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聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。  作者: みやこのじょう


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46話・私がやります

 神官長の執務室から戻ったルーナ達は王子やラスタ、そしてゼトワール隊の面々と共に客室に集まった。


「ふむ、宰相が怪しいのだな」

「まず間違いなく聖女選定に絡んでいるでしょう」


 ハインリッヒから詳しく話を聞きながら、王子が顎に手を添えて唸る。


「王族の婚姻に重臣が口を出すこと自体は珍しくはないが、この件に限っては事情が異なる。下手をすれば次代の王の命に関わるのだからな」


 王子とラスタの婚約関係も、ひと言で表せば政略結婚だ。幼少期に引き合わされた瞬間から相思相愛で、今は自分たちの意志で結婚したいと決めているから何の問題もないのだが。


 アルケイミアの王族、特に直系の男子は魔力量が少ない。故に、ある程度成長するまでは隔離された部屋から出ずに過ごしているという。国を守る結界維持に魔力を吸い上げられないようにするためだ。でなければ、すぐに魔力が枯渇して衰弱してしまう。公務に携わるようになれば閉じこもっているわけにはいかない。だからこそ他から魔力を補う必要がある。王を支える尊い役割を持つ存在はいつしか聖女と呼ばれるようになった。


 聖女候補の選出には幾つか条件がある。


 貴族の令嬢であること。

 一定以上の魔力を持つこと。

 品格と教養を備えていること。


 もちろん、一番重要な条件は『魔力の量』だ。他が幾ら優れていたとしても、魔力が少ない者は絶対に選ばれない。


「宰相が直接審査したり口出ししたりしたわけではないのだろう?」

「神官長殿の話では、どうやら選定官が買収されているようだ、と。最悪、神官長殿以外のほとんどが宰相の思惑通りに動いている可能性が高いとのことです」


 問われたハインリッヒが難しい顔で答えると、王子は乾いた笑いをこぼした。


「なんと。そこまで徹底するのなら神官長も買収してしまえば良いのに」

「神官長殿は職務に忠実というか、真面目というか、頑固な性格のようでして、そんな話を持ち掛けたら間違いなく激昂するでしょう」

「おまえに似ておるではないか」

「はあ、恐縮です」


 ハインリッヒから事の次第を伝えられた王子はにんまりと愉快そうに笑った。また何か悪いことを考えてらっしゃる、と居合わせた家臣たちは冷や汗を流す。


「よし! アルケイミアの宰相の悪事、この私が見事に一刀両断してやろうではないか!」


 言うと思った、と全員が溜め息をつく。そんな中で、ただ一人ルーナだけが「なりません!」と大きな声で反対した。


「グレイラッド殿下はラスタ様と共にシュベルトを背負う御方(おかた)。反感や恨みを買うような振る舞いは極力お控えください」


 もしアルケイミアから敵視されれば両国の友好関係にヒビが入ってしまう。国境を接している国同士に諍いが起きれば国民に類が及ぶ。


 いつもは気弱なルーナが毅然とした態度で意見を述べている。全員の視線が銀髪の令嬢に釘付けとなった。


「私は(みずか)らの意志で出奔した身。失うものなど何もありません。私がやります」


 しん、と静まり返った客室内。しばらくして、小さな拍手が聞こえてきた。ラスタだ。彼女はルーナの言葉に(いた)く感激したらしく、目の端に涙を浮かべている。


「殿下とわたくしの立場を考えてくださって。ルーナ様、なんてお優しい……」


 ラスタに続き、ゼトワール隊の騎士たちからも拍手が巻き起こった。特にディルクがやかましく、リヒャルトから脇腹に肘鉄を喰らって強制的に大人しくさせられていた。


「とはいえ、証拠はないのだろう? あちらも長年宰相を務めているだけあってやり手の政治家だ。疑念をぶつけるだけでは言いくるめられて(しま)いだぞ」


 王子の意見はもっともだ。当然ルーナも考えなしに行動するつもりはない。


「私の親友が証拠を集めてくれております」


 ルーナはにこりと微笑んでみせた。


「それと、私もやらねばならないことがあります」








 同時刻。ラウリィはアルケイミアの王宮の回廊を歩いていた。若く凛々しい銀髪の騎士が歩く姿を見つけ、サロンでお茶会をしていた貴婦人たちがどよめく。


「もし。貴方、どちらのお国のかた?」

「隣のシュベルトから参りました。主人(あるじ)(はぐ)れてしまい、難儀しております」


 銀髪の騎士が見せた憂いを帯びた表情に、その場にいた全員が胸を高鳴らせた。


「まああ、それは心細いでしょう。よろしければ、こちらで少し休憩していってくださいな」

「いえ、任務中ですので」

「遠慮なさらないで。さあ」


 ついにサロンの中にいた貴婦人がみな回廊に出て、ラウリィの腕を掴んで中へと引きずり込もうとする。そこへ王宮警備の兵が駆け付けてきた。アルケイミアの貴族だけではなく、近隣諸国から招かれた貴族の夫人や令嬢もいるため、厳しく取り締まることができない。少しでも見目が良い兵士はラウリィの巻き添えを食い、ちょっとした騒ぎとなった。


 ティカは王宮勤めの侍女服に身を包んで一人で廊下を歩いていた。目立つ褐色肌はおしろいで隠している。至近距離で見られない限り見破られることはないだろう。


「ここですね」


 ティカは幾つかある扉の一つの前で立ち止まった。


 他より重厚な造りの大きな扉の向こうには宰相の執務室がある。現在インテレンス卿は他国の宰相たちを招き、大広間で歓談中だと事前に調査済みだ。普段は警備の兵が複数廊下を行き来しているが、今は階下での騒ぎに駆り出され、最低限の人員しかいない。


「待て。宰相閣下の部屋に何の用だ」


 呼び止められたティカは深々と頭を下げ、被せていた布を外して(うやうや)しく籠を掲げてみせた。


「先ほど閣下から頼まれまして、お部屋の清掃に参りました。お出掛けの前に茶器を落として割ってしまったそうで」


 籠の中身は雑巾や割れ物を入れるための容器などである。中身を(あらた)めた兵は「入って良し」と許可を出した。礼を言って中へと入ったティカは、先ほどまでのしおらしさなど微塵もない悪い笑みを浮かべる。


「さあて、ルーナお嬢様の期待に応えなくちゃ」


 扉に内鍵を掛け、持っていた籠を床に置く。腕まくりをして気合いを入れると、ティカは真っ先に執務机の中を(あさ)り始めた。


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