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60 ウィンザルトの王城へ【side アルタイル】

 オレはクレアを馬の前に乗せながら、片手を彼女の腰に回してしっかり支える。


「クレア、ゆっくり走らせたいところだが、まだやるべきことがあって、速く駆けなければならない。しっかり支えて置くから、安心して」

「わかった」


 オレと一緒に騎乗するのは初めてではない。

 貴族学院に入学する前にベルガモット公爵家で何度も乗っているから、大丈夫だと思っていたけれど、なぜか彼女の身体がビクンと跳ねた。

(怖がらせてしまったか……)


 オレは、当時、胸ポケットに入れてクレアと乗馬をしていただけで、クレア本人が馬の背中に跨った経験がないということに失念していた。


 細い彼女の腰を抱きしめながら、クレアの命を繋ぎとめることができた喜びと安堵感で、気持ちは随分と軽くなっていた。


 サーマン公爵家に到着すると、部隊のほとんどが到着して休憩していた。

 オレがサーマン公爵領で女性を助けに向かっていると部隊の者は知っているので、オレの前に女性の姿を確認すると、拍手で出迎えてくれた。


「救出できたのですね!!」

「さすがです!」


 クレアの存在を知っている者は少ない。

 騎士のほとんどが、誰かわからないが救出に成功したということだけはわかったようだ。

 オレは、その場で部隊に待機を命じて、公爵家の玄関まで向かうとサーマン公爵夫人は涙を流してクレアの身を抱きしてくれた。横にいたサーマン公爵の元精霊の当主も、安堵した顔で温かく迎え入れてくれた。


 オレは、ヴィクトル王太子殿下が挙兵してウィンザルト国の王都に向かっているから、その援護に行かなければないとサーマン公爵夫人に伝えると、しばらくこの家でクレアを保護して背中の傷も治療もしてもらえることになった。


「クレア……必ず迎えに来るからここで身体を休めるだよ」

「アルタイル……気を付けてね」


 心配そうに上目遣いで見上げるクレアの表情はとても不安げだ。


「大丈夫。やるべきことはわかっているから。必ず、勝利を収めてて戻ってくる」


 オレはクレアの額にキスを落とすと、そのままサーマン公爵家から部隊を引き連れて王都に向かう。

 ここから王都まで、三日くらいだ。上手くいけば、ヴィクトル王太子殿下の到着と同じくらいに王都に辿り着くことができそうだ。


 王都に向かって、駆け抜けていく部隊を阻む者はまだおらず、ウィンザルト国は迎え撃つ準備ができていない。きっとサーマン公爵領がすんなりレクナ王国軍を通過させているなど、思いもしていないのだろう。レクナ王国軍は脇目もふらずに王都に向かって突撃していく。


 三日目には、王都の目前まで進軍することができた。ウィンザルト国軍の本隊はまだ王都にいるのだろう。王都が戦火になるのは火を見るよりも明らかだった。


 話に聞いていた通り、人間化した精霊にいろいろなことを任せすぎて、私腹を肥やしてまともに訓練すらしていないのだろう。王都に辿り着くまで敵国軍と一戦を交わることは全くなかった。

 先に王都に向かっていたヴィクトル王太子殿下とも王都の手前で無事合流することができ、王都になだれ込むようにレクナ王国軍は閉じられていた城門を突破することができた。


 しかし、そこからのウィンザルト国軍の粘りはやはり目を(みは)るものがあった。

 倒しても倒しても人が減らない。


「ヴィクトル王太子殿下! 少し別行動をとりますがお許しをいただけますか?」


 オレは、魔女Kに教えてもらったことを思い出し、湧き出る人間化された精霊を生み出さないように卵工場の破壊を志願する。もちろん、策がありますとヴィクトル王太子殿下に伝えると、「お前を信じる」とだけ返事をして、戦線から一時的にオレ自身が離脱する許可をもらう。


 オレは、卵工場から離れた場所にあるクレアが捕らえられていたとサーマン公爵家で聞いた場所を訪れる。どこかに逃げてしまったのか、この場所に王族も兵士も配置されていないようで手薄の状態だった。


「玄関ホールの絵画……これか……」


 オレは無言でその絵画を外す。とても重くて一人では持ち上げられそうにない。

 そこへ覇気のない男性が通りかかる。戦いの声がここまで届いているのに逃げるわけでもなく、ただそこにいるだけという感じだ。

(オレが敵だと気が付いていないのか……それとも……)


