人程度となったものの、それでもこれだけの人数が集まるチームは県2部リーグにおいて南紀ウメスタSCだけであろう。
『ーーー和歌山県社会人サッカー2部リーグ、本日はその第2節、コルサントFC対南紀ウメスタSCの試合をお送りいたします。実況はわたくしオレンジ熊野! 解説は開幕戦に引き続き、黒船サッカークラブの真弓さんです!』
『よろしくお願いいたします』
『えー、本日はアウェイゲームということで、我々もクラブの方でセットした記録用のカメラ映像をライブで見ながら実況するという形式を取らせて頂きます。ーーーさて、本日の試合についてですが、登録メンバーに変更があったようですね、真弓さん』
『あ、はい。新加入の選手がいます。すでに黒船chで選手の紹介動画を見られた方はご存知かと思いますが、関大和歌山高校の元サッカー部という経歴の三瀬くんですね』
『現役高校生ということで、フレッシュな新戦力ですね! あ、本人から試合前にコメントももらっています。えー…「筋肉痛でキックの精度が落ちたらどうする。許さん下村」だそうです!』
『えー、はい…あの、非常に独特な選手で…』
「おもしれーじゃん、三瀬くん」
観客席に腰を下ろしたウメスタサポーター改め、南紀ウメスタSCデータ収集係を命ぜられた木田が、イヤホンから聞こえる実況に笑みを浮かべた。
「みせがくと! 背番号8! 身長175cm! ポジションはトップ下! プレースタイルはファンタジスタ!」
木田の隣で、選手紹介動画を丸暗記したキッズサポのひとり西野裕介が得意げに仲間内に情報を披露する。プレースタイルがファンタジスタってなんだよ。
『ウメスタのスターティングイレブンが発表されました。GK礒部、DF右から大橋、下村、岡。ダブルボランチは相川と大西。ウィングバックに西野と江崎、トップ下に三瀬、2トップは小久保と真田です。ーーー真弓さん…これは驚きましたね。新加入の三瀬を先発起用するだけでなく、西野を右ウィングバック、他にも左右で立ち位置が入れ替わっている選手もいますね』
・・・・・・・・・・
小久保 真田
三瀬
江崎 西野
相川 大西
岡 下村 大橋
礒部
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どこからともなく取り出したホワイトボードに木田が今日のフォーメーションをまとめる。
変わっているのは中盤だ。三瀬のトップ下起用よりもサプライズなのは、西野裕太のウィングバック起用であろう。
「西野の右サイド起用はどういう意図なんだ?」
「運動量ですかね」
本日のキッズサポ保護者担当である真田家次男の真田裕太がつぶやく。木国高校入学おめでとう、裕太くん。
3バックのシステムはウィングバックにかかる体力的な負担が大きい。従ってスタミナに自信のある選手を配置するのは理に適っているが。
当人の弟である西野裕介曰く、守備は不安とのこと。もしかしたらそれが理由でボランチの配置が左右で入れ替わっているのかもしれない。カバーリングに優れた大西を西野のそばに置くことで、右サイドの守備力を補っているという見方もできる。
いずれにしても見どころのある試合になりそうだと。期待に胸を高鳴らせて観戦していたサポーターは多かったことだろう。
「………」
前半40分。
開幕戦のゴールラッシュが嘘のようにウメスタの攻撃は停滞していた。
『えー、もう前半も終わろうかというところですが、スコアは0-0と動きはありません。…ここまでいかがですか、真弓さん』
『そう、ですね…うーん、正直うまくいってないですね』
『原因はなんでしょうか?』
『えー、原因は…』
「三瀬だな」
「三瀬ですね」
「みせ!」
歯切れの悪い解説者に代わってサポーター達が一斉に声を揃える。
全体的に守備は問題ない。不安視されていた西野も、おそらく本人が相当意識してのことだろうが、ほぼ最終ラインに近い位置をキープしているため、ウィングバックとしてそれでいいのかという指摘は甘んじて受けるべきだが、守れてはいる。
問題は攻撃である。本来ボールを奪ったらすぐにカウンターに転じたいところだが、三瀬が勝手にドリブルでひとりだけ抜いてみたり、FW以外の選手を経由して組み立てたりするので、ボールがシンプルに前へ進まないのだ。そうこうしている内に相手DFラインが整ってしまい、攻めあぐねる。これの繰り返しだった。
『ここで前半終了、スコアは0-0です! 真弓さん、後半に向けて修正点はどこでしょうか?』
『えー…戦術を選手に浸透させるべきですね』
『戦術ですか?』
『いつも通りカウンターに徹するならそれで構わないですし、ボールを持って攻めるんだったらそれでも良いとは思いますが、選手間で意思の統一が図れていないため、見えないところも含めてミスが目立ちました』
『なるほど、ありがとうございます。それでは後半に期待しましょう!』
【04.28 15:00 市民陸上競技場 ロッカールーム】
ドン!と大きな音がロッカールームに響き渡った。
