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2話・聖女の役割

 屋敷に向かう馬車の中、ルーナはずっと黙って俯いていた。右手の指先は胸元に伸び、今はもう無い首飾りを無意識のうちに探している。


 亡き母の形見なのだから常に身につけているように、と幼い頃のルーナに言い聞かせたのは父だ。物心つく前に病で亡くなった母の記憶はない。あの首飾りだけがルーナと母を繋ぐ唯一の品だった。


 しかし、形見の首飾りは魔力増幅の魔導具ではないかと神官長は疑っていた。ルーナの魔力が魔導具によって底上げされていたのではないか、と。


 聖女選定の最終試験まで残った理由は魔導具による不正だったと疑いを掛けられ、ルーナは悲しくなった。実力で候補になれたのだと思い込んでいた自分が惨めで情けなくて、ぐっと唇を噛み締める。


「不正を疑われて聖女候補から外されたなんて、お父様に伝えたらきっとお怒りになるわ。いえ、もうとっくに報せが行っているかも」


 ルーナの父、クレモント侯爵ステュードは王宮に出仕している。今ごろ神殿の使いから話を聞いていることだろう。物凄い剣幕で怒る神官長の姿を思い出し、ルーナは自分の両腕を掻き抱いて身を震わせた。


「私のせいでお父様が、いえ、クレモント侯爵家に迷惑をかけてしまったら……」


 何も知らなかったでは済まされない。

 弁明すら聞いてもらえなかった。





 ──聖女は国を治めるために欠かせぬ存在。


 最も魔力の多い貴族令嬢が聖女となり、王と婚姻を結ぶ。この国(アルケイミア)の王族、とりわけ直系の男子は代々魔力が低く短命である。足りない魔力を伴侶となった聖女に補ってもらうことで王は命を長らえる。


 聖女選定は次期国王となる第一王子が成人となる年にのみ行われる神聖な儀式。不正など言語道断。王家に対する侮辱だと怒る神官長の言葉はもっともだ。






 屋敷に帰り着くと使用人たちが驚いていた。本来ならば帰宅予定は夕方のはずが、今はまだ昼前。しかも、ルーナの顔色は真っ青で憔悴しきっている。なにかあったのでは、と誰もが予想したが、気軽に尋ねられるような雰囲気ではない。ルーナもまだ事態を飲み込めておらず、聞かれたとしても答えられなかっただろう。


 使用人たちに心配を掛けぬよう笑顔を浮かべ、体調が悪いからと自室へと足を進める。


「ルーナお嬢様っ!」

「……ティカ」


 廊下の向こうからパタパタと駆けてきた自分専属侍女の姿に、ルーナは思わず安堵の息をもらした。同時に、こらえていた涙が目の端からぽろりとこぼれる。


「わ、私、聖女候補から外されてしまったわ」

「お嬢様……」


 侍女ティカは震えるルーナの肩をそっと抱き、今にも崩れ落ちそうな身体を支えた。


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