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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン0(2018)

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第20話 エキシビション(vsシ和歌山)③


【02.24 15:00 黒船SP ロッカールーム】



 弟である西野裕介にしのゆうすけの半保護者として観戦にきていた西野裕太にしのゆうたはとても満足していた。


 真田宏太さなだこうたのプレーを観客席から見たのは2年生の時以来で、それだけでも懐かしかったし、さらに前半終盤に相手ディフェンスを切り裂いたあのドリブル突破は震えた。関西1部に所属するようなチームでも彼は止められないのだ。同じチームメイトとしても誇らしかった。


 なので、まさか自分がプレシーズンマッチのハーフタイムを南紀ウメスタSCのロッカールームで迎えることになるとは夢にも思わなかった。


 選手たちから受ける視線は、希望、好奇心、懐疑、様々であると感じた。選手兼監督の下村が一歩前に出る。



「西野くん、さっきチームのみんなとも話したが、真田を信じてみようと思う。ーーー真田、話してくれ」



 西野を呼び出した張本人である真田が、監督に代わって西野の前に立った。



「西野、試合見てただろ、正直手詰まりだ。助けてほしい」


「て、手詰まり? あんなに良いゴールだったのに」



 セットプレイ前からの一連の流れはまさに理想的な展開だったはずだ。真田の個人技が光り、ウメスタの強みである高さを活かして得点まで奪えた。



「2回目もうまくいくとは限らないよ。相手も警戒してくる。仮にうまくいったとしても、最後のワンプレイ以外は防戦一方だった。こっちが同点にする前に相手に一点取られたら終わりだ。相手の攻撃回数を減らさないといけないんだ」



 理屈は分かったが、それと自分が後半から出場することが繋がらなかった。


 相手の攻撃回数を減らすということは、此方がボールを持つ時間を長くする。つまりシステムで言うところの中盤、MFのところを改善したいのだ。



「俺、中盤なんてやったことないけど…」


「分かってるよ。3年一緒にやってるんだぞ。中盤には俺が入る」


「え!?」



 西野は思わず大きな声を上げた。真田を中盤で起用するなんて、高校時代では一度もなかったことだ。


 もちろん真田はテクニックに優れた選手であり、真ん中のポジションでもそつなくこなせるかもしれないが、ただそれは相手ディフェンスの密集地帯に真田を置くということであり、つまり彼の良さである突破力を犠牲にすることを意味した。



「さ、真田くんは前にいた方が絶対いいよ。あそこにいたから点取れたんだよ。後半はどうやって点取るの?」


「だから、お前がやるんだよ」



 真田の言葉に耳を疑う。



「むむむ、むりだよ! 真田くんの代わりなんてできるわけない」


「代わりじゃないだろ。そもそもお前の本来のポジションじゃないか」


「そ、そうだけど。俺は足元だってうまくないし、足も別に速くないし、何の取り柄も…」


「西野。チームのみんなに今お前が言ったことはもう伝えてる。飛び出すタイミングの駆け引きとスタミナが武器の選手だってな」



 裕太はまっすぐに真田を見つめた。驕るつもりはないが、彼は本心からそう言っていると感じた。そんなこと高校時代一度も言われたことはなかった。



「基本的な流れは前半と一緒だ。カウンターのチャンスはある。やれるだろ、西野」


「そうそう、自信持とうぜ! 全国行ったチームで3年の時にベンチ座ってたんだろ」



 後ろから声を上げたのはキャプテンの大橋だった。実は彼が一番西野の出場に反対していたが、監督の下村の決断によって、今ははっきりと気持ちを切り替えていた。


 裕太は未だふわふわした気分で渡された11番のユニフォームに袖を通した。


 それでも真田と一緒にプレイできる嬉しさが徐々に大きくなる。あぁ、こんなことなら引退した後もっと練習しておけばよかった。


 後半の45分がまもなく始まる旨の場内アナウンスが聞こえてきた。大橋を中心にチームは円陣を組む。仲間同士でしか感じることのできない肩の圧力を裕太はしっかりと実感していた。



【02.24 15:15 黒船SP ホームサポーター席】



 選手交代の内容にウメスタのサポーター席はどよめいた。先程観客席にいた人間がピッチに立っているなんて、漫画みたいな話だし、練習試合だからこそ許される展開なのだろう。シェガーダ側はそんな事実を知りようもない。


 子供達を中心に選手交代時の大騒ぎっぷりはすごかったが、本人の弟である裕介は不安気な眼差しでピッチを見下ろしていた。



「ポジションが変わってる…」


「宏ちゃんが二列目で、裕介の兄ちゃんが一番前だよ!」


「裕介の兄ちゃんで点取るつもりなんだ!」



 子供達の驚きの声に周囲が呼応する。一点目の立役者を差し置いてまでフォワードとして起用されるくらいすごい選手なのかと、そういった声が大きくなるにつれて、裕介の表情は曇っていった。観客席に混ざって試合を見ていた糸瀬が話しかけた。



「裕介くん、どうした?」


「…みんなが言うほど、兄ちゃんはすごくなんかないよ。宏ちゃんは木国高校のエースで全国行ったすごい選手だけど、兄ちゃんは試合に出てなかったし、出た試合も負けちゃったし。兄ちゃんのシュートなんて俺でも止められるんだよ」