「おまえふざけんなよ、なんで練習通りにやらない!」
「おい、大西やめろ!」
ロッカールームに戻るなり三瀬に掴み掛かった大西を、小久保が無理やり引き離した。
「な、何が悪いんですか…! うちがボール持って試合をコントロールしてたじゃないですか」
「はぁ? ボール支配率ごっこでもやるつもりか? 勝たなきゃ意味ねえんだよ!」
「だからこのままやれば勝てるって言ってるんですよ、わたしは!」
「勝てなかったらどうするんだ」
後から入ってきた監督の下村が二人の間に割って入った。
「どうするって…」
「おまえひとりがみんなと違うやり方でやって負けたらどうするんだ? おまえのせいになるだろ。おまえ、試合終わった後、サポーター全員、スポンサー全員、親会社の全員に頭下げて回るのか?」
三瀬は言葉に詰まった。揚げ足を取る余地すら与えない迫力が下村から伝わってきたからだ。
「サッカーってのは試合に負けたら全部監督のせいなんだ。だから俺が頭を下げて回るんだよ。でも監督のせいになるのはな、選手が監督の言う通りにプレイするからだ。だから試合で選手はミスしたって責任を取らなくていいんだ。もしその前提が崩れたら、もうそれはクラブチームサッカーとは言わないんだよ」
下村は振り返ると大西に鋭い眼光を飛ばした。
「大西、さっき三瀬に言ったこと、なんでゲーム中に言わなかった?」
「え?」
「ゲーム中でもポジション近いおまえは三瀬と話して認識のすり合わせをしてもよかったんじゃないのか?」
大西は押し黙るしかなかった。三瀬にボールを集めろというのは試合開始前に下村が全員に対して伝えた指示であった。だからそれを前提として考えてしまっていたのだ。
下村はホワイトボードに掌を叩きつけた。
「いいか、全員。これから新しい選手はどんどん入ってくる。対戦する相手のレベルもどんどん上がってくる。予想外のことなんていくらでも起きるぞ。サッカーにタイムアウトはない。そういうときは選手同士で話し合って、常にプランの軌道修正をやってくれ。それと…」
下村は皆に向かって静かに頭を下げた。
「前半は俺のミスだった。申し訳ない。ーーー後半、三瀬に変えて上田。それ以外はこのままでいく」
『うぇす!』
全員が声を上げた。三瀬は何も言わなかった。下村が各選手に声をかけながら回る。
新しいユニフォームに着替えた真田は、隣で先程のやりとりを呆然と眺めていた西野に声をかけた。
「西野」
「あ、真田くん。…やっぱりすごいね。社会人サッカーはアマチュアなんだけど、でもプロって感じだ」
木国高校の部活動は確かにこういった雰囲気にはならなかった。良い意味で学校のクラブ活動の延長線上の、和気藹々とした空気が常にあった。ただ個人的には今日のような空気も好きだった。
「点を取らなかった俺にも責任がある。先制点取ってれば違った展開だったかもしれない」
「それは、でも三瀬くんの出すタイミングが遅くてDFが張りついちゃったからで…」
「…おまえも三瀬のせいにすんのか?」
「え?」
真田の言葉が意外だったのか、惚けたようにこちらを見つめる西野を横目にボトルの水を口に含む。
「いつも最高のパスが来ることなんてない。DFを1人背負ってようが2人背負ってようが、ぶち抜いて点を決めるのが俺の仕事だ。だから、この展開は俺のせいなんだ。それに、おまえにだって責任はあるだろ」
「ぼ、僕にも…?」
「右ウィングバックの立ち位置はもっと前だろ。前にお前が張ってれば、三瀬じゃなくてお前を経由してサイドからボールを供給することだってできたんじゃないか? だからお前のプレイ次第で前半のような展開にはならなかったかもしれないんだよ」
西野は息を呑んだ。そして考えを切り替えようと真田を追いかけて水を飲み干す。
そうだ、全員がそれぞれ自分のせいだと思って反省して、そこから改善していけばいいんだ。そうやってチームは強くなるのだと西野は気がついた。
「後半そのまま右に入るんだから、さっき言ったことやってみろよ。練習では三瀬のパスからサイドを抉る展開が多かったけど、ぶっちゃけお前からのクロスは全然アテになんねえ。それよりお前を起点にして、小久保さんに高いボール入れろ。小久保さんが決めてくれるかもしれないし、こぼれたら俺が押し込むよ」
「わ、わかった。あんまりロングボール得意じゃないけど、走りながらのクロスよりは簡単そう」
「だろ」
ーーー後半、ウメスタは本来の調子を取り戻したものの、前半接戦だったことで相手も自信をつけたのか、膠着状態が続いていた。
動いたのは後半15分。真田の個人技により獲得したペナルティキックにて先制点を奪うと、それまで耐えていたコルサント側の集中力が切れてしまったのか、一気に流れがウメスタに傾いたのである。
黒船公式SNSのマンオブザマッチは真田。チーム最低点だった三瀬とは対照的に、右サイド起用の西野は及第点を与えられた。
コルサント 南紀ウメ
0 ー 2
60' 真田(PK)
71' 真田(西野)
※括弧内の選手名はアシスト
つづく。




