表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。  作者: みやこのじょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/58

35話・見合う対価

 エクレール伯爵夫人からの助言を受け、治癒のハンカチに魔力を込め直すことで効果が戻るか検証することになった。


 リヒャルトを通じてマルセルに頼み、口が堅い怪我人を数名選定してもらった上で治療院に再訪問した。事前に先日使用したハンカチに魔力を込め直してから持参している。


 効果は施された刺繍の大きさによるが、結果として問題なく怪我は治った。使い捨てではなくなるため、ルーナの負担はかなり軽くなる。しかし、魔力を使い過ぎれば消耗してしまう。結局は大量生産は難しいという結論に至った。


「治療院には毎日たくさん怪我人が運ばれてきて、中には二度と剣が握れなくなるほどの重傷患者もいるんだ。医者は傷口を消毒したり縫うことは出来ても怪我そのものを無かったことにはできないからね。本当に助かるよ」


 時にはどうにも出来ない状況もある。マルセルは治癒のハンカチが起こす奇跡を一番歓迎してくれているようだった。


 ふと、ルーナは初めてリヒャルトと会った時のことを思い出す。あの時の彼は左手首に深い傷を負っていた。適切な処置をしたとしても元通りに動かせるようになるとは限らない。自分に治癒のハンカチを作る能力があって本当に良かった、と改めて実感した。


「このハンカチは治療院に寄贈します。マルセル先生の判断で、必要に応じて使ってください。今後は定期的にティラヘイアから送ってもらうつもりです」


 マルセルにはまだ治癒のハンカチの製作者がルーナだという事実は伏せている。故に、『ティラヘイアから取り寄せる』という言い方をしている。


「ありがとうお嬢さん! 治癒のハンカチさえあれば怪我で命を落とす人が減らせるよ。寄贈と言わず、ぜひ対価を支払わせてほしい!」

「え、でも」

「言い値で買う。希望の金額を言ってほしい」


 対価を支払うと言われ、ルーナは戸惑った。助けを求めてリヒャルトに視線を向ける。


「マルセル先生。ルーナ嬢は寄贈すると言ってくれてるんです。ありがたく受け取ってください」


 リヒャルトの言葉に、マルセルは溜め息をついた。ほとほと困り果てた、といった様子である。


「それがさぁ、先日ディルク君のご実家からすんごい額の謝礼金が送られてきたんだよね。正直扱いに困っててさぁ」

「ああ、なるほど……」


 ディルクは公爵家の三男坊で、シュベルト国内で三本の指に入るほどの資産家である。骨折の痛みに苦しんでいた可愛い末っ子がある日突然元気に歩けるようになり、感激した当主が治療院宛てに多額の謝礼金を送ってきたのだとか。


 ルーナの存在を目立たせぬよう、ディルクには彼女が魔導具を持ってきたという話を誰にも話さぬよう言い含めてある。故に、本来ならばルーナ宛てに送られるはずの謝礼金が治療院へと丸々届けられてしまったのだ。


 マルセルから話を聞いたリヒャルトとラウリィは乾いた笑いを浮かべることしか出来なかった。


「ルーナ嬢、どうする? 感謝の気持ちだ。受け取っても問題ないと思うが」

「いえ。今はゼトワール侯爵家にお世話になっている身です。お金は必要ありません。生活費代わりと言ってはなんですけれど、リヒャルト様に受け取っていただければありがたいのですが」


 今のルーナはゼトワール侯爵家に衣食住の全てを世話になっている。刺繍の材料も、リヒャルトが出入りの商人を通じて仕入れている状態だ。


「離れを一棟貸しているだけだ。たいした負担ではない。そもそも最初に助けてくれた礼には足りん。俺こそ謝礼を支払いたいくらいなのだが」

「こ、困ります!」


 謝礼金をリヒャルトに丸投げしようとしたら逆に増えそうになり、ルーナは慌てふためいた。断固拒否の姿勢を崩さないルーナに対し、ラウリィが口を開く。


「ルーナ嬢は嫌かもしれないけれど、優れたものに相応の対価を支払うのは当然のことなんだよ。見返りを求めない行為は美徳ではある。でも、治癒のハンカチの価値はきちんと自覚しておくべきだ」


 いつになく真面目に説かれ、ルーナは素直に頷いた。気圧(けお)されたと言って良い。


「──ってのは建前だけどね。まあ、ディルクんちはめちゃくちゃ金持ちだし、一度出したものを引っ込めるような半端な貴族でもないからさ。とりあえず受け取っておけばいいよ」


 とはいえ、今のルーナには金銭の使い道がない。ティカと二人、街で暮らしていくのであれば幾らでも必要だが、今はその予定もない。いずれ旅に出る時のために貯めておくべきだろうか、と現実的な計画を頭の中で練り始める。


「ルーナ嬢」


 しかし、思考はリヒャルトによって中断された。


「なにか欲しいものがあれば教えてほしい。恐らく、なにをねだられても即座に用意できるくらい資金は潤沢だからな」

「は、はあ」


 一体ディルクの実家はいくら謝礼金を積んだのだろう、とルーナは恐ろしくなった。そして、欲しいものと言われ、あるものが頭をかすめる。


「……では、考えておきます」


 保留にしている間は受け取らずに済む。とりあえず、ルーナは回答を先延ばしにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