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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン0(2018)

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19/115

第18話 エキシビション(vsシ和歌山)①


【02.24 12:30 黒船サッカーパーク前】



 2019年2月24日、14時のキックオフを控えて、南紀ウメスタSCのサポーターグループ「ヤマト」のリーダーである高橋は、試合会場となる黒船サッカーパークの、ホームサポーター用の入場ゲート前に立っていた。駐車場からスタジアムへの動線にゲートの説明等案内が掲げられており、現場を知っている人間が準備をしたことがよく分かる。


 目の前を通り過ぎる人は皆、深緑のユニフォームを身に纏っていた。今日の対戦相手となるシェガーダ和歌山のチームカラーである。練習試合とはいえ、しっかりサポーターは木国まで足を運んできたというわけだ。


 高橋はできたばかりのグループSNSに、現場写真と共に「サポーターはゲート前に集合!」とメッセージを残した。数では勝てないかもしれないが、それでも今日はサポーターチーム「ヤマト」としての初舞台。恥ずかしい試合にはさせられない。



「あーーーー!」



 ざわざわしている中でも一際響く甲高い声。ヤマト創業者とも言えるキッズサポーターの登場である。木国JSCに所属する西野裕介、真田翔太、下村健人の3人組だ。今日はそれぞれに保護者がついており、高橋はぺこりと頭を下げた。



「ねえねえ! それユニフォームでしょ! どこで買ったの!?」


「通販で買ったよ。スタジアムでも売ってるみたいだけど…子供用のサイズはないんじゃないかな」


「えー、なんで!」


「社長に言おうよ! 作ってくれるかも!」


「それがいい!」



 一度一緒にサッカーしたというだけで完全に友達扱いである。苦笑する保護者たちの後ろから、徐々に高橋や子供達の声がけで集まってきた人たちが応援団の規模に変わっていく。



「すまん遅くなった!」



 遅れてサポーター4号の木田が現地に到着した。強制的に買わせたユニフォームが寒空の下で光っている。その隣にいるのは。



「車停めたとこが隣でさ、成り行きで一緒に来たんだけど、ウメスタ応援してくれるってさ」


「あ、はじめまーーー」


「あーーーー!」



 自己紹介を途中でぶった斬ったキッズが木田の隣にいる男を揃って指差す。



「社長!」


「えっ!?」


「社長だよ!」


「…あ、はい。社長の糸瀬です。はじめまして」


「社長!?」



 南紀ウメスタSCを運営する黒船サッカークラブの社長こと糸瀬がひとりぼっちでヤマトに合流した。さすがに社長に会えるとは思っていなかったルーキー応援団の面々がさすがにどよめく。



「えっ!? 社長もゴール裏で見るんですか?」


「うん」


「VIP席みたいなのないんすか?」


「ないんだなこれが」



 南紀ウメスタSC応援団111人+1人が、揃って入場ゲートを潜る。さぁ開戦だ。



【02.24 13:00 黒船SP DJブース】



「え、アナウンスって男がやるの?」



 場内アナウンスなどが行われるスタジアムのDJブースに黒船ターンアラウンド代表の細矢悠ほそやゆうと、スタジアム管理スタッフとなった進藤唯しんどうゆい、そして新米弁護士の白坂しらさかの3人が集まっていた。



「なんか調べたらぁ、サッカーは男がやってること多いみたいよ。声優さんとか?」


「そうなんだ。ウグイス嬢というからには女性なのかと」


「それ野球の話でしょ。だから連れてきたよ、先生を」



 進藤が両手を白坂に向けて差し出すと、指名された白坂は恥ずかしそうに頭を掻いた。



「え、白坂先生がやるの!?」


「進藤さんに言われたので来ました…」



 見た目完全にもやしっこである。黒船メンバーの中で一番合わなそうな人材を持ってきた。



「だって試合当日一番やることないじゃんこの人。施設のことは私に任されてるんだから、私が決めていいでしょ?」


「指名する方もする方だけど、受ける方も受ける方だな…。じゃ、じゃあ、白坂先生よろしくおねがいします」



 白坂が緊張の面持ちでブースに座り、マイクを握りしめる。



「ま、まもなく試合を開始いたしまあす! み、みなさま…応援の準備はよろしいでしょうかあ!?」



 裏返りながらも選手宣誓かの如き声量でスタジアムに響き渡るもやしっこの声は、それはそれで謎の迫力があった。


 両チームのサポーターもアナウンスに合わせてチーム名をチャントしたりして付き合ってくれている。



「おお、すげえ。サッカーっぽい! 白坂先生やるじゃないですか!」


「あはは、ありがとうございます…。これでも大学時代は合唱部でしたから」


「えええ、似合わなーい」



 進藤が耳に手を当てる。イヤホンはスタジアム外で物販に勤しんでいる福島亜紗ふくしまあさと繋がっていた。



「ーーーあ、やば。マイク切れてないって先生」


「先生なにやってんですか!」


「すすすすみません、初めてなものでえ!」



 マイクを切って、スタジアム全体を見渡せるブースの外へ目を向ける。佐藤の集計によると、南紀ウメスタSC側の入場者120人。何にも実績もなく、バックグラウンドも持たない、得体の知れない会社が運営するチームに100人の応援団が集まってくれたことには感謝しかない。誰かまとめてくれた人がいるのだろうか。