 彼の髪色を見て、ひょっとしたら元精霊だったのかもしれないと思い至る。

 一か八かでオレは、傍にいた男性にやろうとしていることを告げてみることにした。


「オレは精霊がむやみに作り出されて犠牲になるのには耐えられない。それを止めたいのだが、手を貸してはくれないだろうか」


 言葉を投げかけてみると、曇った瞳をしていた目の前の男性の顔が希望を見つけたかのように光を灯したようにパッと明るくなる。


「わかりました。あと二人ほど呼んで参ります」


 その男性は、近くにいたであろう男性二人に声をかけて連れてきてくれる。

 どうやら、彼らも精霊が永遠に作り出されているこの状況を打破したいと考えてくれたようだ。


「いくぞ、せーの」


 オレは、助けを借りながら大きな絵画を取り外すと、絵で隠されて見えていなかったとてつもなく大きな魔石を見つける。

(魔女Kの言っていたのは、これだな。間違いない)


 オレは、剣を構える。

(あの高さまで届くだろうか。出来る事なら魔石の正面を叩きたい……)


 オレは頭上より遥か上に位置している魔石を視点を定める。

 オレ自身の身体を風魔法で浮遊させようかと考えて思案していた。なぜなら、浮遊することに意識が集中しすぎると剣先へ込める力が弱まるという欠点があるからだ。


 そんなオレの思考を読み取ったのか先ほどの男性三人が床に下ろした、外したばかりの絵画の中からペリペリっと精霊を剥がしはじめる。一枚の絵の中に閉じ込められていた精霊の数は三十人ほど。


 剥がされた精霊も、玄関ホールでのオレの会話を聞いていたのだろう。

 一斉にオレの服をつまむと小さな身体で羽をパタパタと羽ばたかせ始める。

 一人一人とオレの服を掴んで飛翔しようとするたびに、身体が軽く浮遊するのがわかる。


 絵画に貼り付いていた精霊が全てオレの服を掴むと、苦しそうな表情をしながらもオレの身体を大きな魔石と同じ高さまで引っ張り上げてくれる。


「ありがとう。じゃあ、いくぞ?」


 オレはしっかりと剣を構えて、魔石の中心に剣先を向ける。手にいっぱいの力を込めて精霊たちに合図を送った。


「「「行けーーー!!」」」


 オレの声に合わせるように、精霊も声を合わせて最大限の力で壁にぶち当たるように突進してくれる。

 オレは、剣先に硬い感触を感じながらも、歯を食いしばりググググと剣先を押し込んでいく。


 ピキッ


 何かが割れる音がした。


 ピキピキピキ……


 亀裂が魔石に入り、それが拡大していくと一気にパリンと弾けとんだ。

 砕ける時は、一瞬だった。


 オレは、お世話になった精霊にお礼を述べるとその足で卵工場に向かう。

 魔女Kの言っていた通り、卵の生産が止まっていることを信じて。


 オレは、訓練されていないウィンザルト国軍を深く傷つけないように気をつけながら、卵工場に向かう。どれが人間でどれが人間化された元精霊なのか、すぐに見分けがつかないからだ。戦う意志のない者を傷つけたくはなかった。


 レクナ王国軍のヴィクトル王太子殿下とも合流して、城の中にもレクナ王国軍が大挙して押し寄せ制圧する。

 先ほどまで溢れかえっていたはずの人は、もう残っていないのか出てこないし、周りにいる人も安堵感で座り込んでいた。


(卵工場が止まったから、人間化した精霊もこの国の終わりを悟って安堵したのかもしれない)

 戦意のない座りこんだ元精霊と思しき人間は、もうレクナ王国軍に立ち向かってこようとしなかった。


「すまない。ここの王族はどこにいる?」


 まだ、ウィンザルト国を腐敗させた諸悪の根源を捕らえていない。

 オレは、近くに座り込んでいた人に聞くと、王城の地下に逃げ込んだとその入り口の場所を教えてくれる。


「地下通路は迷宮のように入り組んでいますから、お気をつけて」


 王族の逃げ込んだ場所を教えてくれた人にお礼を伝えてから、ヴィクトル王太子殿下の軍とオレは王城の下層階に移動し、教えてもらった場所にあった地下の入り口の扉をこじ開けた。

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