 糸瀬は裕介の言葉を聞くと、暫し考え込むように腕を組んでから、肘で隣に座る木田を小突いた。木田は慌てながらもその意図を理解する。



「前半でやっていたDFラインからロングボールを上げて真田を走らせるやり方から、後半は真田を経由して攻撃する細かいパスからのカウンターに切り替えています。おそらく西野が真田の代わりをやっているから、ウメスタに新しい攻撃オプションが生まれてるんだよ」


「でも全然パスが通らないよ。兄ちゃんもボールもらいにいけばいいのに」


「いや、きっとそういう選手じゃないんだ。足元でパスを受けて個人技で勝負するんじゃなくて、ボールを持っていない時の動きーーーオフザボールの質で勝負するタイプのフォワードなんじゃないかな」



 あの細かいDFラインとの駆け引きの繰り返しは、そういうタイプの選手であるように感じる。


 糸瀬は裕介くんの肩を叩いた。いつのまにか他の二人もピッチではなく此方を向いている。



「信じようぜ。俺は下村監督は勝つために全力で戦ってると思う。裕介くんの兄ちゃんのいるこのメンバーが、一番勝てると思ってるはずだよ。だから、信じよう」



【02.24 15:35 黒船SP The field of play】



 後半も30分を過ぎた。スコアは依然として1-2。意外にも相手の攻撃が怒涛のように押し寄せてくるかと思いきや、むしろ相手の攻めのクオリティは明らかに落ちている。


 オフシーズンであることでコンディションが整っていない、つまり疲労が原因だと思われるが、途中から投入された西野がめちゃくちゃに走り回り、相手ボールホルダーにプレスを掛けているので、余裕を持ったパス回しができなくなっていることも理由のひとつだと思われた。



「真田」



 ボールが切れたところで、ポジションを変えて距離の近くなった大西に声を掛けられた。



「西野の方がうまくやってるぞ」


「…ほんとっすね」



 西野を励ますために余裕のあるフリをして後半に臨んだが、なかなかどうして。360度敵に囲まれた中央のポジションはまるで勝手が違った。ボールの中継点にはなれているが、それだけだ。西野の方が自分の持ち味をよほど出せている。



「そろそろ点取らないときつい。リスク取るぞ」


「リスク?」


「ディフェンスはシモさんたちに任せて俺が上がるから、お前も上がれ」


「…なるほどっすね」


「俺はそんなうまいパスなんてできない。視野も広くない。だからお前の得意な右に開いてろ。俺はそっちしか見ないから、必ずパス出してやる」


「西野と被りますよ」


「そこは西野のアドリブを信じよう。ここまでやってくれてるんだ」



 軽く背中を叩き合ってからそれぞれの持ち場へ戻る。チャンスはすぐに訪れた。


 痺れを切らした相手がゴール前に放り込み、疲労の色が見える下村が気合のヘッドでボールを弾き返すと、下がらずにピッチ中央のポジションに留まっていた大西の下へボールが転がった。


 大西は即座に振り返り、オープンな展開となり空いている中盤を利用してドリブルで駆け上がると、鋭いパスを送った。



「10番!!」



 相手DFの声を追いかけると、これまで動きの少なかった真田が右斜めに一気に走り出し、パスが繋がっていた。久しぶりの広いスペースだ。


 ここまでの動きで明らかにチームのキープレーヤーであると認識されたのか、最終ラインを含めた3人の選手が真田に向かって猛然と走り出す。それは10番さえ止めればそこで終わるという、シェガーダのわかりやすいメッセージだ。


 逆にそう相手が思ってくれたことが、後半に入り、必死に相手のマークを受けながらも無理やり真田がボールを収めてきたことの恩恵だった。



「フリーだ!!」

 


 真田は一番自信のあるドリブルを選択しなかった。代わりにふわりとした浮き玉のパスを中央に送る。


 後半を通じて練習してきた下手くそなラストパスの精度が、ようやく自分の思い描いていた軌道と噛み合った瞬間だった。


 真田が右に走り出したのと同時に、中央へポジションチェンジしていた背番号11は、真田のボールをトラップミスしてボールをこぼしてしまったが、その予測不能な動きが、迫っていた相手選手を抜くことにも繋がった。


 一歩先に追いついた西野が、無人のゴールへ弱々しいボールを流し込む。


 最後に抜き去った相手選手は、ゴールキーパーであった。


 ゴール裏に陣取っていた深緑の大応援団は一様に静まり返り、そのすぐ前で惚けていた西野は、左サイドに走り込んでいた長身の小久保に押し倒された。


 疲れているだろうに、馬鹿みたいに全力疾走してきたキャプテンの大橋がそこに覆い被さる。歓喜の瞬間である。


 タイミングを逃した真田は、ホームサポーター席の方を指差してから大きく片手を挙げた。


 100人の波が歓声とともに唸りを上げていた。



 2019年2月24日、南紀ウメスタSCは関西1部シェガーダ和歌山とのプレシーズンマッチに臨み、2-2の引き分けで初戦を終えた。



 南紀ウメ       シ和歌山

  2     ー     2

 大橋  46'     山口  20'

 西野  80'     山口  35'






つづく。

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