 しかし一方で、関西1部リーグに所属する強豪シェガーダ和歌山側の入場者数はなんと800人。総数としては想定通りの1,000人弱であったが、その差は歴然であった。練習試合であってもしっかりチームを支えるその姿を、自分たちも目指さないといけない。



「…桶狭間の戦いだな」


「本当にそうなるといいですね」



 白坂の言葉に細矢が振り向く。自虐を含んだ独り言は勇気の言葉に変わった。人数が多いからと言って勝てるわけではない。さぁ開戦だ。

 


【02.24 12:00 黒船SP ロッカールーム】



 やや時は遡って、2019年2月24日午後12時。観客がスタジアムに集まってくる少し前、14時のキックオフを控えた南紀ウメスタSCの面々は、黒船サッカーパーク内のロッカールームに集合していた。


・・・・・・・・・・


  小久保 真田


    上田

伊藤      江崎

  大西  相川 


  岡 下村 大橋


    礒部


・・・・・・・・・・


 ホワイトボードにスターターの11人の名前が張り出されていた。去年のメンバー中心でありながら、1月にセレクションを経由して加入した選手は全員が頭から出場予定である。


 攻撃のキーマンである真田の起用方法については、直前まで結論が出ていなかったが、結果としては出し惜しみなし、ベストメンバーでの布陣を選択した形となった。



「よっしゃあ! やったろうかい」



 分かりやすく気合のこもった声を上げたキャプテンの大橋大地おおはしだいち(#3)が、バシバシと手を鳴らす。選手兼監督の下村健志しもむらたけし(#5)と大橋の二人が、如何に相手の攻撃を跳ね返せるかが鍵となる。



「礒部、練習通りにばんばん言いたいことは言っていけよ」


「ういす」



 下村に声をかけられたゴールキーパーの礒部力也いそべりきや(♯1)は、ヒラヒラと手を振りながら相槌を打つ。DFの要は最終ラインのセンターバック3人であるものの、礒部は最後の砦として、味方のミスや相手のファインプレーを帳消しにする活躍が求められる。



「大西、試合中に指示するが、自分で判断して動いていいからな」


「はい、やることはやりますよ」



 ボランチにて先発起用の大西亜誠おおにしあせい(♯6)は、相手の攻撃の芽を摘む役割を任されていた。最終ラインの手前で動き回り、相手のパスコースを消していく。大西が機能すればするほど、相手の攻撃回数自体を減らすことができる。



「小久保と真田は練習の時に伝えてる通りだ」



 基本的な戦術は去年と同様。守備はみんなで頑張って、ボールを奪取後に素早いロングパスからのカウンター。


 長身のポストプレイヤーである小久保亮二こくぼりょうじ(#9)の今日のミッションはゴールではなく、身体を張ったボールキープであった。味方が攻め上がる時間を作り、攻撃の確率を上げていくためだ。


 一方の真田宏太さなだこうた(#10)は攻撃の主軸である。ロングボールの落下地点によって、小久保と連携してボールを前に運んでいくか、一発で抜け出してシュートを狙うか。臨機応変な対応が求められた。



「真田、守備は頑張りすぎるなよ。体力を残せ。その調整ができるやつだと思ってるから、頭から使うんだぞ」


「はい、分かりました」



 真田は高校時代からのジンクスである赤いリストバンドをつけて、スパイクの紐を調整する。今日が一度はあきらめたサッカー選手としての新たな一歩となる。



「真田、無理にシュート狙いに行かなくてもいいぞ。コーナーキック取れるならそれでいい。俺が頭でぶち込んでやる」


「わかりました。確かにそうですね」



 大橋の言葉に真田は同意する。セットプレイはある意味両軍の実力差を帳消しにできるため、ウメスタにとっては大きなチャンスだ。


 下村185cm、大橋182cm。小久保184cm。身長だけで言えば、Jリーグレベルでも十分強みと言える高さがある。これを使わない手はなかった。



「よーし、みんな聞いてくれ!」



 下村が声を上げると、全員が監督を注視する。



「今日が南紀ウメスタSCの初戦だ。本番は4月のリーグ戦だが、今日のプレシーズンマッチはある意味それよりも重要だと思っている。真弓」



 下村に促され、隣に立っていた黒船サッカーパーク管理部長の真弓が口を開いた。クラブ設立後の経緯はどうあれ、彼の熱意から始まったチームなのである。



「真弓です。この試合で不甲斐ないパフォーマンスをすれば、誰もうちのことを見向きもしなくなるでしょう。黒船とかいうよくわからない人たちがやってるよくわからないチームで終わってしまう。けれど、ここで結果を出せれば、周りの環境はガラッと変わるはずです。このチームは強くなる、応援したい、入りたい、多くの人にそう思ってもらえるかどうかは皆さんにかかっています。どうか、よろしくお願いします!」



 一丸となった掛け声でチームは真弓のスピーチに応えた。さぁ開戦だ。






つづく。

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