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聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。  作者: みやこのじょう


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44話・神官長の懺悔

 込み入った話になりそうな流れを察したラウリィは、わざとらしく咳払いをして場を仕切り直した。


「その前に、ルーナ嬢に返却せねばならないものがありますよね?」

「ああ、そうでした」


 促された神官長はすぐさま執務机に向かい、鍵付きの引き出しから木製の箱を取り出した。それを手にソファーに戻り、テーブルの上に置く。


「壊れた留め具は職人に直させました。元通りになったとは思いますが」


 言いながら、蓋を取り外す神官長。箱の内側には艶やかな布が敷かれ、見事な銀細工の首飾りが収められていた。ルーナの目が首飾りに釘付けとなり、次の瞬間、嗚咽と共に大粒の涙がこぼれて膝を濡らしていく。


「お母様の、首飾り……」


 差し出された箱に恐る恐る手を伸ばし、そっと触れ、持ち上げる。確かにあの日奪われた首飾りだ。エクレール伯爵夫人の話が真実ならば、産みの母親の形見であり、自分の出自を示す唯一の品である。ルーナは首飾りを大事そうに胸に抱え、涙をこぼした。


「首飾りを『魔力増幅』の魔導具だと疑っていたそうですね。ルーナ嬢は聖女候補に選ばれるより以前から身に着けていたそうですが、なぜ最初の選定時ではなく最終選定の際に指摘されたのでしょうか」


 ハインリッヒの問いに、神官長は難しい顔をして俯いた。


「実は、最終選定の直前に匿名での密告があったのです。『ルーナ嬢は魔導具を身に着けている』と。まさかとは思いましたが、実際に首飾りから魔力を感知したため密告を信じてしまいました」


 確かに首飾りは魔導具であり、密告内容には間違いはなかった。ただし、効果は予想とは正反対。魔力を底上げしていたのではなく抑制する効果だったのだ。最終選定の場では怒りのままにルーナを聖女候補から外してしまったが、後に詳しく調べた神官長は愕然とした。


 ルーナは『魔力抑制』の魔導具を身に着けた状態で聖女候補に選ばれたのだ。もし外した状態で選定を受けていれば、イリアをも凌ぐ魔力の持ち主として第一聖女に決まっていたはずである。


「私は不正の疑いが晴れ、首飾りが手元に戻っただけで満足しております。聖女選定の結果に異論はありません。ですので、どうかお気になさらないでください」


 ルーナは自分の意志で聖女になりたかったわけではない。父親がそう望んだからだ。例え愛人の子でも、クレモント侯爵家の役に立てれば必要としてもらえる。愛してもらえると期待して。今さら戻って皆を混乱させるより、シュベルトで穏やかに暮らしていきたい。それが現在のルーナのただ一つの願いだった。


 ところが、神官長の話にはまだ続きがあった。


「今回のルーナ嬢の件は私の早合点が招いた失態だが、実は以前から聖女選定の儀には不審な点が多々あったのです。言い訳のようになってしまいますが、そのせいで神経質になっていたことは否めません」

「不審な点、ですか」


 ハインリッヒに小さく頷き返し、神官長は暗く沈んだ表情で重苦しく言葉を吐き出した。


「選定に携わる神官が買収されている可能性があります。そして、買収している人物は……」


 全員の視線が神官長へと集まる。彼が次に口にする言葉を、固唾を飲んで見守った。


「──我が国の宰相インテレンス卿ではないかと」


 ルーナが小さく息を飲む。


「閣下が?」


 聖女候補から外されたその日のうちにクレモント侯爵家の屋敷へとやってきた。妙に段取りが良い、とティカが(いぶか)しんでいた。部下に女を(なぶ)らせるのが何よりの楽しみだと(わら)う醜悪な表情が脳裏に浮かび、ルーナは青褪める。


 最初からルーナを手に入れるために仕組んでいたのではないか。密告をして聖女候補から外させたのはインテレンス卿の指示だったのではないか。


「では、今回選ばれた聖女は?」

「イリア嬢は問題なく聖女の資格を有しておられます。ただ、その……」


 言いにくそうに口籠もる神官長に更に問う。


「アトラは違うのですね」

「……はい」


 しばしの沈黙が室内に流れた。


 神官長の返答に、ルーナは妙に納得した。父親であるクレモント侯爵ステュードから選定結果を聞いた時、なぜ三番手の令嬢ではなくアトラが選ばれたのか疑問に思った覚えがある。


「ルーナ嬢の代わりに第二聖女を選ぶ際、私は別の令嬢を候補に挙げました。しかし、私以外の選定官がみな口を揃えてアトラ嬢を推したのです」


 おかしいとは思いながらも、神官長は多数決で選ばれたアトラを第二聖女に認定した。認定してしまった。同調圧力に屈したと言うべきか、神官長には自分の意見を通すだけの確固たるものがなかった。


「このままでは、聖女の資格のない者が王妃となってしまう。どうか助けていただきたい」


 ついに神官長はテーブルに額を擦り付けるように頭を下げた。


「随分と虫が良い話だ」

「確かに。ルーナ嬢にどうしろと言うの」


 リヒャルトとラウリィが冷ややかな声で責める。流石にハインリッヒも今回は止めなかった。自分も同じような考えだからだ。


 一度は疑って突き放しておきながら、困窮したら無理やり探し出して協力を頼む。身勝手な要求だと誰もが思うだろう。


 しかし、神官長はなり振り構っていられなかった。彼の忠誠心は王族へ、次期国王たる王子ディールモントへと向けられている。王子のためなら何度でも地に額を付ける覚悟がある。


「神官長様を責めないでください。わたくしがお願いをしたのですから」


 突然女性の声が響き、全員が顔をそちらに向けた。廊下側の扉が開き、一人の貴婦人が凛とした佇まいで立っている。その姿を見たルーナが呆然とした様子で口を開いた。


「お義母様(かあさま)……!」と。


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